勉強と探索と鍛錬の日々 9
『ティアリエ、良いのか?』
無論、ミラフィアの事だ。
気掛かりだったので、当人にバレないように指の動きによるモールス信号で聞いておく。
エルフは耳が良いとか、精霊と交信できるとか、大概のファンタジー作品においてエルフは探知能力に長けている事が多いので、『念話』の魔術や小声で話すといった事は避けた形だ。
ティアリエは俺と違って物覚えが良かったので、教えたらスグにモールス信号をマスターしましたとも。
仮に動きに気付いても知らなければ意味が分かるものでも無いという意味でも安全策として、原始的な手段を取っている。
『まあ、決して安全とは言い切れないけど、多分言っても聞かないだろうしね。それならいっそのこと一定時時間はここに留まるようにした方が安全だと思うからね』
ピコピコと軽く右手の親指を曲げ伸ばしして、ティアリエはそう答えた。
まあ、それに関しては俺も同意見であるので『そうだな』と返しておいた。
保護者的な立ち位置のゴドリックとエーゼル少年の心労を考えると少し申し訳ない気分にはなるが、どっちにしろ苦労するなら方向性だけでも定めておく方が良いという判断だ。
多分、ゴドリックも同じ事を思ったからこそ何も言わなかったのであろう。
そんな事をしていた時だった。
バンッ!!
玄関の方から激しく扉が叩き付けられる音がした。
昨日も聞いていたので驚きは無い。
エーゼル少年だろう。
ドスドスとあからさまに不機嫌な足音が向かって来る。
「ミラ、迎エダ」
「えー……」
それを聞いたゴドリックは少しホッとした様子で、軽く息を吐いて言い、ミラフィアは大いに不満そうな感じであった。
「もー!エーゼル早いよ!これからが楽しそうな所だったのに!」
リビングへと顔を出したエーゼルを見て、ミラフィアは第一声でそのように告げた。
それを聞いたエーゼルのこめかみには見事な青筋が浮かび上がり、漫画的な擬音を付けるなら『ブチッ!!』とキレる様子がありありと見えた。
「こんの大馬鹿者!!『ここには来るな』とあれ程強く言った矢先であろうが!!」
エーゼル少年の全開の怒声が響いてくる。
「そんな横暴は聞けませんー!」
だが、完全に慣れているのだろう。
それに屈するミラフィアではなかった。
「あと今日からしばらくここには毎日通うからね!」
「だからここには来るなと……いや、ここで貴様と言い合っても埒が明かん。おい、黒いの!どうしてそうなった?」
後ろで『あ、コラ無視しないでよ!』と騒いでいるティアリエを放置してエーゼル少年がゴドリックに聞く。
多分、言い合いで話が進まなくなったらゴドリックを介するのがこの3人では定番の流れなのだろう。
前の時はゴドリックがお茶淹れて場を仕切り直していたっけ。
「ウム、手前、共通語、上手ク話セナイ。ティアリエ、教ワル。ミラ、手伝ウ、言ッテル」
「お前が共通語を教わるから、その手伝いをするとそこの馬鹿が言っていると?」
「ウム」
「事情は大体理解した」
『チッ……!』と舌打ちをしてから言うエーゼル少年の姿からは実に苛立ちが感じられるものである。
「止めても無駄だからね!わたしはしばらくここに通うからね!」
エーゼル少年を真っ直ぐに見詰めて宣言するミラフィアはミラフィアで本気なのが伝わって来る。
それはエーゼル少年にも伝わっていたようで……
「ああ、クソ!勝手にしろ!」
苛立ちを隠そうともせずガリガリと自分の髪を搔き回しながら言い捨てた。
「良いの?」
「誰が良いなどと言った?今のクソ忙しい時期に貴様に森の中をウロチョロされてはより面倒になるからな。それよりマシだと思っただけで認めた訳じゃない。勘違いするな」
そう言って、そっぽを向くエーゼル少年の姿はツンデレにしか見えなかったという。
我ながら色々毒されてるな、俺。




