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ほっとカクテル―『Bar at Takai』にようこそ―  作者: 澄原千景
3杯目~クリスマスとトムアンドジェリー~
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むぎちゃん仲よし大作戦!~奈央の場合~

 クリスマスツリーに巻き付けられた電飾が、煌びやかにピカピカと光る。しばらく視界に入れたままだとうるさく感じてくるけど、むぎちゃんにはむしろそれがいいみたいで、飾りに負けないくらいうっとりと目を輝かせて眺めていた。


 普段は日が沈む頃に開くバーだけど、今日はむぎちゃんのために特別に開けている。高井さんが言うには、「むぎちゃん仲よし大作戦!」の一環らしい。確かに真冬の寒空の下で毎回毎回雪遊びをしていたら、絶対に体調を崩す。かといってむぎちゃんちにお邪魔したり、私たちの家に入れたりするわけにも行かない。となれば、一応公共の場であるバーで、というわけなのだ。


「できた!」

 テーブルの向かいから声が弾んでくる。声の先に目を向けると、むぎちゃんがクレヨンで描いた絵を顔の前に掲げて見せてくれた。2つ縦に並んだ橙色の大きな円の周りに、同じ色の小さな円がいくつかくっついている。

「ん~、これはくまさんかな?」

「そう!くまきちっていうんだよ!すごい、なおちゃん、よくわかったね!」

「わかるよ~、むぎちゃん上手だもん。」

「えへへ~。」

 そう笑って、むぎちゃんはくすぐったそうにはにかむ。よかった、あたしちゃんと子守りできてる。

 小さい子の面倒を見ることなんてしたことなかったし、正直あんまり得意じゃないから不安だった。

 そんなあたしの思いついた作戦は、一緒にお絵かきすることだった。こないだ初めて会って雪遊びをした後、スケッチブックのデザインや絵を見せてあげたら、凄く喜んでくれたので、これだ!と思ったのだ。それで、その日にお絵かきの約束をしたあたしが最初に作戦に取りかかることになった。


 話に聞いていたとおり、むぎちゃんはお利口だ。あたしとの時間はお絵かきの時間だと思っているのか、気ままな行動をすることはない。これくらいの子どもって、もっと突拍子のないことをする小さな怪獣みたいなイメージがあったんだけど、思いの外穏やかに過ごせて安心した。

 一方で、むぎちゃんパパが心配していた本音を隠しているような様子はない。仲良くなってむぎちゃんの欲しいプレゼントを聞きだそう、なんて高井さんが言ってたけど、それができるような見通しは今のところ全然もてなかった。


 楽しそうに絵を描く目の前の少女を眺める。ああ、あたしも昔はこうだったなあ。絵を描くのが好きで、褒めてもらえるのが嬉しくて。それでもっと上手に描きたくって、みんなが園庭に遊びに行っても、ずっと絵を描いてたっけ。昔の自分と似たところがあると思うと、なんだかより愛おしくなってくる。

「ね、そのくまきちっていうのは、何かのキャラクターなの?」

「ううん、くまきちはね、うちのぬいぐるみなの。むぎがうまれたときくらいからいるんだって。」

「へえー、そうなんだ。そういえば、うちにもいたなあ、ぬいぐるみ。」

「え!どんなの?」

「うちにはねー、犬のぬいぐるみがいたよ。梅っていう名前で、あたしが生まれる前からうちにいたの。だから赤ちゃんの頃から一緒だったなあ。」

 もこもこした触り心地が好きでずっと一緒だったっけ。そういえば、初めて褒めてもらった絵が梅の絵だったかもしれない。よしよしするような嘘っぱちの褒め方じゃなくて、ほんとに褒めてるって分かるのが嬉しかったなあ。

「いいなあ。それならさみしくないね。」

「あたしが?」

「ううん、うめちゃんが。むぎ、ほいくえんいくし、パパもかいしゃいっちゃうから、くまきちはまいにちおるすばんでかわいそうなの。」

 そっか、そういうふうに考えるのかあ。あたしも保育園行ってたけど、そんなこと考えてたのかな。まあ確かに、大きくなっても実家に帰ったら梅にただいまって言ってたし、家族みたいに考えるとかわいそうって感情も生まれるのかも。さみしくて、かわいそう……。


 ……ん、待って?これはひょっとして欲しいもの分かっちゃったんじゃない?

「ねえ、むぎちゃん。くまきちって、むぎちゃんとパパの他にお友達はいるの?」

「くまきちはかぞくだよ?あと、ママもいるよ?」

「あっ、ぅうんそうね。でも毎日1人でおるすばんはさみしいし、かわいそうなんだよね?」

「うん。」

「だったらさ、新しい家族が増えたらくまきち、嬉しいんじゃない?」

「うん、そしたら、くまきちうれしいかも。」

「だよね!」

 ふふん、分かっちゃったわ、むぎちゃんが喜ぶプレゼント。一番手なのに当てちゃったなあたし。とびきりかわいいぬいぐるみ、探しちゃお。ふふ、クリスマスが楽しみ!

「なおちゃーん、なんでわらってるのー?」


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