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ゲームにはフラグという嫌なものがあるものだ

 誘拐犯の言うことをすぐ聞いて一緒に戦うなんて、ストックホルム症候群にかかる間もないのだから、絶対に、現実世界では起きるはずは無い。


 しかし、ここは何度も言うがゲーム上の世界だ。

 一キャラでしかない俺に拒否の選択など出来まい。

 大体、俺を連れて来た誘拐犯のカルこそ俺に何の意思表示もせずに、もうすでにお友達感覚で話しかけて来たりもしているのだ。

 お前はペットショップの仔犬か?というくらいにフレンドリーなのである。


 その上、状況が俺に離反を許さなかった。


 俺達の馬、いや、カルの馬が彼の味方が待つ陣地に辿り着いた途端に、なぜか後ろに居もしなかった敵影がどどんと姿を現わせたのである。


 フラグたった!という感じに、だ。


 そして、こちらの味方はゲームと一緒で二名の黒騎士だけ。

 ヴィヴが十年前に殺されかけた時に助け出してくれた三人の黒騎士、そのうちの二人がカルを待ち構えていたのである。


 まず一人目は、元僧兵だったダークブロンドに青い瞳というハルバート。

 バイザーを上げただけで顔と短い前髪しか見えないが、彼の髪形は元僧兵という設定の為か散切りにされた短髪のはずだ。


「お久しぶりです。ヴィヴ様。再びあなたにお会いできて光栄です。」


 俺に雅に笑って見せた28歳のこいつは、実写補正どころか、実写の限界突破をしてしまったろくでなしとなっていた。

 誰もの魂を奪ってしまうぐらいに美しい男とゲーム解説書にあったとおりに、前世で俺が見たことも無いぐらいの物凄い美丈夫姿で目の前に現れるとは何事だ。

 さすが、古のバンパイアの血を引いたと思われている設定の男。


 単なる日光アレルギーという設定なのだが、中世のような世界では太陽の光を浴びると火傷したようになる、というのは魔物以外ないであろう。

 そんな体質から神殿に預けられ、修行僧として育った過去を持つ男なのだ。

 女性的ともいえる輪郭にモデルのように均整の取れた長身の男は、バイザーを上げて俺に軽く微笑んで見せるや直ぐにバイザーを下ろして自分を隠した。


 仕方が無い。

 彼の青白い肌が全てを語るように、彼は日の光が苦手なのだ。


「もっと私との再会に喜んでくれると思いましたが、私は単なる甲冑の騎士その一人でしかなかったのですね。」


 ああ!面倒くさい系の男か!


「い、いえね!いつも思ってしまいますのよ。あなたが神殿でお暮しになっていた日々はさぞお辛かった事でしょうと。そ、それで声が出なくなるの!」


 パカッと再びバイザーが上がり、いかにも嬉しそうなしてやったりという殴ってやりたい笑顔が俺に見せつけられた。


 そういや、雨は止んだが重たい雨雲で太陽は隠されている。


 俺の注意を引きたかっただけの過去の恩人は、子供を安心させるような笑顔を俺に向けて俺を安心させる為のセリフを言った。


「いいえ、そんなことは無いですよ!両親の寄進のお陰で私は自宅にいるよりも安全に暮らせました。男爵家の三男でしたら家に籠って本など読んでいられないでしょう。」


 そうか。


 俺というヴィヴが厳しい修道女の暮らしをせねばならなかったのは、君達に安全だからと神殿に置き去りにされた七歳の俺に、君達は寄付金というおまけをつけてくれなかったからなのか。

 俺はどんな世界も金次第なんだとファンタジー世界で韜晦すると、出会えたら一番質問がしたいと思っていた男に目を向けた。


 もう一人の黒騎士、イーヴである。


 彼も細身の体に長身という女子受けしそうなスタイルで、実写のくせにゲームの図柄に忠実そうな雅な外見をしていた。

 褐色肌に長めのショートにされた漆黒の癖のない髪、そして、金色にも輝く褐色の瞳だ。

 彼が半人獣だと聞けば誰もが信じ、誰もが黒豹を想像するだろうが、彼はれっきとした人間でしかない。

 それでも戦友達には彼は獣だと揶揄され、その例えが大アリクイなのだ。

 野獣と戦士が呼ばれるのはわかるが、どうして大アリクイなんだと知りたいだろう。

 俺はそれが知りたいと全てのルートを制覇したが、彼の大アリクイ呼びの理由がどのシナリオ上でも語られる事が無かった事で、制作側のなかった事にしたい設定、という意志だけは理解した。


「何か?ヴィヴ様?」


 まじまじとイーヴを見つめていた俺にイーヴは嫌な顔どころか眠そうな無表情で尋ね返して来たが、俺は前世の常識的な部分が残っていたがために何も彼に聞く事が出来なかった。

 普通は初対面に近い相手に聞けないであろう。


 あなたはどうしてアリクイと呼ばれているのですか?なんて!


「ええと。さ、再会できましてとても嬉しいですわ。」


 イーヴはあれっという風に小首を傾げ、そのままバイザーもガチャンと閉じた。

 あれ、彼も七歳のヴィヴを救った男だったはずでは無いのか?

 16歳という年齢は記憶力はしっかりしているお年頃では無いのか?

 俺が唖然としている目の前で、ハルバートがイーヴの肩を軽く突いた。


「イーヴ。失礼でしょう。立ったまま寝るんじゃない。」


 ああ!怠け者系なのか!この人は!


「ヴィヴ!敵だ!一先ず全員に補助魔法を頼む。それから怪我をしたら回復魔法も頼む!」


 一人敵陣への戦意と注意を失っていなかったらしきカルが当たり前のように俺に叫んだが、俺は魔法など使った事など無い。

 しかし、カルの一声によって俺の目の前は静止画像になり、目の前に大きなアクリルボートが聳え立った錯覚に陥った。

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