真夜中の遭遇 2
ティアリエは湖畔から離れて森の中の方へと歩みを進め、ゴドリックの杖が振るわれる音が聞こえなくなった辺りで立ち止まった。
「さーて、そろそろ姿を見せても良いんじゃないかな。ねぇ、シュラ君?」
そして、闇の中で1人語りかける。
「やっぱ、気付かれてたか」
すると、繁みの中からスッと無音でシュラが立ち上がり、少しだけ悔しそうにしていた。
「良い線行ってるけど、私の探知を掻い潜るにはまだ甘いね」
ゴドリックの傍に歩み寄る前、ティアリエは何者かが森に潜んでいるのに気付いていた。
それがゴドリックを密かに見守っていたシュラだと分かったから警戒していなかっただけである。
「ま、そこまで甘いとは思ってなかったから想定内だけどな。その辺りも腐らず鍛えていくさ」
「ゴドリック君も相当だけど、シュラ君もストイックだよね」
「そうか?」
「うん。風竜玉と形状操作の制御訓練とかホントひたすらにやってたし」
「俺はゴドリック程努力家じゃないさ。制御訓練に関してはやりたい事やってただけだからな」
その2つの組み合わせでどれだけのロマンを体験できるのかというのが大きくて、シュラはひたすらに色々と実験をして楽しんでいた。
「あー……確かにそんな感じだったね」
ティアリエも身に覚えがある話であった。
というか、シュラの形状操作と風竜玉の制御訓練に関してはティアリエも一緒になって楽しんでいたという。
「それにしても、ゴドリック君は凄いね。誰に言われるでも無く自主的に訓練するなんて中々出来る事じゃないよ。少なくとも私が師匠に鍛えられてた頃、訓練後はひたすらに『休みたい』一心でそれ以上動くって事は無かったし」
「言っただろ?ゴドリックは大事なモノは全部持ってるって。ああして自分から努力が出来る。それは多少の才能の有る無しとは比べ物にならない程に稀有で立派な才能なんだよ」
そう語るシュラはどこか誇らしげであった。
「確かに。それは言えてる」
「ま、無理し過ぎないように監督する必要はあるけどな」
「あ、それで隠れて見守ってたんだ」
「そういう事だ。基本的に自主性は重んじるが、翌日に支障をきたさない一線だけはきちんと見極めないといかん。冗談抜きでゴドリックはやる事が多いんだから、過労で効率が落ちるのだけは避けにゃならん」
「何か実感籠もってるね」
「まぁな。ああいう真面目過ぎるヤツが根性論で頑張り過ぎた結果、過労で倒れるってのは前世の職場だと比較的よく見る光景だったしな」
それを聞いて、ティアリエは実感が籠もっている訳だと納得する。
「過労で倒れるのをよく見るって……シュラ君の国の軍隊は壮絶な所だったんだね」
「国民を守るための組織だからな。そりゃ多少は壮絶にもなるさ。まあ、俺の故郷は国全体として働き過ぎが原因で死ぬ過労死が社会問題になってたからそれ系の職業だからとは一概には言えないんだけどな」
「働き過ぎで死ぬのが社会問題になるって病的過ぎない!?」
ティアリエには想像できない話であった。
戦争で死ぬ、魔物の襲われて死ぬ、病気で死ぬ等……
死が身近に存在する世界ではあるが、働き過ぎで死ぬというのは犯罪奴隷の重労働従事者以外では滅多にないものであった。
それが国全体としての問題になっているというのは最早病的としか思えない状態だとティアリエには感じられた。
「それに関しては俺も本気でそう思うわ」
同意するシュラの背中からは哀愁が漂っていて、これ以上深く掘り下げるべきではないとティアリエの本能が警告を飛ばしていたので、素直に従う事にする。
「ゴドリックがそうならないように出来る事はするさ。ティアリエも散歩は程々にしとけよ。夜更かしは美容に悪いし、大きくなれなくなるぞ」
「あのね、シュラ君。私はこう見えても立派な成人女性だからね?これ以上は大きくなれないからね?」
「そうか、そうだったな……」
「うぉーい、憐れむような視線を向けないでくれるかな?それはそれで腹立つ!」
「あっはっは、冗談だ、冗談」
「笑って言っても誤魔化されないからね!かなり本気で憐れんでたでしょ!?」
「ソンナコトナイヨ」
「胡散臭い!?」
その誤魔化す気ゼロな態度を見て、ティアリエはからかわれているのだと気付いた。
「ああもう、シュラ君のイジワル!おやすみ!!」
「おう、おやすみ」
頬を膨らませて踵を返すティアリエを見て、シュラは実に楽し気な様子だったという。




