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ほっとカクテル―『Bar at Takai』にようこそ―  作者: 澄原千景
3杯目~クリスマスとトムアンドジェリー~
24/35

雪遊びに現れたのは

「パパ、みて!ゆき、すっごいよ!」

 雪うさぎが通り過ぎたあとみたいな、一面の雪景色。まだ誰も降り立っていない銀世界を、小さな足がふみふみ行く。

 昨晩降った雪で、道路まで真っ白。今日が休日で本当によかった、と今朝胸を撫で下ろしたところだ。


 朝ご飯にトーストを焼いていると、むぎが窓にしがみつくようにべったり張り付いて外を見ていた。

「……パン食べたら、雪遊びに出かけようか。」

「いいの!?」

 そのまま一回転するんじゃないかってくらいの勢いでグリン!と振り向くむぎ。そして、たった今焼き上がって皿に載せられたトーストにかぶりついた。

「そんなに急がなくても、雪はまだ溶けたりしないぞー。」

「んむふふぅ。」

 口の周りについたジャムやパンのかけらを拭ってやる。パンパンに頬張った顔で楽しみそうににんまり笑う様子を見ていると、なんだか一分でも早く願いを叶えてやりたい気持ちになってきた。

「いただきます!」

「お!?パパはやい!パパもゆきあそび、したい?」

「んもぐぐっ!(もちろんだ!)」

 親指を立ててむぎに応えると、それきり2人でがつがつと朝ご飯を詰め込む。そして洗い物もそこそこに、僕たちは真白に目映く輝く世界へと飛び出した。


 朝早くに出たつもりだったが、公園には既にちらほらと親子連れが来ていた。うちと同じように、子どもが遊びたがったのだろうか。雪を転がしたり固めたりしながら、それぞれのんびりとした時間を過ごしている。

 むぎもまだ雪が綺麗なところを見つけ、そこに向かって雪玉を転がし始めた。

 せっせと雪玉を育てるむぎの背中を眺めていると、妻と3人で雪遊びをした思い出が、浮かび上がって重なる。大きくなったものだ。むぎが生まれて、まだ何年も経っていないのに。


「ママ、ママ!」

「おー!じょうずにパパとつくったねえ。ここからはママも一緒にね。せーの、ごろーん!」

「わあー!」

「大きな雪だるまには、まだまだ時間がかかりそうだね。」

 腰をさすりながら、体を弓なりに反らす。そんな僕をのぞき込むように、むぎと同じ視点から見上げられる。

「あら、いいじゃないの、どれだけ時間がかかったって。むぎがやるって言うなら、私は明日も明後日もかけて完成させるわよ。」

「えぇーっ!?……それは随分と気長な話だね。もうちょっと早くできないものなの?」

「だーめ。むぎが自分でやりたいって言い出したんだもの。この子のペースで、少しずつ大きくなっていくの。雪だるまも、この子もね。」

「そういうものかな。」

「そういうものよ。」

 んしょ、んしょ、と慣れない雪に足を取られながら懸命に進むむぎを、妻は愛おしそうに眺める。この愛情をいっぱいに注がれて育っていく娘の未来を思うと、何だか前向きな気持ちになってくる。

「……これからが楽しみだね。」

「ええ!とっても楽しみ!」

 目を細めて、朗らかに笑いかけられる。太陽の光を反射する雪の絨毯の光を受けてもなお、一際眩しいと思える笑顔で。

「これからどんどん大きくなって、私の身長なんて、あっという間に抜いちゃうの。こうして一緒に触れ合える時間なんて、ほんの一瞬なのよ。」

「ママー、おもいー。パパもー。」

「あっ、ごめーん、止まってたね。さあ、もぉっと大きくなるよー。ほーら、パパも。」

「うん。」

 むぎと妻の手に、自分の手を重ねる。手袋越しに、ほのかな温かみが伝わってくる。掌にすっぽり収まるまだ小さな手と、繊細で華奢な母の手。それほど大きくもない自分の手で包み込んだ2人の温もりを感じて、胸の奥から愛しさが熱をもって込み上げてくる。

「むぎは、どんな子に育つのかな。」

「そうねー……。私たち次第、じゃないかしら?」

「じゃあ、ずっと見守っていかなくちゃね。」

「もちろん!」

 子育てには正解がなくて難しい。毎日これでいいのか、と迷ったり後悔したりするばかりだ。きっと、僕よりも接する時間の長い妻は、もっと悩むことが多いだろう。けれども、2人なら大丈夫。僕が妻を支えて、難しいことは2人で考えて。辛いこともきっとあるだろうけれど、2人で頑張れば、乗り越えられる。そうしてむぎもまっすぐ、大きくなって―。


「……パパ。ねえ、パパ?」

 ハッ。いかんいかん。むぎをおいてぼーっとするなんて。

「どうしたんだい、むぎ。」

「あっち、ひといっぱい。」

 むぎの指差す方を見てみると、さっきの親子連れが集まって小さな人だかりができている。何か、変わったものでも見つかったのだろうか。

「見に行ってみようか。」

 こくん、とむぎが頷いたので、手を繋いで見に行く。輪になった人だかりの外側から、むぎを肩車して中心を覗いてみる。


 そこには、筋骨隆々な雪の彫像と、その手前で同じポーズをして写真に応じる青年がいた。

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