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罰がご褒美

 落ち込むカルを俺は馬に無理やり乗せると、取りあえずゲームのシナリオ通りに動く事に決めた。

 次の戦闘地点は小高い丘程度の山道での盗賊団からの強襲だ。

 本来ならば酒場で経験値を得てレベルアップしたカルとヴィヴが苦戦する程度の敵でしかないが、とりあえず盗賊「団」ということで数は多い。

 一人くらいはカルが倒せるかもしれないと俺は考えたのだ。


 しかし、現実というか、カルを弟のように守り育てていたはずの黒騎士二名は、実の兄のようにカルの心を砕くことを厭わない糞野郎共であった。

 カルは死体が累々とする丘の中腹でしゃがみ込んだまま動かなくなり、俺は額に手を当ててこれからどうするべきかと悩むしかなかった。


「弱いなあ。もう少し負けん気って必要だと思うなあ。」


「イーヴ。余計な事しか口にできないのだったら、馬の上で寝ていてくれた方が良くてよ?」


「おお、こっわ。」


 イーヴではなくハルが茶々を入れた事で俺は完全に頭に血が昇った。

 俺は腕を組むと、愚連隊二名に対して顎を上げて睨みつけた。


「いい加減になさいな。カルを剣士として成長させるのがあなた方の任務の一つでもあるのでしょう?いいこと?今後戦闘になっても、あなた方は二十秒は動かないで。カルをせめてレベル30ぐらいにしなければ、後々の大きな戦場になった時に困るのはあなた方よ。」


 ハルバートは自分の口元を大きな右手で覆い考え込み、イーヴはどうでも良い話だよという風に眠そうに目元を擦った。

 とりあえず俺は一応は考え込んでいる風の姿を装ったハルに期待した。


「理解できて?」


 ハルは口元から手をパッと離すと、これまたパッと笑顔を作って見せた。


「君のカルへの気持ちは理解できたよ。ただね、言い返させてもらえば、王様が前線で剣を振るうものじゃないでしょう。下手に腕に自信があると、自分がって前に出てしまう。その場合の方が臣下の者が大変だと考えないのかな。君もまだまだお子様だね。」


 自分が好き勝手に暴れて剣を振るいたいだけ、だろう?

 そう俺は言い返してやりたいが、そんな戦闘狂でもあるハルバートの適当な言い分が正しくもあると俺は認めてもいた。

 俺が言い返せなくなった時、俺のドレスの裾は後ろに引かれた。

 落ち込んでいたカルが俺の裾を掴んで少し引いただけであるが、俺を見上げながら軽く横に頭を振るカルに、何を言っても無駄、という哀れな諦めも見えた。


 紫色の瞳はアメジストのようなのに、輝きなど失った今の双眸は洞窟の穴のような翳りしか帯びていない。

 捨てられてた翌日に保健所で安楽死させられる予定の犬のようなカルの姿に、俺は哀れと思うよりも更なるいら立ちを感じた方が強かった。


 俺は前世の過去を思い出したのだ。

 逃げた犬が見つかったとの連絡で保健所に行き、自分の飼い犬ではない犬を引き取って帰らねばならなくなった経験だ。

 俺の犬は柴だ!

 ビーグル崩れの雑種犬のどこが柴犬だと言ってみろ、そんな記憶だ。


 つまり、俺は弱っている犬を捨てて置けない性なのだ。

 俺は再びハルバートに対して顎を上げて睨みつけた。


「いざという大きな戦場で、あなたはカルの傍に控えるとおっしゃっているのね。ええ、あなたやイーヴがカルを常に守ってくれるなら安心ですわ。ねえ、カル。あなたが成長しなくていいと言っている人達だもの。彼等を盾にして出来る限り後方の安全地帯に籠っていましょうね。」


 カルは俺の言葉に自分が馬鹿にされたと勘違いした表情を一瞬見せたが、流石に王になる予定の男は頭の回転は速く、俺にニィっと子供のような悪戯そうな笑顔を見せると子供のように頭を上下させた。

 そして、子供のようにしてぴょこんと立ち上がりもしたのだ。


「俺はヴィヴの言う通りにするよ。」


 カルと俺は悪巧みの目線を交わした。


「ええ。私達は安全地帯に籠って、出来る限り戦場から遠くにいましょう。」


 安全地帯に籠るのは意外と俺の希望だったりもするのだが、ハルはそんな俺の希望の気持ちを感じ取って嘘提案を真実味のあるものと受け取ったようだ。

 ぎりっと解りやすい歯噛みをしてくれた。

 一応はカルの方が位の高い王子様でもあるのだ。

 ここぞという戦でハルとイーヴを後方から動かさない、そんな事が可能な権力も持っているのである。

 カル本人こそ、ようやくそこに気が付いたようだが。


「ハル、イーヴ。俺をいつも守ってくれてありがとう。俺はイーヴとハルがずっとそばにいてくれるなら赤ん坊のように弱くても平気だよ。赤ん坊だから戦場から遠い所に隠れてしまうかもしれないけれどね。」


 カルの笑顔は俺を誘拐して見せた時に見せた笑顔と同じ、やってやったぞという自分への称賛で輝いていた。

 そして、負けん気で戦闘狂の暗黒騎士は計算高くしたたかでもある。


「情けない。そこは騎士として怒るところでしょう。ええ、私達に反発して自分が良いというまで動くなぐらい言って欲しかったが、仕方が無い。カル様、存分に剣を振るいなさい。私とイーヴは後ろに控えておりましょう。」


 カルはぱあっと子供のように嬉しそうな笑顔に戻ると、うんうんとやっぱり子供のように頭を上下させてハルバートに尊敬の目を向けた。


「すまなかった。俺は卑屈になっていたようだ。ああ、ヴィヴに子ども扱いされる事で俺は自信を失っていたからかもしれない。気付かせてくれてありがとう、ハルバート。」


 俺はちょっと待てよ、という気持ちだった。

 ビーグル崩れを家に連れ帰って、両親に叱られ、家出から戻って来ていた愛犬に足首を噛まれたあの日のようだ。

 ビーグル崩れは俺を慰めるどころか、俺の両親と柴に媚を売って俺を威嚇してきたというあの日!

 だから、俺は余計なことを言ってしまったのかもしれない。


「頭にくる方々。敵に強化魔法をかけてやりたいくらい。」


「あ、それやって、ヴィヴ!わあ、楽しそうで目が覚めた!」


「ああ!次からは頼むよ!ヴィヴ!君はさすがだ!」


「ふふふ。君も偶には良い提案をするのだね。」


 飼い犬の裏切りに対して仕返しに猫缶を喰わせたら、普段の犬缶よりも柴は大喜びし、ビーグル改などはいつまでも皿を舐めていたという姿も思い出した。

 奴らも今のカル達のように、キラキラとした瞳を俺に向けていたな、と。

 本気でやるぞ、強化魔法を、敵に!

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