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ほっとカクテル―『Bar at Takai』にようこそ―  作者: 澄原千景
2杯目~デザインとティツィアーノ~
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焦りと現実

 ああ、嫌いだ、この感覚。遊園地のフリーフォールみたい。一瞬の浮遊感の後、落とされる感じ。胸が詰まって、息が上手にできなくなる。


 河井さんがこちらを見て、眉を八の字にしている。あぁだめだ、心配かけちゃう。今すぐここから逃げ出したい―そう思ったとき、昨日のことを思い出した。

(そういえば、昨日はここで帰っちゃったんだっけ……。)

 バーにいた3人の、心配そうな顔が浮かんでくる。その表情が、目の前の河井さんと重なった。

(このまま帰ったら、昨日とおんなじ。そんなのは、絶対にごめんだ。)

 空気を吸って、吐いてみる。少し、息が震える。それを落ち着けるように唾を飲み込み、もう一度息を吸って、吐く。そうしてゆっくりと、短い言葉を紡ぐ。

「このデザインの、どこがだめだったんですか。」

 河井さんは、八の字眉のまま「だめと言いますかなあ」と言って不器用な笑みを浮かべる。傷つけまいと言葉を選んでくれているのは有り難いが、そこに甘えていては前に進めないような気がした。

「教えてください。あたしの、何がだめなのか。」

 河井さんはじっとあたしの目を見つめると、やがて観念したように長い溜息をついた。

「天方さん、あなたは一人前になることを、どこか焦っているように見えますねえ。」

「それは……。」

その通りだ。和菓子屋を飛び出してきた手前、いつまでもうだつが上がらなければ絵を描いて遊んでいると思われかねない。だから少しでも早く一人前になって、デザインの仕事を認めてもらわなくちゃいけない。

「その焦りからか何なのか、自分の看板を認めさせようっていう、斜め上からの前のめりな姿勢がひしひしと伝わってきましてのお。……その商売人らしからぬ心が透けて見えると、あまりいい気持ちはしませんなあ。」

 河井さんの言葉は、子どもに言って聞かせるように優しい。けれどもその内容は痛いくらいに的確で、投じられた言葉の一石は、今にも溢れ出しそうなあたしの心の器を、抑えきれないくらいに波立たせるには十分だった。

 じわり、と視界が滲んでいく。けど、だめ、泣いたら。

膝の上で拳を握り、奥歯を噛み締めて涙を堪える。河井さんが心配そうに見ているのが分かる。けれども、今口を開いても上手に返事できそうにない。どちらからも打破できない、何とも気まずい静寂―

「ごめんくださーい。ん~今日もいい吟醸香、流石は河井さ……ん?あなたはたしか……?」

それは、場違いにも程があるくらいのんびりとしてて。けれどもふわりと包み込むような温かみをもつ声によって、唐突に打ち破られた。

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