父の悩み
遊び疲れて眠っちゃったむぎちゃんとお父さんが帰った後。さっきまでの賑やかさから一転して、バーは水を打ったように静かだ。
「ねえ、あの話、どう思った?」
4人とも同じことについて考え込む中、沈黙を破ってゆかが訊ねる。
「うーん、さっき見た感じでは、そこまで深刻には思わなかったかなあ。」
健がグラスを拭く手を止めて首を捻る。それきり4人はまたうーん、と唸って黙り込んでしまった。
「むぎに、元の子どもらしさを取り戻させたいんです。」
むぎの父―智宏の言葉に、カウンターの向かい側の2人はきょとんとした表情を浮かべた。
「えっと、今でも子どもらしいとは思うのですが。」
「あぁそれは、ここのお客さんのことが気に入ったみたいで……さっきの男性―仁君には今朝公園で遊んでもらって。その時にここも教えてもらったんです。」
「気を許した人には素を見せられるんですよね?それって十分子どもらしいような気がするんですけど。」
智宏の言葉にいまいち要領を得ないゆかが首を傾げる。その姿を見て、智宏は慌てたように言葉を継ぎ足す。
「ええと、子どもらしさっていうのはその、つまりむぎが僕に遠慮しているような気がして……。もっとわがままになっていいんだよっていうか。この前も、クリスマスに欲しいものを訊いても何も要らないって言われて。どうしたもんかなーって、困ってるんです。」
「うーん、それって」
「なるほど、つまりこういうことですね。」
本当に何にも要らないんじゃないんですか、と言いかけたゆかを制して、それまで顎に手を添えて考え込んでいた健が顔を上げる。その顔は、遊びを考える子どものようにわくわくしている。
「つまり、むぎちゃんが自分の気持ちに正直になれればいいんですよね。」
「え、ええ、そうです。」
「わかりました。ではそのために、まずは仁君と奈央ちゃんを中心に、私たちがもっと仲良くなりましょう。そうすればきっと、彼女が本音を漏らすタイミングが訪れるはずです。そうして、むぎちゃんがどんどん本音を曝け出していけるようにして、ゆくゆくは彼女が本当に欲しいクリスマスプレゼントを聞き出します。」
「そんなにうまくいくかなあ……。」
いまひとつ計画性のなさそうな作戦に、ゆかが首を捻りながら智宏をちらっと見る。しかし彼は健の作戦に可能性を感じている様子で、ふんふんと頷きながら話を聞いていた。
「いけるよ。だって仁君と奈央ちゃんにはすっかり気を許しているみたいだし。それに」
「それに?」
言葉を句切り、健の表情が一瞬引き締まる。
「むぎちゃんには、パパに直接、本当の気持ちを伝えてほしいからね。」




