戦闘後のイベント
この戦闘は敵兵の能力も低く数もたった十人と少ない。
カルがゲーム開始したばかりの経験値のないプレーヤーだとしても、ラスボス戦仕様の二名が補助についている、というオマケステージでもあるのだ。
イーヴとハルバートはこの戦のあとにすぐに主人公と別れて本職である王の側近へと戻ってしまい、主人公とヴィヴは仲間探しに手と手を取り合って冒険の旅という、現実世界だったらカルの暗殺を王様こそ考えているだろうと考えてしまう流れとなるのだ。
つまり、この戦闘はゲームを始めたばかりのプレイヤーに操作方法を教える、というものでしかないのである。
馬に乗っているキャラは何マス進められ、徒歩のキャラはどこまで、攻撃魔法の範囲はどこからどこまで、弓矢はどこまで届くのか、そういった事を学び取るという意味合いのものだ。
しかし、実際の人間がマス目に留まっている事も、律義に自分のターンを待っている事なども無い。
「実写はぱねぇな。」
俺が呆れかえるその通りに、俺の目の前で大虐殺が行われていた。
ハルバートが地面から土の杭を突きだたせ、それらによってくし刺しにならなかった兵士は次々とカルとイーヴによって頭と胴体を離れ離れにされていく。
俺は目の前で展開されていくスプラッタな光景に口元を押さえて吐き気を押さえたが、それが出来たのもほんの数十秒だけだった。
臓物の匂いが風下の俺に流れてきて、俺は完全に崩壊してしまったのである。
ああ、なんて人の体内の匂いは臭いのだ!
「ああ!ヴィヴ様!大丈夫ですか?」
自分の内臓まで吐き出してしまったぐらいに吐いていた俺は、ハルバートの声掛けに戦闘が終わるまでの数分以上も自分が吐き戻していたことを知った。
「だ、大丈夫ではありません。おう!み、水は無いのかしら。」
大きなため息の声が聞こえた。
俺の具合の悪さを心配するものだろう。
「姫たる者、こういう時は下々の気持ちを楽にするために大丈夫と答えるべきです。それから、人前でこのような醜態は今後晒さないようにしてください。」
「吐いちゃいけないっていうの!」
俺は怒りのまま振り返っており、俺の吐いたばかりの口臭を浴びたハルバートは一歩後退りした。
「あなた方こそ!姫が吐かないような気遣いのある戦場作りをなさいな!」
ハルバートは無感情な笑顔を俺に返した。
「戦場とはこういうものです。ヴィヴ様こそ次にせり上がってくるものがあったら、吐き出すのではなく、笑顔のまま呑み込んでください。」
「できるか!」
「どうしたの!わあ、大丈夫!ヴィヴ!ああ、怖かったんだね!可哀想に!」
俺とハルバートの諍いに飛び込んで来たのは、戦好きな王子様だった。
カルはなんと、ゲロ臭塗れの姫を慰めるように抱き締めても来たのだ。
だが、その行為によって俺は自分がプレイした後に起きた選択肢選択場面も思い出してしまった。
何のことは無い。
俺とカルはアクリルボードの円柱に閉じ込められ、そこにあからさまな文字が描かれているのである。
初めての戦闘にヴィヴが脅えている。慰めてあげなくては!
1、次からは目隠しをしようか。
2、直ぐに慣れて平気になるよ。
3、君が落ち着くまで抱きしめていていいかな。
あの日の俺も、何だこの選択肢は!、と面倒になりながら一番無難な3を選んだと思い出し、3番を選んだことで起きたイベントムービーまでも思い出した。
映像のヴィヴはゲロ塗れでは無かったが、カルの優しさ?に感動して彼の頬に軽くキスをするという行動をするのである。
カルはそこでヴィヴに対する責任感やら恋心やらを抱いたぞ的な表情をする。
事実、1と2を選んだそこで二人は結ばれないバッドエンド決定だ。
俺は人生が楽勝だと考えながら、カルを見上げた。
「あなたのお陰で落ち着いたわ!今度は目隠ししたり目を瞑ったりするから安心なさって!」
よし、俺が選択してやったぞ!
ところが、俺に返って来たのはカルによる頬へのキスだった。
奴は俺を尊敬したような目で見下ろしてもいるじゃないか!
「君はなんて優しい女性なんだ。君が落ち着くまで抱きしめていていいかな。」
俺の身体がガキーンと金縛った。
金縛ったどころか、俺の身体は何者かに操られているかのようにして勝手に動き出したのである。
「あなたこそ誇り高い素晴らしい人だわ。あなたに神の祝福を与えましょう。」
俺の唇はカルの頬に触れた。
カルは目を見開き、そして、感動と憧憬を瞳に浮かべて俺を見下ろした。
「あなたを絶対に守ります。」
俺が制御できないヴィヴはカルにありがとうと答えていたが、俺は次の選択肢では絶対にバッドエンドを選ばしてやると心に誓っていた。
良いのか、カル?
お前の頬から俺のゲロの匂いがするぞ!




