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14・謎の二人組②


「今回は不戦勝だからポイントはまぁまぁ高いけど、賞金は無しなんだよ」

ごめんね?と言うゴードにポイント付与のお礼を言い、芽亜は部屋から退出しようとした。


「待って」

ゴードから急に呼び止められ、怪訝な顔で振り返る。

「何ですか?」

「あのね、僕はしばらく用事で留守にするんだよ。だから暫くはこのティリンガストが僕の代わりを務めるから」

銀仮面が芽亜の方を向き、仰々しく頭を下げる。


「あ、はい。よろしくお願いします」


(何で態々言うんだろう?)

不思議に思いつつ、取り合えず芽亜もペコリと頭を下げた。

「失礼しましたー」

そしてさっさと部屋から出て行った。



「ゴード様。何故彼女にだけ?」

――もう聞くのも面倒だが、部下として一応聞く。

「別に。偶々(たまたま)思い出したから」

涼しい顔でのたまう上司に、ティリンガストは真剣に別世界への転職を考えていた。



********



「ジェイド!」

控室でぼんやり待っていたジェイドは、戻って来た芽亜の姿を確認すると微かに顔を綻ばせた。

「早かったな」

「うん、でも今回は賞金無しなんですって。不戦勝だから」

前のお金、無駄遣いしない様にしなくちゃ、と言う芽亜の頬を撫で、ジェイドは優しく言った。

「何か欲しい物があったら言えよ?」


「ホント?すーっごく高い物おねだりしちゃったらどうするの?」

悪戯っぽく笑う芽亜。

「良いよ?お前にだったら全財産くれてやっても」

ジェイドは唇の端をあげ、ニヤリと笑う。


――こういう時だけ大人の男の人っぽいのズルい。普段は子供みたいなくせに。気恥ずかしさを誤魔化す様にタブレットを起動させ、次回日程を確認する。


「あー明日だ……ってあれ?」

「どうした?」

日程が第1・第2となっている。首を傾げながら、ジェイドにタブレットを見せてみた。


「どれどれ。あぁ、これは明日は連戦って事だな。負けたら一回で終わりだ」

「えー!大変じゃない、明日どうしよう……」

「心配するな、負けないから」


ジェイドは芽亜を抱き寄せ、その首元を軽く噛む。

「一度戻って明日以降の仕事の調整して来る。お前も部屋帰って大人しくしてろよ?連絡は夜にまたするから」

芽亜は頷く。ジェイドは送って行く、と芽亜の手を掴んで歩き出した。



エーベルの前に到着すると、”さっさと入れ”と言わんばかりに目で促して来るジェイド。

「もう、郵便局まで見送りに行くって言ってるのに……」

芽亜はそう拗ねてみせた。


「見送られるのは好きじゃないんだよ」

「どうして?」

「どうしても」


何となく寂しくなるから。とは言える筈もなく、誤魔化す様に芽亜の右手を取った。

そのままもう片方の手でコートのポケットを探り、中から緑の石で出来た指輪を取り出す。

それを、掴んでいる芽亜の薬指にそっと填めた。


「王都で見つけたんだ。俺のコレとお揃いみたいだろ?」

己の右耳を指差し、翠玉の耳輪を芽亜に見せる。

「……その内、こっちの指にもっと良いヤツ買ってやるから」

そう言った後、指輪の無い左手の薬指にチュ、と音を立ててキスをした。



********



「あっれー、メアちゃんどうしたの?」


声を掛けられ、我に返った芽亜が目にしたものはキョトンとした顔のウィーナとその傍らに立つ若い男。男はさして背は高くないがガッチリとした体つきで、額と頬、腕や足などに藍色の鱗を持ち、頭部には2本の角。


「あ、彼は私の旦那サマ。今日やっと仕事から帰って来たの。オリオン、この子がメアちゃん。ウチの2階に住んでるの」

よろしく、とにこやかに微笑むオリオンにペコリと頭を下げる芽亜。

(旦那さん、竜人族なんだ)


「ところでメアちゃん。何ボーッとしてたの?ウチの前直線道路だから結構遠くからメアちゃん見えてたけど、かなり長い事茫然自失としてたよー?」


――ジェイドに思わぬプロポーズ的なものを受け、動揺の果てに魂を飛ばしていたなんて言えない。


「ななな、何も無いです何でも無いです!」

「うん、何かあったのね。まぁ良いわ。中に入りましょ?」


ウィーナに促され、夫婦と共に店の中に入ろうとした芽亜だったが、夕方にはあの二人組と会わなければならない事を思い出した。その前に、明日の準備をしておかなければ。


(今の内にお昼ご飯も食べておかなきゃ)


ウィーナ夫婦に断りを入れ、再び街中に向かった芽亜は一先ず氷鱗ひょうりん亭に向かった。



テラス席に陣取り、タブレットを起動させる。明日は連戦だ。ポイントをフルに使ってジェイドのパラメータを上げておかなければ。


「うーん、どうしようかなぁ」

「へぇ、コレが例のアレっすか」


突如、耳元で聞こえた声に芽亜は文字通り飛び上がった。

「ちょっ……!何!?」


肩越しに振り返ると、身体を屈めてタブレットを覗き込むスーツ男と目が合った。咄嗟に視線を周囲に彷徨わせるが、青髪少年の姿は見えない。


「あぁ、弟クンは外っすよ。お姉さんに連絡しなきゃいけないんで」

スーツ男は当然の様に芽亜と同じテーブルに着き、優雅な仕草で足を組んだ。


「それよりも、随分早かったっすね。お嬢ちゃんと会うまで時間あるから、此処で時間潰そうと思ってたんすけど」

「あ、それは……」


芽亜は事情を説明した。スーツ男はふぅん、と相槌を打ちながら給仕の女性を呼び止め、ワインと葡萄ジュースを注文する。

「ちょっとソレ見せてくれないっすか」


男はタブレットを指差した。タブレットを手渡した後、それを弄繰り回す男をじっと観察する。

綺麗に整った顔に、適当に後ろで縛った灰銀の髪が幾本かサラリとかかり、腹が立つ程格好良い。

左右の耳には硝子か水晶か、透明な紡錘形のピアス。それが光を受けてキラキラと揺れている。

ピアスの内部は空洞になっているのか、左側には金の液体、右側には銀の液体が入っていた。


(良いなぁ、コレ。とっても素敵)

洋服や靴だけでなく、アクセサリーにも敏感な芽亜は変わったピアスに釘付けになっていた。



「何だお前。もう終わったのか」

ドカドカと言う荒い足音と共に、青髪少年が芽亜達の元へやって来た。

「不戦勝だったそうっすよ」

少年に目を向ける事無く、スーツ男が応える。


「で?どうだった?」


――芽亜はやり取りをそのまま話した。

案の定、少年は苦い顔をする。

「何も聞き出せてねーじゃねぇか。使えねーなお前」

「すいません……」

一介の女子高生に何も求めてるんだ。スパイ行為なんざやった事も無いのに。


「あの、お二人は何者でいらっしゃるんですか?」

「お前が知る必要はない」


バッサリと切り捨てて来る少年に、流石に芽亜も苛立ちを隠せなくなって来た。

「じゃあ良いです。貴方達の事をカミサマに告げ口してから正体を教えて貰うから」


「待ってお嬢ちゃん!この弟クンは対人スキルがちょっと低いんすよ。後で良く言い聞かせておくんでそれは勘弁して貰えないっすか」


スーツ男からタブレットを奪い返し、立ち上がる芽亜をスーツ男は必死に宥める。芽亜は少し考えた後、渋々椅子に座り直した。スーツ男にほら、と促された青髪少年は仕方なさそうに口を開く。


「……ここんとこ俺達の世界から原因不明の行方不明が多発している事がわかった。それを調べに来た」

「所謂”神隠し”ってヤツなら自分らに所在が掴めない訳は無いんすよ。実際、他所の世界に飛ばされた人間も弾みで別の時空に紛れ込んだ人間も、全て行方は掴めてるんす。ただ今回は、何処に連れてかれたのかがホントわかんなくって、困ってたんすよね」

「どうして此処がわかったんですか?」

芽亜は純粋な疑問を口にする。


「お前が、俺の姉貴の名前を正式に詠んだからだ」

青髪少年の予想外の答えに芽亜は仰天した。この人が誰かすらわからないのに、何でお姉さん?


「今回もその前も、連れ去られた人間達の一部は己の信じる神の名を何度も口にしていた。実際、その声は聞こえてはいたらしい。だが、異世界なのか、別の時空なのか、何処から聞こえているのかはどうしても掴めなかった。そんな中で誰かが姉貴の名前を口にした。古来より日ノ本の民には”言霊”の力が備わっている。そいつが口にした姉貴の名前は言霊となって姉貴の元に届いた。姉貴が場所を特定出来たお陰で、俺達は此処に来た」


「信仰心なんざ欠片も持ってないお嬢ちゃんが切っ掛けになるなんてねぇ」

皮肉気に言うスーツ男の台詞も耳に入らないまま、芽亜はゴードとのやり取りを思い出していた。


『アナタ日本の神様じゃないでしょ!?――――の許可とか取ってるの!?』


「も、もしかして、貴方って……!」

少年はフフン、と胸を張る。

「お嬢ちゃん、名前口にしちゃ駄目っすよ?」

スーツ男はやんわりと芽亜に釘を刺した。


「知らないけど!あの、何かよくわかんないけど、日本の神様でしょ!名前とか全然知らないけど!」


――芽亜は神話には全く興味が無いのだ。


「……っ!て、てめぇ!じゃあ何で姉貴の事は知ってんだよ!」

「有名だもん!って言うか他を知らないもん!あの時だって何か適当に言っただけだし!」


ほら、”俺の後ろには何とか組が付いてるんだぜ”的な感覚で。

そう悪びれもせず言う芽亜に、青髪少年は絶句し、スーツ男は腹を抱えて爆笑していた。



芽亜は二人に、この異世界に来た時にゴードと話した内容を伝えた。


「成程な。自らの世界の一部をゲーム化して魂を同調させ、その後に連れ込むって手口か。それにしても残された側の人間の記憶を消したり、周到な奴だよな。道理で発覚が遅れた訳だ」

「世界を発展させる為の労働力を他所からさらって来るとは、最近の若い神は怖いっすねぇ」


やれやれ、と言った感じで話し合う二人を黙って見ていた芽亜に、青髪が気まずそうな顔をした。


「勘違いされると困るから先に言っておくが、俺達はお前らを救出に来た訳じゃないんだぜ?ともかく消えた存在の行方を掴むのと、後は別の調査の為に来たんだ」


だろうな、と芽亜は何処か冷静に思った。此方の世界からすると彼らの方こそ異世界神。此方では大した力は使えないのかもしれない。


「でもまぁ、還れなくても別に悪い生活じゃなさそうじゃねぇか。ゴードの言う通りなら向こうで悲しんだり騒いだりされる事も無いし、それにパートナーの男が傍にるんだろ?」


一人孤独に異世界で野垂れ死にする人間も少なくないしな、と言う少年を、芽亜は胡乱な眼差しで睨みつけた。


「本当にカミサマって適当!確かにジェイド、彼は私の設定とは違う様になって来てるし”現実の人”ってもう認識してるけど……。でもやっぱり、いきなりパッて現れた人なんだって思うと!」


――ポカンとした顔の二人組に芽亜は苛立つ。


「だから!”昔何々をした”って話を聞いても、”その記憶は捏造されたものなんだよね”って思うと、白々しく感じちゃうって言うか!」

「……お前、馬鹿なのか?」

「ば、馬鹿って!」

「まぁまぁ」


スーツ男が二人の間に割って入る。

「お嬢ちゃんは色々と面白いからきちんと説明してあげるっすよ」


そう言うと、自分と少年のグラスにワインを、芽亜のグラスに葡萄ジュースを、ゆっくりと注いだ。


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