1.ここは異世界。私は悪役令嬢
悪役令嬢がただただ自由に振る舞うだけの物語でございます。
ざまぁしかございません。
性に合わない方はブラバするのも良案かと存じます。
1.ここは異世界。私は悪役令嬢
「ちょっと、お義姉様、聞いているの? 本当にどんくさいんだから!」
「ん?」
私はいきなり視界が変わったことで、いささか驚いた。
おかしいな。
辺りをゆっくりと見渡す。
そこは広い庭園だった。だけど、私が先ほどまでいた王城の庭園ほどではない。
予算がないのか、庭師のレベルが低いのか分からないが、細かいところで私の満足の出来る庭園ではなかった。
「ちょっと、いつまで無視しているの! このノロマ!」
「……蠅のようにうるさいわね」
「な、なんですって⁉ い、今なんて」
反射的に言い返してしまった。
でも、
「しょうがないわよね。蠅のようにブンブンとうるさかったのだから」
本音なので私は悪くないだろう。
罪があるとすれば、目の前の少女だ。
ピンク色のフワフワとした髪の毛と、天真爛漫を絵にかいたような容姿をしていて、パステルカラーのドレスを身につけていた。
まぁ、別に興味を引くようなレベルの女性ではない。
ただ、私のことを姉と呼んだ。そこは少し気にかかった。
なぜなら、
「私には兄妹はおらず……。先ほど稀代の悪女と言われて処刑されたと思ったのだけれどもね。日頃の行いかしら」
ギロチンが首を舐める感触は一種の甘美さもあった。
「さっきから何を言っているの? 頭がおかしくなってしまったの? まったく、お義姉様には困ったものねえ。これだから前妻の娘は嫌なのよ」
少し得体のしれない、だけどやっぱり馬鹿にするような視線で、義妹と名乗る女が言った。
この娘に興味はないが、自分の素性を聞くのにはちょうどいい。目の前にいるのはそのためだろう。
「うるさいわよ蠅娘ちゃん。それよりも私の名はなんというのかしら? あと、あなたの名も聞いておいてあげましょうね。それから、ここはグリスロッド王国で良かったかしら?」
そう丁寧に尋ねるが、
「は、蠅ですって⁉ アビゲイル! もう許さないわよ、マイナは怒ったわ! お父様とお母様に言いつけてやる! それできついお灸をすえてもらうんだから!」
突然、激高した。でも私は嫣然と微笑み、
「優秀ね。2つも質問に答えられたわ。でも、不合格。だってもう1つだけ質問に応えられていないもの。知らないのならいいのだけれど、知っているなら早々に答えなさい。この国の名は何かしら、マイナ?」
「はあ⁉ この国の名前はエルグラン王国。それが私たちリスキス公爵家の属する王国の名前でしょうが!」
そう言われた途端に、色々な情報が一気に頭に流れ込んできた。
それは膨大な情報だったが、前世で最優秀な令嬢であった私は余裕をもって情報を咀嚼していく。さほど大したことではない。私にとってみれば。
リスキス公爵家は火を司る一族と言われている。目の前の少女はその後継者らしい。だから義姉はこの公爵家では無視される存在のようだ。おまけに前妻の娘であるため、虐待と差別を受けていたみたいね。
(だから私の魂が入り込めたのだろうか? まぁそのあたりはどうでもいいし、興味もないけれど)
目の前のブンブンと飛び回る蠅を除いては、空は澄み渡り、風は心地良い。
私のために世界がある。それだけは証明が完了していると言って良いだろう。
だから、大事なのは私がここで何を感じ、どうしたいかだ。それ以外に考慮すべきことはない。常に考えるべきことは、自分の幸福と邪魔する者がいるなら排除するだけ。
ギロチンにかけられる時も笑えるくらいにはね。
「マイナとか言ったわね。ご苦労様、もう下がっていいわ。名前は覚えておいてあげる。でも蠅のようにつきまとうのは勘弁して。私は虫は苦手なのよ。油断ならない貴族よりもよほどね」
「ぐ、が、があ! もう許さない。許さないから! 直接焼いてやってもいいけど……。それよりも折檻の方が効くわよね! すぐにお父様とお母様に言いつけてやるから! 覚悟するのね! アビゲイル!」
そう叫ぶと、公爵令嬢ともあろう者が足を見せて庭園を走り抜けて邸宅へと帰って行った。
「猿のようで滑稽で素晴らしいわ」
私を楽しませることに余念がない。良い道化として飼っても良いなと思う。
でも、私はすぐに興味を失ってしまって、邸宅の外へと向かうことにする。
この国が、世界がどういったところか、文献にあたろうと思うからだ。聞いた方が早いのかもしれないけれど、公爵家の書庫には興味もあった。知識は武器だ。愚か者以外が使うのならばだけれど。
でも、思いのほか早く、マイナは舞い戻ってきた。
やっぱり猿みたいで、私を微笑ませる。
どうやら、両親に早速言いつけたらしい。鬼のような形相の両親がこちらに向かって走ってきた。
父は実の父親で、ベネディクト=リスキス公爵。
母は後妻で義理の母となる。イザベラ=リスキス夫人。猿の母親というわけだ。
ちなみに私の実の母はずいぶん前に他界していて、オリヴィア=リスキスと言ったらしい。
血相を変えて駆けつけた両親は、開口一番、私に怒声を上げた。
「アビゲイル! お前はマイナに酷いことを言ったようだな! さあ、すぐに謝りなさい! どうせお前が悪いに決まっているんだから!」
「そうよ。いつものように折檻されたくないなら、頭を地面につけて謝りなさい。その後、追加の処罰を関上げることにしましょう。今日は何がいいかしら、むち打ち、それとも3日間食事抜きがいいかしら?」
そんな二人の背後で、マイナが勝ち誇った表情をしていた。
普段は猫を被っているのだろう。その表情は両親からは巧妙に見えない位置で作っている。
両親は相変わらず、
「早く謝らんか!」
「そうよ、仕方ない子だわ、本当に!」
などと叫んでいた。
どんどん顔が紅潮してくる。
それに対し、私は一言、
「くだらない。娘も蠅なら、あなたたちもそうなの? 少しそのくさい口を閉じなさい。不快極まりない」
そう思ったことを素直に口にして、おまけについいつもの癖で、口元に酷薄な冷笑を浮かべたのだった。
それを聞いた両親とマイナは、何を言われたのか分からなかったのか、ギョッとした表情を浮かべたのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「アビゲイルはこの後一体どうなるのっ……!?」
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