第二の戦闘
気絶してしまったカルだが、彼はハルバートの薫陶を受けている癖にとっても優しく真正直な騎士そのものな立派な男だった。
彼は目を開けるや、大丈夫だと俺にまず微笑んで見せたのだ。
「ごめんなさい。あなたが私を置いていくからって、つい。ああ!あなたがこんなことになるなんて!あなたに振り向いて欲しかっただけなのよ!」
俺は彼の純粋さに責められているようで、自分のいたたまれなさに取りあえず目を覚ましたカルに謝罪を叫びながらしがみ付いてみた。
俺の後ろで聞こえる、嘘吐き、嘘だあ、という黒騎士というモブ二名による非難などどうでも良い。
この事態こそお前らのせいだ。
だがカルは、俺が心配になるほどに俺の言い訳を信じ、ものすっごく喜んでいるなと俺が完全に引いちゃうくらいな、ぱあああああんと喜びで弾けそうな笑顔で満開となった。
「ハハハ。俺こそごめん。でね、大丈夫だよ。ヘルメットを被っていたからね。」
いや、被っていなかったし。
前世の記憶が強い俺は個人的にその台詞に吹き出しかけ、ここで笑ったらいかんと口元を慌てて押さえた。
「ヴィヴ!どうしたの!」
「うっ。あなたの優しさが嬉しくて。私はこんなにも酷い女なのに。」
「まじひどいよねぇ。俺の目が覚めちゃったくらいだよぉ。」
「それよりもね、カルがどうして信じちゃうかね。」
「聞こえているぞ、暗黒騎士達。」
反射的に俺は後ろのモブ連中に出来うる限りの低い声を出していた。
「ぷ、くく。ヴィヴは本当に面白い人だ。誰にでも隔たりなくて、それは君が聖女であるからかな。俺は俺だけを見て欲しいって思ってしまって。ごめん。それは間違っているよね。」
俺がカルと同じ十代でちゃんと中の人も女の子だったら、このまっすぐで気遣いのある青年に恋をしただろうか。
しかし、俺は三十代のおっさんでしかない。
俺は俺の後ろのモブ連中が、はずい、とか、よく言えるな、と、仮にも王子様なカルに対してぶつくさ言っている事で、尚更にカルが可愛らしく感じていた。
よしよしと、あんなひどいお兄ちゃん達に囲まれて可哀想だね、という親戚の小父さんのような気持ちになってしまったと言っても良い。
けれど、世界は同情で動かしてはいけないものだ。
その証拠に、俺に同情心が芽生えた途端に、俺とカルはアクリルボードに囲まれてしまったのである。
カルはヴィヴに自分だけを見て欲しいと望んでいます。
1、ええ、あなただけを見つめるわ。
2、それでは、わたくしをあなただけのものにして。
3、ごめんなさい。わたくしは世界の男全てを手に入れたいの!
オイ!
ほかに選択肢は無いのかよ!
何だよ、これは!
俺がなかなか決められないと、選びようのない選択肢は勝手に点滅を始めて、俺はあのゲームが選択肢を選ばなかった場合にランダムで勝手に選択されてしまう仕様だった事を思い出していた。
ちくしょう!
俺は再びカルに抱きつくと、一番の台詞を叫んでいた。
「あなただけを見つめさせて!」
俺の選択肢は消えた。
その代わり、カルの選択肢が現れた。
あなただけを見つめさせてとヴィヴが言っています。
いや、お前が言わせたんじゃねえか。
何を他人事な言い方をしているかな。
反抗心丸出しの俺への嫌がらせのように、どん、どんと選択肢が現れた。
1、今すぐ結婚しよう。
2、この戦闘が終わった後に結婚しよう。
え?この戦闘?
俺達は宿屋の前の広場にいた筈だが、俺達の世界は宿屋の酒場のような風景となって、そこに十六人の酔っぱらいが思い思いの武器を持っている、という場面となっていた。
ああ、そうだ。
第二の戦闘は宿屋の食堂が舞台だった。
酔客に身をやつしたメディアの兵隊にカルとヴィヴは襲われるのだ!
急に始まったイベント戦闘に驚く俺の目の前で、選択肢二番がちかちかと点灯し始め、俺は慌ててカルの口を塞いだ。
「戦闘前に結婚の約束をすると死んでしまうジンクスがあります。わたくしはあなたにだけは死んでほしくありません。」
俺の口を塞がれたカルは目を見開き、俺の手をそっと握って自分の口元からその手を下ろさせた。
すると、うわお!選択肢が一つ増えている。
3、俺のこれからをずっと見ていて
カルは俺に満足そうな笑みを見せた。
「俺のこれからをずっと見ていて。」
「ええ。喜んで。」
すこーんとアクリルボードは消えた。
「さあ、敵の殲滅だ!ヴィヴ!強化まほうを……。」
俺はホッとするべきか、カルを哀れと慰めるべきか。
カルの戦闘開始の宣言を聞くや、悪魔騎士二名が一瞬で十六名の酔客風の刺客を殲滅してしまったのである。
カルの経験値が増えるはずもない。
カルは自分が成長できない境遇になった事を知ると、しゃがみ込んでしくしくと泣き出してしまった。
「ああ!カル!次がある。次に頑張りましょう!」
「ないよ。絶対ない!俺は一生騎士見習いなんだあ!」
ああ、面倒臭え!ハルとイーヴ、お前らは王宮に帰れよ!




