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「えっと…僕もういいですか?授業始まっちゃうし…」
彼は困惑気味に目の前の怪しげな僕に問いかける。
何も考えずに引き留めようとした結果、
「ちょっと待ってぇショタくん、うへへぇ」
という、全動物の背筋が凍るような一言が出た。
当然の如く、彼は「ひっ!!」と叫びながら慌てて逃げ出した。
やってしまった。これは完全に嫌われただろう。
自分がどうやって教室に戻ってきたかもよく覚えていない。
五時間目の授業は何を言っているのか全く理解できず、挙句には先生が「蒼大!」と呼んだのを「ショタ」と勘違いしてしまうくらいだった。
放課後は生徒会の各委員での会議がある。ここもどうやって移動してきたか…ここまで脳に引っ付いて離れない強烈な印象を受けたのは初めてだ。
この学校の校舎は一・二年の校舎と三年や特別教室の校舎で構成されている為、僕が到着したとき会議室には三年生が二人程いるだけだった。
このまま自分だけで抱えていても辛いだけだ、いっそ笑いものにされた方がマシだ。そう思って、思い切ってそこにいた同級生に話しかけた。
「ねえ、もし僕が男の子を好きになったって言ったらどうする?」
彼女はすかさず「大歓迎!!」と言ってくれた。
推測するまでもないが、彼女はこの道一筋3年目の腐女子である。
(聞く相手間違えたな、、、)
そう思ってもう1人の同級生に話しかける。
「あの…さっきのことなんだけど、小原くんはどう…」
ガラガラガラジャン!!
「こんちゃーす!」
これはこれは、元気すぎる二年組のお出ましだ。1500mぐらい走って体力消耗してから来たらいいのに。
普段通り少し迷惑そうな顔を見せてから何もなかったかのように質問に戻る。
「で、どう思…」
ガラガラ……
「お邪魔しまーす」
今度は静かだ、一体誰だろう。
なんだ、さっきのショタくんか。
質問に戻ろうとして、再び勢いよくドアの方を向いた。
やはりそこには、昼休みの彼がいた。
「ご、ごごごごごめんね!?さっきは!!え!あ!あっと、あの時はつい!!」
アホのような喋り方を二年組が不思議そうにこちらを見ている。三年の彼女は「つい」の先が気になっている様子だ。
「えっと…もう僕のこと嫌いだよね、じゃあ」
「そんな、先輩を嫌いになんてなりませんよ!こちらこそ勝手に逃げちゃってすいません」
彼が笑顔で返してくれた。
「それと昼休みの答えですが、あの…改めて僕でよければお願いします」
「答え?」
すでに情報を処理する能力が残っていない僕に、彼は数時間前の黒歴史を思い出させてくれた。
「あの…あれですよ、…『けっこん』のやつ」
「ああ、えっと…つまりそれは…OKってことなの?」
「ええ、まあ…」
彼が恥ずかしそうに下を向くと同時に、腐女子の彼女が上を向いて叫びだした。
僕は彼女を無視し、彼の方を向いた。
「………」
二人とも恥ずかしくて口を開けない。ここは先輩として先に何か言わなくては。
「…そういえば、お互いの名前言ってなかったよね、僕は西戸那由多。君は?」
彼は消え入りそうな声で答えた。
「比嘉颯って言います。西戸くん、よろしくお願いします」
「付き合ってるのに名字呼びの敬語なんて変だからさ、どっちも名前呼びのタメでよくない?」
と提案してみる。
「そうだね。じゃあ…那由多くん」
恥ずかしがる二人とニヤニヤする二年組、そして聴いていないフリをしつつ密かに楽しんでいる小原くんに発狂する腐女子の彼女。
そんなカオスな状態の会議室を窓越しに見ていた一年組に、入れる勇気はなかった。




