菱沼浩之の場合4
配信開始。ブラウザで配信スタートのボタンを押すとすぐに閲覧人数が増えていった。一〇人、二〇人、三〇人……。そんな風に視聴人数が増えていく。
「はい、今日も始まりました。ヒロのオラクルナイトでっす」
配信開始の挨拶。それに反応するように寄せられるコメント。『こんばんはー』とか『お疲れ様です』とかそんな感じのコメントが流れていく。
「みんなお疲れ様ー。今日も一日頑張ったねー」
そんな軽口を叩きながらオラクルカードのデッキをテーブルの中央に二つ並べた。恋愛用と仕事用。今回はこのデッキを使おうと思う。
ウィスキー飲みながらコメントしてくれたリスナーに挨拶を返していく。なかなか全員は返せないけれど極力返しておきたい。まぁ、いつも返せるのはせいぜい五〇人程度だけれど……。
一通り挨拶を終えるとタバコに火を付けた。酒とタバコを交互に口に運ぶ。リーディング前はだいたいこんな感じだ。
「さーて、じゃあ今日は先着一〇名かな? 希望者はコメントお願いします」
俺がそう言うとコメント欄は一気に埋まっていった。無料リーディングだから当然なのだけれど、それにしたって節操がないと思う。ま、企画担当している俺がそれを言えた義理ではないけれど。
「えーとじゃあ、コメくれた人の中から無作為に選ばせていただきます!」
無作為、偶然、運否天賦。そんな方法で今日の相談者を選定していった。具体的に言えばサイコロ。賽の目に愛された人間以外はごめんなさい。そんな気持ちでサイコロを振る。
そうしている間にも閲覧人数は増え続けていた。現在一〇〇〇人突破。最終的には三〇〇〇人前後で落ち着くのでまだ先は長い。
「じゃあまずはセットンさんから! 相談内容を書いてください」
俺はそう言うと残り僅かになったタバコを灰皿に押しつけて消した――。
概ね俺の配信はいつもこんな感じだった。配信中は相談内容と常連リスナーが課金アイテムを投げてくれる以外には特にコメント読みもしない。現実的に無理なのだ。正直課金アイテムをくれたリスナーにさえ反応が出来なくなってきている。
嬉しい悲鳴ではあるけれどそろそろ限界かも知れない……。まぁ、元々配信は占い仲介サイトへの案内用だったしそろそろ潮時かも――。最近はそう思うようになってきた。リスナーには申し訳ないけれど時間は有限なのだ。お試しリーディングにそこまで時間を割いてはいられない。
その日の配信は恙なく進んでいった。そして最後の一人のリーディングに入る。
「えーと、じゃあ大トリは……『おチヅさん』ね。相談内容を書いてください」
そうして最後の相談内容が書き込まれていく。このまま何事もなく終わりますように――。俺はそんな思いを抱きながらタバコを吹かした。




