痛みと誘い
マッスルポーズお兄さんのプチ撮影会がひとしきり行われた後。すっかり人気者になった彼は、子どもたちみんなと一緒に、雪だるまを作って遊んでくれることになった。訊けば、教育関連の仕事を志しているらしい。なるほど、どうりで子どもたちに懐かれるわけだ。初めは白い目をして見ていた親たちも、我が子の楽しそうな様子を見て安心したみたいで、次第に彼と談笑するようになった。
しばらくすると、幼い子どもたちと彼1人では力が足りなくなったので、親を巻き込んで巨大な雪だるま作りが行われるようになった。
「すみません、親子の時間を邪魔しちゃって。」
他の親に交ざって雪玉を押しに行くと、さっきまで輪の中心にいた青年に、申し訳なさそうに頭を下げられた。白い息が舞う度に曇る眼鏡の奥から、優しげで人懐っこそうな目がぼんやりと覗く。
「いえいえ、こちらこそ遊んでもらえて助かります。僕や保育園関係の人以外と関わることがないので。」
「奥さんはお仕事、忙しいのですか?」
「いや、妻とは死別しまして……。」
「えっ、ぅあえとっ、すみません……。」
「いえ、いいですよ。そんなに気にしないでください。」
一瞬、胸がズキッと痛む。
けれども、彼があまりにもみるみるしおらしく萎んでいくので、気づけばこっちが励ます側になっていた。だめだな、気を遣わせてしまって。
「それにしても、すごい雪像でしたね。美術を専攻しているのですか?」
空気を変えたくて、少し声の調子を上げて話題を振ってみる。彼はそんな僕の思惑を察してか、元の人懐っこい表情に戻ってくれた。
「いえ、僕は国語専攻で。最近仲良くなった子が、とってもきれいな雪像を作ったのを見て、それに触発された感じです。凄いんですよ、僕なんかのより全然!」
「へえ、それはぜひ見てみたいですね。」
「おっ、見に来ますか?ここから少し離れたバーにあるんですよ。料理もお酒も美味しいんですけど、こう言っちゃ失礼ですが、何故かお客さんが少なくて。穴場なんです。」
さっきまでのしょぼんとした表情から一転、キラキラした目で話される。そのバーがよっぽど好きなんだな、ということがよく伝わってくる。なんだか散歩を期待して尻尾を振っている犬みたいだな、と思って少し可笑しくなった。
(うーん、バーか……あまり馴染みもないし、むぎを連れてそんなところに行くのもなあ。)
なんて考えもしたけれど、いざ目の前の期待に満ち満ちた眼差しと向き合うと、断ることが残酷なような気がしてきた。結局、その期待を無下にできなかった僕は、「近いうちに。」と曖昧な返事をすることしかできなかった。




