表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ほっとカクテル―『Bar at Takai』にようこそ―  作者: 澄原千景
3杯目~クリスマスとトムアンドジェリー~
21/35

ブルーな季節

 しんしんと、鳴るように真っ白な綿が舞う。風と共に吹きつけるチクチクとした冷たさに、ついにこの季節が来たか、と少しブルーになる。時刻は18時過ぎ。まだ夕方だというのに、辺りは日が落ちて仄暗い。冬化粧を始めた寒空の下、僕は幼稚園へと身を縮めて走り出した。


 園につくと、時刻は19時前。延長保育ギリギリの時刻だ。小走りで園舎に入ると、20代前半ぐらいの小柄な若い先生がやってきた。パッチリとした目に、明るめの茶髪を後ろで短く結んだ、活発そうな女性だ。

「遅くなってすみません、あやか先生。」

「いえいえ。遅くまでお疲れ様ですっ。むぎちゃん、とってもお利口に待っていましたよ。」

 そう話すあやか先生の後方から、トットットッと軽い足音が近づいてきて、あやか先生の隣で止まる。

「パパ。」

「うん、むぎ、待たせたね。」

「むぎ、おりこうだったよ。」

「そうだね、むぎはえらい。」

 両手を上に挙げて、抱っこ待ちのポーズをしているむぎを抱き上げる。子ども特有の高い体温が、コート越しでもじんわりと胸に伝わる。

「遅くまですみませんでした。あやか先生。」

「いえいえ!とんでもないです。むぎちゃん、さようなら。」

「さようならー。」

 あやか先生に一礼して、園舎を出る。凍てつくような空気を受けて、むぎがキュッと体を縮込ませたのを感じて、急いで車へと戻った。


 「むぎ、サンタさんへのお手紙は書いたかい?」

 ゆったりと流れていく町の明かりの中に、時折カラフルな光がピカピカ点滅する。賑やかしくて、どこかそわそわする景色を、ぼんやりとした目で眺めている娘がバックミラー越しに見えて、繕うように明るい声で訊いた。

「ん……むぎ、サンタさんいい。パパといっしょがいい。」

「サンタさんが来たって、パパは一緒にいるよ。」

「うん……えとね、じゃあむぎ、サンタさんじゃなくて、ママにおてがみ、かきたい。」

「……!」

 胸が詰まるようにも、欠けた隙間に冷たい風が吹き抜けるようにも感じた。何とかして言葉を紡ぎ出そうとしても、空虚に半開きになった口に、生温い空気が入り込んでくるだけだ。それきり再び静かになった車を走らせて帰宅すると、いつの間にか眠っていた娘をそうっと抱き上げて、ぽっかりと空いた心の穴のような家へと入っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ