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生れにより定められた立場

ミラフィアを里の外れにある住処まで送り届けた後、エーゼルは苛立ちを露わにしていた。


「チッ!」


少なくとも、思わず舌打ちが零れる程度にはイライラしていた。


(カルディア傭兵国が我らの里の存在を嗅ぎ付けたかもしれないというのに、あの馬鹿者は黒い野獣の所に通うのを止めないだろう)


それが嫌になる程分かっていたからだ。


(しかも、あの馬鹿はあそこに居たあの怪しい2人組に強い関心を抱いていると来た。あの2人が居る間、毎日通いかねんぞ)


カルディア傭兵国の件が無くとも森の中は危険に満ち溢れている。


幼いミラフィアは魔物を撃退できるだけの力も無い。


そんな者が森を1人で出歩くなど、エーゼルとしては正気の沙汰とは思えない行為であった。


「あの馬鹿は我にいつもいらん手間を取らせおってからに!」


エーゼルが苛立つのも無理は無いというものであった。


(離れる前に『絶対に出歩くな』と言っておいたが、あの馬鹿は聞きやしないだろうな。かと言ってあの黒いのが言ったとしてもあまり期待はできまい)


「チッ!」


それが分かるからこそ嘆息では無く舌打ちが漏れるというものであった。


森の巡回ついでに狩りを行い、肉を集めるついでに行き場の無い憤りを発散させて、エーゼルは里へと戻った。


血抜きを済ませた数羽の鳥の魔物を肩から引っ下げてエーゼルが里に戻ると……


「エーゼル様、今日も森の巡回に出られていたのですか?」


1人のエルフの娘に声を掛けられた。


彼女の名はペレサ・エンヴィディア。


このエルフの里の里長の1人娘であり、エーゼルの婚約者でもあった。


歳はエーゼルより5つ年上の18歳。


半ば押し付けに等しい婚約ではあるが、エーゼルは里を守る為に必要な事と割り切っていた。


「ああ。最近、森の様子がどこかおかしい。原因を調べなくてはなるまい」


「そうですか……里の者達に調べさせますか?」


「いや、里の者達には万が一の場合に備えて里に居て貰った方が良いだろう。調査は我1人でやろう」


「無理はなさらないで下さいね?」


「無論だ」


「前々から申しておりますが、エーゼル様は何でも1人で抱え込み過ぎる気質が見受けられます。必要な時は周りに頼って下さいね?」


「必要になったらそうしよう」


そう言ってはいたが、エーゼルにそのつもりは一切無かった。


今、里の者に外に出られては、ミラフィアがゴドリックという得体の知れないオークの変異種と親交を深めている事が発覚してしまう恐れがあるからだ。


エーゼルはゴドリックという変わり者のオークの存在を秘密にしていた。


オークは野蛮な種族の代表として挙げられる程度には粗暴な種族であるのだ。


その変異種ともなれば、里の者がどれだけ過剰反応するか分かったものではない。


そんなのとミラフィアが関わりを持っていると知られれば……


ミラフィアがどのような扱いを受けるかなど想像するまでも無い。


追放で済めば良い方だろう。


(我には里の者を守る責務がある。あの馬鹿も里の者だ。守らねばなるまい)


「巡回ついでに狩りをしてきた。少し取り過ぎてしまった。里長と共に食うと良い」


エーゼルは押し付けるようにして、肩に下げていた鳥を2羽程ペレサに手渡して自宅へと向かった。


(全く、我は何をやっているのだ……)


1人、自宅に戻ったエーゼルは倒れるようにベットに身を投げ出していた。


その家にはエーゼル1人だけであった。


母親はエーゼルを産んだ時に、父親は3年前に狩りの最中森に生息する狼の魔物の集団に襲われてそれぞれ亡くしていた。


エルフの里において、10歳を越えると半分成人として扱われる為、父親を亡くしてからはずっと1人であった。


(我はあの馬鹿に関わるべきではない。それは我自身がよく分かっている筈なのに……何故放っておけない?)


自らに問うが理由など問うまでもなく分かり切っていた。


(我は彼女に託されたのだ。放ってなどおけるものか)


昔交わした約束。


(だが、我があの馬鹿と関わりを持っている事を知られれば、またあの時のように……)


昔刻まれた心の古傷。


その両方が鬩ぎ合い、今のような態度を取るというどっちつかずな結果になっていた。


(我もあの馬鹿もどうしてこのような面倒な形で生まれたのだろうか?言っても仕方の無い事と分かり切ってはいるが……全く、エルフのしがらみとは実に面倒なものだ)


エーゼルは一人嘆息して、一度眠る事にした。

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