鈍痛 3
1時間程の間、シュラの攻撃をまともに防ぐことが出来ず撃たれ続ける結果となったゴドリックは正に満身創痍といった有様だった。
「はぁ……はぁ……!」
体力的には余裕がまだある筈なのに、息が上がっていた。
常にシュラの殺気に曝され続け、集中を強いられた事による精神的な疲労によるものだ。
「ゴドリックも限界っぽいし、今日はここまでにするか」
立ってるのがやっとという有様のゴドリックを見て、シュラはそう言うと構えを解くと共に殺気を霧散させた。
空気に圧迫感が無くなったことで、ゴドリックは呼吸がしやすくなるのを感じた。
それを見て、ティアリエが2人に労いの言葉を掛けようとしたのだが……
「じゃあ、次は夕飯前まで素振りをするぞ。俺が手本見せるから、ゴドリックもそれを模倣するように」
「……分かった」
シュラは次のメニューを告げたのだった。
「チョット、シュラ君!どう見てもゴドリック君限界っぽいんだけど!?」
「あれは主に精神的な疲労だから体力的にはまだ大丈夫だ。疲れて余計な力が入らん状態の方が自然な動作が出来る」
「それはそうかもだけど、初っ端から飛ばし過ぎじゃない?」
「最初だからこそだ。言っておくが、段階的に訓練負荷を上げていくつもりだから、これからしばらくは今日と同じぐらいの疲弊度合が続くと思うぞ」
「うわぁ……私の師匠も酷かったけど、シュラ君も相当だね」
「何を言うか。ちゃんと安全に配慮して明日に支障が出ないギリギリの範囲を見極めてオーバーワークにならないようにしてるんだぞ?酷いとは心外だぞ」
「生かさず殺さずな感じを保つ辺り、私の師匠よりも酷いかも」
「やれやれ、酷い言われ様だ」
ティアリエの言葉にシュラはおどけるように肩を竦ませる仕草を見せた。
「さてと、ゴドリックの息も少しは落ち着いて来たみたいだし、素振りを始めるか。最初は叩く、薙ぐ、突くの基礎動作を徹底的にやるぞ」
「了解した」
全身がズキズキと痛む中、ゴドリックは不平や悪態を一切溢す事無く、ただひたすらに真剣に素振りに取り組んだ。
その集中力は傍から見ているティアリエも目を見張る程であった。
それから1時間程シュラの指導を受けながらゴドリックは素振りを行った後、入念にストレッチをしてから
「良し、今日の訓練はこれで終わりだ」
と宣言した。
同時にドサリとゴドリックがその場に座り込んだ。
本気の素振りで体力も削られたようであった。
「ティアリエ、食事の用意は俺がやるからその間にゴドリックの打撲の手当てを頼むわ」
「了解したよ」
ティアリエが応じたのを聞いて、シュラはゴドリックの家の中へと入って行く。
「お疲れ様。頑張ったね、ゴドリック君」
ティアリエはゴドリックを労いつつ、軽い治癒魔術を施す。
「有り難う、ティアリエ殿」
「随分と辛そうな訓練だったけど、続けられそうかい?」
「手前なら大丈夫だ。シュラ殿も配慮してくれている」
「それでも痛いし辛いだろう?」
「確かに。だが、手前はもっと痛くて辛い事を知っている。手前の力が及ばず、目の前で友を連れ去られたあの時の痛みと苦しみに比べればどうということはない」
それはゴドリックの最も辛く苦しい鈍い痛みを心に刻んでいた。
「ゴドリック君……」
「もう、あのような痛みと苦しみを味わう羽目にならない為にも必要な事。だから、手前はどれ程辛かろうとやっていける。決めたからにはやるだけなのである」
ティアリエはそう語るゴドリックの姿に確かな覚悟を見た。
(そうか。だから、シュラ君もあんなに本気だったんだ)
ゴドリックの本気の覚悟を理解していたからこそ、厳しく手抜きをしなかった。
そういう事なのだろうと、ティアリエは察した。
「ゴドリック君はもう少しここで休んでいると良いよ。私はシュラ君の手伝いをしてくるから」
「有り難う。正直、世話になりっぱなしで申し訳ない」
「気にしなくて良いよ!私もシュラ君も好きでやっているんだ。それに世話になっているのは私達も同じさだからね!出先で衣食住が整った環境で探索出来るとかこれ以上を望んだらそれこそ罰が当たっちゃうよ」
それは野外活動が多いティアリエやシュラ達だからこそ特に強く思う事であった。
それ程にゴドリックの家は居心地が良い環境であったから当然と言えた。
慣れていようと長期間の野宿は決して楽なモノではないのだ。
「では、お言葉に甘えて少し休ませて貰う」
「うん。食事が出来たら呼びに来るからゆっくりしてて」
「ああ」
ティアリエを見送ったゴドリックは夕暮れから夜へと変貌しつつある空を見上げて、そのまま仰向けに寝転がるのであった。




