むぎちゃん仲よし大作戦!~仁の場合~
「じんくん、きょうのおすすめはー、これです!」
そう言って、むぎちゃんは絵本をぼくに差し出す。ぼくはむぎちゃんと、本屋さんごっこをしていた。
奈央ちゃんと作戦のバトンタッチをしたのが、ついこないだのこと。何故か勝ち誇った顔で「頑張りなさいよ♪」と肩を叩いてきた奈央ちゃんと交代したぼくは、おままごとをしたり、おにごっこをしたり、だるまさんが転んだをしたりして仲を深めることにした。
確かに仲良く遊ぶことはできた。けれど、体力の限界はやってくる。教育実習のときも思ったけれど、子どもって体力無尽蔵。やがてへろへろになったぼくは、むぎちゃんのバッグからはみ出た絵本に目を付けた。ためしに読み聞かせをしてみると、思いのほかこれがむぎちゃんにはまり、それからこれが2人のブームになった。大学で受けた司書教諭の講義が、思わぬところで役に立ったみたいだ。
むぎちゃんは毎回家から絵本を持ってきてくれる。それに対して「今日のおすすめは何ですか?」とおどけて聞いていたら2人してノリノリになり、いつしか本屋さんごっこが始まっていた。
「こ、これはっ……!なんてかわいらしい本なのでしょう!」
「うちでいちばんのものです。」
ワインかっ!遊び場がバーだから尚のことそんなツッコミを入れたくなる。けどむぎちゃんに通じるわけもないので、ツッコミをグッと飲み込んで、褒美を受け取る家来が如く仰々しく本を受け取った。
「……めでたし、めでたし。」
「はー、おもしろかった!」
ぱちぱちぱち。おまんじゅうみたいな小さな手で拍手をもらい、つい口元が緩む。こんな反応がもらえるなら、もっともっと読んであげたい。そう思ってバッグに目を遣ると、あることに気づいた。
「あれ、今日は1冊しか持ってきてないんだ。」
いつもなら2、3冊持ってきているのに。そう呟くと、むぎちゃんは困ったように眉をハの字にして笑みを浮かべた。
「うんー、もうおうちのほんぜんぶよんじゃったとおもう。」
「図書館とか、本屋さんには行かないの?」
「うん。パパ、おしごとよるまでしてるし、おやすみのひもつかれてるから。」
「そっか……。」
むぎちゃんなりに、パパに気を遣ってるんだ。思えば、本が好きなのも1人の時間が多いからなのかも知れない。だとしたら、ちょっとかわいそうだな。けど、むぎちゃんちの今の暮らしを変えるわけにもいかないし……うーん。
「むぎちゃんは、本好きだよね。おうちでもよく読んでるの?」
「うん!じんくんも、ほんすき?」
「好きだよー。むぎちゃんはさ、どんなお話が好きなの?」
「え?んとねー、みーんながなかよしで、うれしいおはなしがすきかな。じんくんは?」
「ぼく?そうだなー……おいしそうなご飯が出てくるお話が好きかも。」
「へえ!むぎもそれすきそう!ねえ、どんなおはなしなの?」
「え?ええっと……。」
困った。最近読んでいるグルメ小説を思い浮かべて答えたんだけど。まさかむぎちゃんに小説を紹介するわけにもいかないし。
「そ、そんなことよりさ!一緒に読む本がなくなっちゃうのはさびしいね!」
「え?うーん、そうだね。もっといろんなおはなし、よみたいなあ。」
そう言って、しょんぼりした顔をするむぎちゃん。図書館に連れて行ってあげられればいいんだけど、ここからだと結構遠いし、あまり連れ回すような提案はしたくない。できればパパに連れて行って欲しいけれど、むぎちゃんはパパに遠慮しているみたいだし、僕からお願いするのもよくないだろう。うーん、何とかしてあげたいんだけどな……。
「ねーえ、じんくん、さっきのおいしいおはなしは?」
「うえっ!?あーそれね……。」
しまった。上手く話を逸らせたと思ったのに。仕方ない、ここは正直に言うしかないか。
「あのね、実はぼくの読んでる本は文字ばーっかりなの。だからさ、むぎちゃんには難しくて読めないんだ。」
「えー……そっかぁ。ざんねん。」
さらに肩を落としてしょんぼりするむぎちゃん。まずい、どうにかして元気になってもらわないと。何か、何かいい方法は……。
ん?小説じゃ読めない?だったら、読めるようにしたらいいんじゃないか?
そうだ。そうだよ!絵本にしちゃえばいいんだ!そうすれば、ぼくの好きなお話を伝えられるし、むぎちゃんの絵本不足問題も解消される!
はっ!もしやむぎちゃんがクリスマスに欲しいのは、新しい絵本なのでは!?きっとそうだ、だってこんなに毎回ぼくと絵本を読むくらいなんだから、絶対喜んでくれるはず。これは、天啓……?よーし、待ってろよクリスマス!最高のプレゼントを作ってあげるから!
「じんくーん、どうしたのー?おーい?」




