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13・謎の二人組①

 

「じゃあメアちゃん、このお部屋使ってね。好きなだけ居てくれて良いから。あ、でも彼氏連れ込む時は一言声かけてくれる?」

「はい……って、彼氏なんて居ませんから!」


 慌てて否定する芽亜めあに「冗談だよ」とウィーナはケラケラと笑う。

「ところでメアちゃん、気になっているであろう宿泊費だけど、朝夕の食事付きで1日800Gでどうかな?」


 ――ネリから”格安”とは聞いていたがこれは安過ぎる。ジェイドと氷鱗ひょうりん亭で食事した時はお昼時間でも二人で1500Gはしていた。


「いえ、それでは申し訳ないですから、食事は結構です」

 恐縮する芽亜にウィーナは優しく笑いかけた。

「気にしないで。だって寂しいでしょ?家族から離れて、違う世界に連れて来られて。食事位一緒にしましょうよ」

 その言葉を聞き、芽亜は驚きに目を見開いた。まさか、ウィーナさんも?


「私も、元出場者だからね。ネリと違って早々に負けちゃったけど。じゃあ夕食の時間になったら呼ぶねー」

 ウィーナはみゃはは、と笑いながら驚きのあまり硬直している芽亜を置いて部屋から出て行ってしまった。


 ◇


<メア、何処にいる?今何してるんだ?>


 エーベルに来る前に郵便局でタブレットを見せ、当面必要なお金を降ろしておいた。

 それを細かく分けている内に、あっという間に夕方になっていた。

 そして夕方の定期連絡。まだ二回目にも関わらず、芽亜は早々にうんざりとしていた。

「今何してる」ってメールでも一番面倒くさい奴。


『それ知ってどーすんだって、思うのよ』

『――ちゃん。芽亜もそう思う』


 ――頭の中に何かの光景が雪崩れ込み、グラ、と眩暈がする。何、今の。

 何処かで、聞いた様な声。この記憶は、何?


<どうした?>

 心配そうなジェイドの声に芽亜ははっと我に返った。

「ううん、何でもない。あのね、泊まる所見つかったの。”エーベル”って言う紅茶屋さんの二階に間借り出来たの」

<エーベル、ね。あぁそうだ、お前部屋の机の上に金置いてっただろ>

「え?うん、だってお世話になったし」


 レン達の帰りが翌朝になると思い込んでいた芽亜は、お礼の手紙と共に余っていた金貨2枚、つまり2万Gを滞在費として置いて来たのだ。


<あれは俺が預かってるから。気を遣わせるなって俺がレンに怒られたんだからな?>

「ごめんなさい……」

 通信機の向こうで尚もブツブツ言っていたジェイドだったが、誰かに呼ばれたらしく舌打ちをしながら何やら怒鳴り返していた。

<メア、次は夜に連絡するからな。風呂入ったら身体ちゃんと拭いて、裸でウロウロしたりすんなよ>

「わかってるってば!」


 ――通信を切った後、芽亜は天井を眺めながら昼間のネリとの会話を思い出す。

 わかっている。ネリの言っていた事は、本当は自分だってわかってた。でも、目を逸らし続けなくてはいけない。父と母は今、娘が居た事を知らずに暮らしている。何としても帰らなければ。例えどんな手を使ってでも。誰を犠牲にしても。


「メアちゃーん!ご飯だよー!」

「はーい!」


 芽亜は重たい考えを振り払い、ウィーナの招きに応じながら階下へと降りて行った。



 ********



 対戦当日の朝、芽亜は朝食後、直ぐに街をフラフラと散歩をしていた。

 ジェイドとの待ち合わせまで後2時間もある。


「ん?」


 闘技場近くの噴水広場の周辺に、妙な人だかりが出来ていた。好奇心に駆られ人々の間から顔を覗かせると、男が二人、何やら言い争っている。二人の内一人は、灰銀の髪を後ろで軽く縛り、スーツ姿の細身で軽薄そうなホスト風優男。もう一人は長目の青髪を数本のヘアピンで左側だけ留め、ブレザー型の制服をだらしなく着崩した長身の少年。

 二人共に人目を惹くかなり端正な見た目だが、何となく周囲は遠巻きに眺めている。芽亜は好奇心を膨らませ、ひっそりと近付くとそっと耳を澄ませた。


「だーかーらー!姉貴が此処ここっつってんだから此処で合ってんだよ!」

「じゃあ何で見つからねーんすかねぇ!アンタんとこの人間はともかく、ウチの人間も探知出来ねーんすよ!?」

「お前の上も買収されてんじゃねぇのかよ!あのエロ親父みたいによぉ!」

「あの頑固野郎を買収すんのがどんだけ大変か知ってて言ってんすか?この引き籠りの弟クンは!」


(え、何、この人達マフィアか何か?)


 見た目もそうだが、話している内容がとても一般人のものとは思えない。早くこの場を離れよう。目を付けられたりしたら大変。芽亜はそっと後退ろうとした。しかし思った以上に前に出てきてしまっていた為に人混みに阻まれ、なかなか後ろに戻れない。

 何とか開いた空間から逃げ出そうとした瞬間、芽亜の右腕が背後からガシリと掴まれた。

「ひいっ!」


 恐る恐る後ろを振り向くと、青髪の少年が芽亜をジッと見下ろしていた。長身を屈め、怯える芽亜の耳元で低い声で囁く。

「お前、日本人だろ。日本人だよな?」

「は、はい?」

 震えながらも、取り合えず頷く。って言うか何でこの人日本を知ってるの?


「……ハッ!どーだ、見つけたぜ!やっぱ姉貴の言った通りだったろ?」

「え、マジっすか。へぇーただの引き籠りじゃないんすね、アンタの姉さん」

「引き籠り引き籠りしつけーよ!つか今は引き籠ってねぇし」


 訳が分からず涙目になる芽亜を気遣う事無く、少年は矢継ぎ早に質問を浴びせて来た。。


「お前、何時いつからこの世界に居るんだ?他に何人位居る?同じ境遇の奴と話したか?ゴードって奴の顔を見た事は?」

「ちょっとちょっと弟クン。そんな一遍いっぺんに聞いたら可哀想っすよ。お嬢ちゃん、ここに連れて来られた時に、連れて来た奴の顔は見たんすか?」


 少年を制する様に、スーツ男が柔和な笑顔で聞いて来た。あの、黄金仮面被った赤い髪の”カミサマ”が確かゴードって呼ばれてた様な。芽亜はそれをそのまま伝えた。


「赤髪の異世界神、間違いねーな。お前、そいつと話した事あんのか?」

「はい……対戦が終わった後は会わないといけないので……」


 顔を見合わせて何事かを話す二人を、落ち着きを取り戻した芽亜はじっと観察をしていた。

 何者なんだろう、この人達。そうこうしている内に相談が終わったのか二人が此方を向く。


「よし、じゃあお前、ゴードと会った時にこっちに連れて来られた人間が後どれ位いるのか探って来い」

「えぇっ!?私が!?」

「お前が」


 ビシリと指を差して来る少年の手を叩き落としたい衝動に駆られながら、芽亜は戸惑った声を出す。


「探って来いって言われても……」

「悪いっすねお嬢ちゃん。自分らがここに来てる事がバレるとマズいんすよ」


 決まりだな、と青髪の少年は頷いた。

「次に接触するのは何時だ?今日か?なら、夕方にまたこの噴水広場で待ってるからな」

 そこまで言うと、少年は芽亜の返事も聞かずにさっさと歩いて行ってしまった。


「ちょ、ちょっと待ってよ」


 芽亜はオロオロと立ち去る少年の背中を見つめ、次に助けを求める様にスーツ男の方をみた。

 スーツ男は左腕にはめている狼が巻き付いた様な形状の腕輪に向かって何か話かけている。


「フェンリル、お嬢ちゃんの匂い覚えたっすか?うん、それで良いっすよ」


 芽亜が何かを言う暇も無く、じゃあ後はよろしくーとだけ言い、スーツ男は青髪少年を追ってその場を去って行った。


 ◇


「な、何なの?」

 まるで嵐の様な二人組だった。でも、あのホストっぽい人、確か”フェンリル”って――。


「メア」

「きゃあぁ!」

 突然声を掛けられ、芽亜は飛び上がった。振り返る間もなく、背後から強く抱き締められる。


「ジェイド?やだ、吃驚びっくりした……」

「今の連中は誰だ?何話してた?」


 優しく問い掛けられたにも関わらず、芽亜の背中に冷や汗が滝の様に流れる。

 ジェイドは怒りが高い時ほど声が優しく甘くなる。それはこの1週間で十分に思い知った。


「み、道聞かれてただけ……」

「本当か?」

 抱き締められたまま首筋をゆっくり舐められ、芽亜は必死で頷いた。

 ふぅん、と呟くとジェイドは芽亜を解放する。そして今度は手を繋いで歩き出した。


「まだ時間あるし、散歩でもするか」


「ジェイド、随分早かったのね。お仕事は?」

「あぁ、予定より早く終わったからな。だからお前の言ってたエーベルに行ってみたんだよ。そうしたらお前は朝早くから出て行ったって言うから探しに来た」


(あ、危なかった……!)


 先程の二人組とのやり取りはどうやら聞かれていなさそうだった。

 今この段階で、自分が異世界から来たとジェイドに知られるのは非常に困る。

 芽亜は「ねぇ、時間までお仕事の話聞かせて?」とジェイドの手を引っ張り、噴水横のベンチに誘った。面倒くさそうな顔をしながらも尻尾を大きく動かす様子を見て、芽亜はクスリと笑った。



 ********



「えっ!?不戦勝!?」


 時間になり闘技場に向かった芽亜とジェイドに、入り口近くに居た仮面が申し訳なさそうに告げる。

 何と、今回の対戦対手の控室に日時を勘違いした別のペアが現れ、そこでひと悶着起こした。

 そして双方のパートナーが負傷をした上に、時間外の戦闘を行ったと言う事で両ペアとも失格になったと言うのだ。更に、今日の勝者がその勘違いペアと対戦する日程になっていた為、芽亜達は図らずも3・4回戦を不戦勝で突破する事になった。


「芽亜様。不戦勝でもポイントは付与されますので、本部へとお越し下さい。ジェイド様はどうぞ控室へ」

 芽亜は戸惑いながらも、ジェイドと共に闘技場に入る。

「ジェイド、待っててね。私も失格は嫌だから、大人しくしててよ?」

「……わかってるよ」

 不満気なジェイドを控え室に残して芽亜は本部に猛ダッシュした。


 ◇


「失礼します!」

 ノックもそこそこに、室内に飛び込んで来た芽亜にゴードは目を丸くした。


「な、何どうしたのメアちゃん」


 すいません騒がしくして、とタブレットを差し出した芽亜はどう話を切り出そうかと考える。その内、ゴードの様子が何となくおかしいのに気が付いた。全く話かけて来ず、淡々とタブレットを操作しているが何だかこちらの様子を窺っている様にも感じる。


 もしや、あの二人組のスパイをしている事がバレたのだろうか。芽亜は意を決して、ゴードに話かけてみた。


「あの、何かあったんですか?」

「な、何かって、何?」


 ――怪しい。何時もは余裕綽々なくせに。


「いえ、何だか何時もと様子違うなぁって思っただけです」

 ガタン、と音がする。ゴードがその手からタブレットを落としていた。


「……もしかして、僕の心配してくれてるの?」

 いや、心配なのは自分の身なんですが。その言葉は飲み込み、「え、えぇ、まぁ」と適当に相槌を打った。


「……ごめんね」

「はい?」

「この前。キミに酷い事言ったから」


 この前?何の話?芽亜はキョトンとしながら首を傾げる。

「ハハ、忘れる位なら良かったけどね。キミの事を男慣れしてる子みたいに言っちゃったから」

 人差し指で鼻の頭を掻きながら、申し訳なさそうに呟くゴードを、芽亜は意外なものを見る目で見た。謝れるんだ、カミサマも。


「あ、いえ、別に大丈夫です」

 だって私がジェイドを利用している事は事実だもの。

 首を横に振る芽亜を見て、ゴードはフッと口元を緩めた。


「そっか。それなら良かったよ」


 あ、笑った顔初めて見た。……じゃなくて!それよりも、言われた事をしないと。


「あの、つかぬ事をお聞きするんですけど、今回の”出場者”って大体何人くらいいるんですか?」

「……何故、その様な事を?」


 ゴードが口を開く前に、銀仮面が素早く割って入って来た。不審な眼差しを此方に向けている。


「えっと、後どれ位で終わるのかなーとか、気になっただけです」

「うーん、詳しくはちょっと教えられないかな。でも、これだけ教えてあげる。キミと同じ国のコは今回はいないよ」

「ゴード様……!」

 慌てた様に間に入って来る銀仮面に「別にこれ位構わないよ」とゴードは煩わしそうに手を振る。


 今回”は”と言う事はこれまでは居たんだろうか。それにしても、大した情報は手に入らなかった。あの青髪少年に何を言われる事だろうか。


(やだやだ、気が重ーい……)


 芽亜はゴード達にバレない様に注意しながら、そっと小さくため息を吐いた。



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