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2.さえずる虫の小うるさいこと

2.さえずる虫の小うるさいこと


「なんてことを言うんだ、実の親に向かって!!」


「本当ね! これだからしつけのなってない娘は嫌なのよ! ああ、やはり前妻の子なんて手元に長く置いておくものではなかったわね!」


「アビゲイル、あなた調子に乗ってるんじゃない! さあ、早くお父様とお母様に謝りなさいよ!!」


私が思ったことを言うと、一瞬時が止まったようになった後、更に激高した両親と義妹がまくしたてて来た。


でも、私にはその様子が猿がわめいているようにしか見えない。


「仮にも貴族なのでしょう? 少し嗜みを覚えられてはいかが? 猿でもあるまいし。それともこれは何? 曲芸か何かのつもりなの? なら成功しているわよ」


「その減らず口を閉じなさい! というか、いつもはおとなしくしているくせに、今日は一体どうしたというんだ。何か悪いものでも食べたのか?」


なるほど。確かにいつもの私は記憶を見るに、いじらしいほどの淑女だったらしい。というか、家族ぐるみでご飯を抜かれたり、私物を隠されたり、いじめられていればそうもなるだろう。


でも、だとすれば、


「そうねえ。食べたとしたらあなたたちの悪意かしら。私は好物だけれども、でも上出来でないといけないわ。でないと曲芸に落ちてしまうわよ、今のあなたたちみたいにね」


そう言って嫣然と微笑んだ。


その笑顔に、両親とマイナの表情がどこか引きつったようになった。


ああ、なるほど。


「微笑むことも、久しぶりだからね。ふふふ、知っていらっしゃって、人間って笑う生き物なのですよ。滑稽なものを見た時ほどね」


それが自分たちを指している言葉だと理解して、ついに堪忍袋の緒が切れたらしい。


父と名乗る男が手を上げた。


「いい加減にせんかぁ!」


そう言って、ビンタをしてこようとする。


「窮鼠猫を噛むと言いますものね」


でも私はそれをヒラリとかわす。ドレスと腰まで届く黒髪がふわりと舞った。そのドレスは色あせていて、繕ったあとが沢山ある事に気づいた。ろくな服も買い与えられていなかったらしい。手入れされていない髪も視界の端に見えた。


「困ったネズミは手を出しがちですもの。予想するのは簡単ですわ。それに女に手を上げる男は最低ですわ。お父様。二重の意味で恥ずかしい人ね、くすくす」


「き、貴様!」


「アビゲイルでしょう、お父様。前妻の娘だからお名前もお忘れになったの?」


「うるさい、今度こそ!」


「いいですけれど、今度手を上げれば、首をねますわよ?」


「な、なに?」


「あら、聞こえなかったのかしら?」


私は微笑みながら、前に一歩出て、お父様との距離を詰める。


まさか近づいてくるとは思っていなかったのか、お父様は少し青ざめた。


あらあら。男性だというのに、気押されてしまって。お可哀そうに。


「女性の顔を打たれようとするのだもの。あなたは首を差し出す覚悟があるということでしょう。寝込みの時か、散歩の時か、それとも屋敷の中を歩いている時か。タイミングは私が決めますけれど、あなたの首と身体は離れることになりますわ。ふふ、それを覚悟なさってね。いわゆる等価交換ですわ」


「そ、それのどこが等価なんだ!」


「顔は女の命ですから。字引きにもありましてよ」


そう言って、もう一度嫣然と微笑んだ。


と、そこまで聞いていた義母が顔をひきつらせながら、しかし憎しみのこもったまなざしで私を見ながら言った。


「あなたの魂胆は分かっているわよ、アビゲイル。次週には横暴領主と言われるキース辺境伯様のもとへ嫁がされるから、その嫌がらせなのでしょう。本当にあさましい浅知恵ですこと!」


「? ああ、そう思われるわけね。ふふ、凡俗の考えそうなことね」


「減らず口を! あなたはそれが悔しいから、今までの腹いせをしているのでしょう! こんな姑息な手段を使ってまで!!」


「私は冷静におしゃべりしているだけですわ。お猿さんのように……。というと、何だかお猿さんの名誉を棄損している気にすらなってきました。だから、もうあえて猿とは言いません。それ以下だと解釈して聞いて頂ければいいのですが……。猿以下と行って差し支えないあなたたちがただブンブンとうるさく無駄口をたたいているだけですわ。私はただ、邪魔だから近寄らないでくださいね、と優しくお願いしているだけですのよ? ね? 寛容であると思いません? こういうのは姑息とは言いかねると思いません?」


それに、


「腹いせなんてする必要ないですのよ。これまでのことはそのうち利子をつけて返してもらうのですから、あなたたちは負債をおってしまったというだけ」


まぁ、私が直接被った被害ではないけれど、取り立てられるものがあるなら取り立てるのが、貴族の嗜みと言うものですわ。


「辺境に行ったら何も出来ませんわ! それが腹いせというのですわ、お義姉様! 悔しいのでしょう、この家の後継者が私になって! 火の能力は私が引き継いだのですから!」


「ふふ、そんなに不自由なつまらないものが欲しいの? 私には理解できないわ。でもあなたが幸せなら、それでいいんじゃない」


冷めた表情でそれだけ言った。


「不自由なつまらないものですって⁉」


「そうよ。利用する分にはいいけれど、その力に頼りきりになるくらいなら、害悪でしかないわ。呪いみたいなものね。そんなものは、あなたに上げるわ」


「公爵家の象徴になんてことを!」


激高して近づこうとする。でも、


「首を刎ねるわよ?」


「⁉」


私への害意を察知したので、微笑みながら言葉を口にした。


急に雰囲気の変わった私に、彼らは迂闊に手を出してこれない。


しかも、もうすぐいなくなる存在でもある。


波風を立てるメリットはないのだ。


「もういい、これ以上話しても無駄だ! まったく、マイナと違って、どうしてこんな不出来な娘が生まれたのか!」


「前妻の卑しい血のせいね。おお、嫌だ嫌だ、汚らわしい!」


「本当はお義姉様は私に嫉妬してるんだわ! 分かっているんだからね!」


口々に罵詈雑言を残して、家族たちが去って行く。それに対して、


「ありがとう、良い見世物だったわよ」


私は心からのお礼を口にしたのだった。


彼らの歩みが一瞬止まり、怒気のようなものが背中から立ち上がるのが見えたが、悔しそうにしながらもそのまま邸宅へと歩み去ったのだった。


さて、


「キース辺境伯様へ嫁ぐ用意をしようかしらね」


このまま出奔してしまうのも楽しそうだが、それでは芸がない。


貴族社会は魑魅魍魎の巣窟だ。


この私をギロチンにかけることが出来る見どころのある人間だっているのだ。


「さてまずは、この邸宅から持っていくべきものは持っていきましょうね」


そう言って、目じりを下げて微笑んだ。


この家は私の家なのだから、何をもっていっても文句を言われる筋合いはない、と勝手に私が決める。


「あと、この体の持ち主が受けたイジメとかの、慰謝料も返してもらうことにしましょう。体の共同所有者の私にはその権利がありますわよねえ?」


それも私は勝手に決めた。


私が決めたことが、すべてにおいて優先する。それは当たり前のことだ。

 「面白かった!」


 「続きが気になる、読みたい!」


 「アビゲイルはこの後一体どうなるのっ……!?」


 と思ったら


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