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雨の中の逃避行

 みぞれ混じりの雨がぼつぼつと降る中に、猛スピードで駆け抜ける騎馬一騎。


 黒ずくめの騎士を乗せる馬の毛色は栗毛だが、蹄に近づくごとに漆黒に染まるという色合いという、まるで闇から抜け出て来たような色合いだ。

 馬上の騎士は白服の少女を抱えていたが、彼が暗闇の化身であるためか、灰色の髪のその少女は白銀色に光り輝く目印に見えた事であろう。

 また騎士は身に纏う防具がヘルメットに胴鎧のみという軽装だが、その軽装は暴れる捕虜を確実に捕え、且、追手から逃げ延びるための機動性を重視してのものだ。


 事実、黒騎士が抱えているのが細身の十代の少女であろうと、二人乗りというハンディを持っている。

 それなのに、彼の馬は一向にスピードを落とすことなく、彼等に追いすがろうと馬を走らす重装備の追手を刻一刻と引き離していっているのである。


 俺はここで人生を受け入れるしかないと臍を噛んだ。


 ここは俺の知りすぎているゲームに酷似した世界なのだ。


 これこそ強制的イベントどころか、ゲームのオープニングでしかない。

 さすればここに俺の意思など介入する余地など無い。

 俺という自我を取り戻し、自分がゲーム世界に転生したと気が付いた時、俺は絶望だけでなく今世のこの自分の人生を一度は受け入れたのでは無いのか? 


 俺は大きく息を吐きだすと、大きく声をあげて叫んだ。


「いい加減に手を緩めてよ!あなたの胸元に吐くわよ!いいの!」


 黒騎士はぎょっとしたようにして俺に回していた腕を緩め、俺は少しでも優雅に見える様な素振りで鞍に座り直した。


「ハハハハ。気が強いな!気に入ったよ!ヴィヴ!」


 黒騎士はバイザーを上げて自分の見目麗しい外見を晒した。

 ゲーム内では主人公の彼は、男らしいというにはまだ十八歳の為、線が細い少年の雰囲気も残す王子様だ。

 まあ、彼がバイザーを上げなくとも、俺には彼の見目麗しい外見が手に取るようにわかっていた。


「うわ。」


 しかし、俺はいい意味で世界に裏切られていたようだ。

 主人公の外見は、整った顔立ちは間違いないが、好感の持てる十代の青年の外見でしかなかった。

 日に焼けた肌に仄かにピンク色がかった明るい金髪に紫色の瞳という王子は、実際では実写補正がされており、ゲーム内の映像のように見目麗しいとまで行かなかったのである。

 俺は友人づきあいは出来そうな彼の外見を知って、ほっと溜息を吐いた。


「驚かせて済まなかった。俺はカル。前王の弟の息子であるカルヴィンだ。もっと馬を飛ばすから舌を噛むなよ!」


「え!うひゃああ!」


 カルの宣言通りに馬はさらに脚力を増し、俺の体はがくんとバランスを失って馬から落ちそうになった。

 だが、主人公カルはイベントを台無しにはしない。

 俺をしっかりと抱き直すと、彼の味方が待っているだろう第一の戦闘ポイントにまで俺をしっかりと連れて行ったのだ。



 ストーリー上で主人公の伴侶となるヒロインの中の人が、三十代で死んだ魔法使いだった事も知らないで。

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