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花と剣は神の箱庭で踊る 作者:菰野 凛々
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05・新たな仲間


氷鱗亭の食事は新鮮で慣れ親しんだ味に近く、とても美味しかった。


ここは最初ジェイドが言っていた通りに魚料理が主だったから、”魚嫌い”と彼の設定を組んでしまった芽亜としては非常に申し訳ない気持ちになる。

ジェイドは澄ました顔でサラダばかり食べながら時折酒を飲んでいた。


「お肉とか食べなくて良いの・・?」

肉については設定上言及していなかったのだが、種族的に肉は好きなのではと思う。


「肉はそんなに好きじゃない」

「好きじゃないの!?」

芽亜は”果物好き”と設定はしたが、まさか本当に果物しか食べないのだろうか。


「えっと、じゃあ何が好き?」

「ん?野菜とか果物とか。卵は少しなら食える」

朝は大体果物とコーヒーか、野菜ジュースだな。

そうサラッと答えるジェイドに(ダイエット中の女子か)と内心突っ込みを居れた芽亜だった。


「じゃあ、甘い物は好き?」

「まぁまぁ」


――そんな些細な会話を楽しんでいた芽亜だったが、そう言えば、とタブレットを開き本題に入った。

「あのね、初戦は5日後で、5日後の10時に闘技場正門に集合なんだけど、対戦相手の情報が一切無いの」


芽亜にとっては、この事実はかなり痛い。戦いに勝つには個人の強さも勿論なのだが、実力がほぼ同じだった場合、”種族差”も大いに関係して来るからだ。


ゲームの時は対戦相手は名簿を見ながら此方で選択する事が出来たし、不測の事態が起きた時には装備品やアイテムを引き換えにリタイアする事も出来た。

今回は、勝利以外の道は無い。十分な準備と警戒が必要と言えた。


そして獣人は妖精族と相性が悪い。

もし、相手が高レベルの妖精族だった場合は初戦敗退も有り得るのだ。


芽亜は闘技場を出る際に受け取った支度金の袋をチラリと見る。

中身は金貨5枚と紙幣の束が2つ。

貨幣価値はゲームと同じなので、芽亜にもこれがそこそこの金額である事は分かる。

それとは別に底の方に小さな包みが入っていたが、これの確認は一先ず後回しにする事にした。


ジェイドの武器は爪と牙。そして魔法。

獣人は攻撃力と敏捷性に優れるが魔力と魔法防御が恐ろしく低い。

低い上にパラメータもなかなか上がらないが、しかし全く上がらない事はない。

芽亜はレベルアップの度に攻撃と敏捷性、魔力と魔防がそれぞれ2ずつ上がるまでひたすらリセットを繰り返し、”嫉妬”で魔力と魔防を奪い続けた。


この苦労のお陰で、ジェイドは高い身体能力を生かし”白兵戦の出来る魔術師”に育ったのだ。

物理で押して来るかと思いきや、予想外に人狼から紡ぎだされる高位魔法。

ゲーム内でも、これで随分相手の度肝を抜いたものだった。


現在の装備は服に隠れて見えないが右肩に魔力を高める”心眼しんがん”のタトゥーが彫られ、左手の爪に魔防を高める”霧の腕”の紋様が刻まれている。

”花と剣”では武器や防具を買い替えて強化もするが、魔法系はそれぞれの効果の備わっているタトゥーや紋章を身体のあちこちに彫って行くのだ。


ジェイドの装備は今の所は現状で大丈夫だろう。

物理防御が多少気になるが、ここでコートの下に軽鎧を着せたりすると敏捷性が下がる。

先ずは初戦を何とか凌いで、装備の変更や強化はそこで考えれば良い。


そうすると、ジェイド達に宿代をある程度支払ってもまだ少しは残りそうだ。

(明日、日用品やお洋服を買いに行こうかな)

芽亜が色々考え込んでいると、ふと視線を感じた。


顔を上げると、頬杖をついてジェイドが芽亜をじっと見ている。

そこで初めて、初戦の日時だけ告げた後は己の考えに沈み込み、ジェイドを放置していた事に気付いた。


「あ、ごめんなさい!」

慌てて画面を消して謝罪をする。

「別に良い。それに心配するな、負けなければ良いんだろ」


そう言うと、何かに気付いた様に胸元を探り、通信機を取り出して耳に当てた。

「分かった。もう出るから待っててくれ」

それだけ告げると「メア、仲間の飛空艇が近くに来た。もう大丈夫か?」と卓上の皿を指差す。


「うん、もうお腹いっぱい」

ジェイドは軽く頷くと手を挙げて店員を呼び、金を支払うと「行くぞ」と芽亜の手を再び掴んだ。

周りが一瞬ザワつき、客が一斉に此方を注視する。


周囲としては、可愛らしい人間の少女が人狼に手を掴まれ連れられて行く様がそれこそ誘拐に見えたからのザワつきであったのだが、芽亜は子供扱いされているみたいで恥ずかしくて仕方がなかった。


「ジェイド。あの、お金・・」

歩きながら小さく声をかけた。ジェイドは酒は飲んではいたがほぼ野菜しか食べていなかった様に思う。

普通に食事をしていた自分が、当たり前の様に奢られるのは何だか気が引ける。


「ガキに金払わす訳ないだろ?俺が恥をかく」

憮然と言うジェイドに「もう、ガキって。私は16歳なんだから。私の国では結婚だって出来るんだからね?」と少しムッとしながら訴えた。


「・・結婚?」

「きゃうっ!」

いきなり立ち止まったジェイドの背中に顔をしこたまぶつけた芽亜は悲鳴を上げた。


「・・お前、もしかして国に結婚相手が居るのか?」

はぁ?と思いながらジェイドを見上げた芽亜は、その凍えた針の様な眼差しに、驚いて身を竦ませた。


「い、いないけど・・?」

何故こんな目で睨まれないといけないのかしら。彼は何を怒ってるんだろう。

「・・そうか」

芽亜の手を掴み直すと、再び何事もなかった様に歩き出したジェイドに、芽亜は首を傾げていた。



********



氷鱗亭から歩く事10分。

この街にある大きな円環型の墓地の中央に巨大な飛空艇が停められている。

その周りには、数人の男達が立っていた。ジェイドは芽亜の手を掴んだまま、男達に近寄って行く。


「ジェイド!」

先頭に居た男が此方に向かって手を挙げた。ジェイドもそれに応えながら「アイツはリーダーのレンだよ」と教えてくれた。


芽亜はひっそり深呼吸をして、緊張をほぐそうと努めた。自分の関与していない所謂”派生キャラ”に会うのが初めてと言う事もあるが、元来が人見知りなのだ。


「ジェイド、遅かったな」

「大丈夫かよ」

「しかし、通達ってあんな急に来るもんなんだな」


――周りを取り囲み、ワイワイと喋りだす男達に気圧され、芽亜は思わずジェイドの背中に隠れた。

途端に静まり返る周囲。


芽亜は慌てて「は、初めまして・・。行平ゆきひら 芽亜です・・」と消え入る様な声で自己紹介をし、頭を下げた。


「・・なぁ、”花と剣”のパートナーって自分で選べんの?」

レンと呼ばれたリーダーの、小柄な男がジェイドに問い掛けた。

男、と言っても見た目は芽亜とさして変わらない様に見える。少年と呼ぶべきかもしれない。


「いや?パートナーの部屋に行ったらコイツが居た」

「マジか。つーかお前の好みど真ん中じゃん」


レンの頭に肘を置きながら「やっぱ、噂に聞いた通りだな。パートナーは大体自分のタイプのコが来るって」と言いながら芽亜をジロジロ見て来る別の男は、濃緑の髪に薄緑の肌。虹彩の無い山吹色の眼をしていた。


昆虫族の蟷螂型だ。レベルが上がって来ると人型と言うか二足歩行が出来る様になるのだが、初期は下半身が蟷螂と言う見た目なのでなかなか選ぶプレイヤーがおらず、芽亜もゲーム内では1~2回しか見た事が無い。


目の前の男は二足歩行をしているので、きっと戦闘力はそこそこあるのだろう。

芽亜が物珍し気に見つめていると、ジェイドが「メアに近寄るな、アイカー」と苛立たし気に言いながら腕を強く引いた。



ジェイドに連れられ、飛空艇の中に入ると、更に沢山の男達がいた。

すれ違う度に気さくに挨拶してくれる男達に頭を下げて挨拶を続けた芽亜は、部屋に案内される頃にはグッタリとしてしまった。


「大丈夫か?」

「うん・・」

「すまないな。皆お前が珍しいんだよ。今まで花と剣の出場者にここから誰も選ばれた事無かったし、そもそもこの飛空艇に部外者が乗った事も無かったからな」


申し訳なさそうにするジェイドに「ううん、私こそ緊張しちゃってごめんなさい」と微笑み「ねぇ、明日お買い物に行って来て良い?」


「買い物?」

「うん。お洋服とか今着てるのしか無いし、日用品とかも必要だから」

駄目?とお伺いを立てると「いや、良いよ。明日はルードルートに戻るし丁度良かった」

「ルードルート?」

「俺らが拠点にしてる街。服でも靴でも流行りの物は大体其処で手に入る」

ここには5日後に戻って来れば良いんだろ?と言うジェイドに頷きながら芽亜は、はた、と気が付いた。


――お洋服はともかく、下着やパジャマは今日買ってなきゃ駄目だったんじゃない・・?

どうしよう。下着類を借りる訳にもいかないし、思春期の乙女としては男性にそんな事相談出来る訳が無い。


どうしたものかと思いながら、支度金の入った袋を無意識に弄る。

その手触りでもう一つの包みの存在を思い出した。(あーんもう、どうかお願いっ)包みを恐る恐る開いて覗くと、中には歯ブラシと簡易的な下着が入っていた。


「良かった・・!」

ハァ~・・と大きく安堵の息を吐く。あのムカつく神が用意したのかと思うと何となく腹立たしいが、背に腹は代えられない。


「何が良かったんだ?」

不思議そうな顔をするジェイドに「何でもない」と返しながら、「ねぇ、明日は一人で行っちゃ駄目?」

「駄目」

・・そう言われるとは思ったが、下着類を買うのに一緒に来られるのは困る。

明日は隙を見てこっそり行こう。芽亜は密かにそう思っていた。



「ジェイド、レンが呼んでるぜ」

部屋の外から声を掛けられ、何だよ・・と眉をしかめるジェイドに、早くシャワーを浴びて寝たかった芽亜は「今日はありがとう。おやすみなさい」と追い出す素振りを見せる。


渋々部屋から出て行くジェイドを見送る為に戸口まで歩いて行き「じゃあな、メア」「うん。おやすみ、ジェイド」と挨拶を交わす。


――扉を閉める直前、ジェイドがいきなり身体を屈めて芽亜の首筋に噛み付いて来た。

「ひゃっ・・!?」

驚いて身を引く芽亜の肩を抑えて動けない様に固定し、そのままガジガジと甘噛みを続ける。


衝撃の余り気を失いそうになった辺りでジェイドはようやく噛むのを止め、濡れた首筋をペロリと一舐めすると「・・おやすみ、メア」と言いその場を去って行った。



「な・・何・・今の・・」


キスされるなら百歩譲ってまだ分からないでも無い。

しかし唇をスルーしていきなり首に噛み付いて来るとか、理解の範疇を超える出来事にクラクラと眩暈すら覚える。


芽亜は頭を左右にブンブンと振り「もう寝よう・・」とベッドに倒れ込んだ。

今日は色んな事が起き過ぎた。シャワーは明日の朝浴びれば良い。


あぁそうだ。明日は、ジェイドをどうやってまくか考えなきゃ・・。



そう考えていく内に、芽亜は深い眠りに落ちて行った。



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