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ゲーム世界で生きるという事

 カルヴィンは起きた出来事を無かった事にしたいと望んだ。

 すると、世界はカルヴィンの為に動き出したのだ。


――カルヴィンがドラゴイルの裏切りを知る前に戻しますか?


 彼は「はい」を選択した。

 選択した事で文字は金色に輝いて消え、次には赤文字で背筋が凍る文字が宙に刻み込まれたのである。



ストーリーに起きましたバグを修正します



 赤文字が消えるや、この世界はバグを修正して本来のストーリーイベントに戻す自助努力を、俺の胃袋の中身をぶちまける勢いで勝手にし始めたのである。


 まず、ドラゴイルの首が完全にくっついた。

 ドラゴイルは生き返り自分の刎ねられた首筋を両手で押さえたが、彼は突然開いたドアに吸い込まれた。


「ぎゃああ、止めてくれ、ああああ!どうして私を殺すのだあああああ!」


 ドラゴイルは何もない空間で何者かに四肢をバラバラに切り刻まれた。

 俺は何を見ているのかわからなかった。

 殺されていくドラゴイルの映像に砦の城壁の画像が重なり合い、気が付けば俺は砦前に立っており、砦の城壁には惨殺されたドラゴイルの遺骸が貼り付けられているという情景だ。


「ああ!俺が不甲斐無いばっかりに!覚えていろよ!メディア!貴様を決して女王などと呼ばせない。お前の軍勢を倒し、俺がこの国の王となってみせる!」


 俺は横で起きたカルヴィンの叫びにひょえっと驚き、そして、カルヴィンが憎しみの籠った目で一心に見つめる方角を見返した。


「何てこと。どうして。」


 城壁の見張り台と呼ばれるところにメディアは立っており、彼女は私達を静かな目で見下ろしている。

 真っ赤な長い巻き毛の髪は、ゲームのCGと同じく美しく風に靡かせている。

 遠くすぎて目の色などわからないが、きっと彼女の目もあのグラフィック同じくサファイアのように真っ青で美しい瞳なのだろう。

 この世界では俺とカルヴィンの親の仇となる、女王になりたいだけで人を殺して来た恐るべき魔女。

 だが、カルヴィンの選択で逸脱したゲームシナリオが修正されただけでなく、正当なイベントの為に彼女がここに呼び出されたとすると、彼女の存在こそ実はあやふやな哀れなものでは無いのか?

 俺の疑問に答えるがごとく、メディアがゲーム内では言ったことのない台詞を叫び返した。


「ええ!なりたければ王になればいいわ!間抜けで考え無しの子供よ。世界は同じ方向にしか進まず、どんなに修正しても世界は私に応えてくれない。それでも私は世界を壊しましょう。自分自身が自分では無いという不確かさの恐怖から逃れるには自分として生きるしかないのよ!解放されるのは死んだ時だけ。ええ、おなりなさいな!この狂った世界の王様になるがいいわ!」


 俺はメディアの本当の言い分を耳にしているのだ。

 そうだ。

 この世界では俺の身体だって勝手に動かせられたりもしたではないか。

 では、メディアが望むように彼女を女王にするべきか、としても、その女王になりたい行動が彼女の願いどころかゲームの設定でしか無いのだから、彼女の本当の願いではない。


 ゲームのイベントCG通りに地団駄を踏んで悔しがるカルヴィンの姿を俺は横目で見ながら、俺の背筋にぞっと冷たいものが走るのを感じていた。


 この世界で本当の願いと言える願いを掲げて許されるのはカルヴィン一人であり、彼を王にしなければゲームは終了しないのだ。


 もし、彼が間違った選択をしてゲームが強制終了してしまったら?


 コンテニューなんてものがあったら?


 カルヴィンが死んで俺が修道院に戻ったとしても、そこから無理矢理にゲームのリスタートが起きたらどうなるのだ?と。


 俺は彼を正当なエンディングに導く必要があるのではないのか?

 

 その後に彼を捨てれば……ああ!エンディングムービーのヴィヴは子持ちだったじゃねえか!


 俺はやられるの?

 やられないといけないのか?


「ああ、どうしよう。」


 俺の言葉に呼応した様に、惨劇の城壁をバックにふざけた黒文字が宙に浮かび上がった。



カルヴィンはこの惨劇への怒りを元に、王になるという決意を新たに心に抱いた。

どうしてこんなことが起きたのか。

何故止められなかったのか。

彼は自分の無力にたとえようもない鬱憤を抱くしかなかったのだ。



「他人事でのたまうんじゃねぇよ!お前だろ!お前がやったんだろうがよ!」


 俺こそ思いっきりこの台詞を叫んでやりたかったが、この世界のシステムに何をし返されるか分からないという恐怖を元に、無力に打ち震えるしかなかった。

 畜生!

 とりあえずゲームシナリオ通りにドラゴイル砦の逃亡兵達と邂逅しなければ!

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