ゴドリックの護りたい存在(モノ) 2
「エーゼルもまた生まれによって縛られている。あの年頃の子供が自らの心を律して課せられた役割を果たそうとしている姿は、どうにも手前には痛々しく見える」
「もしかしなくても、彼がハイエルフだからかい?」
「それも見抜いていたのか。ティアリエ殿は凄いな」
「あれだけハッキリとした特徴が出ていたら、文献で知ってる程度でも十分分かるさ!」
ゴドリックに感心されたティアリエは実に誇らしげであった。
「ハイエルフ?」
確かエルフの上位種だよな。
俺が知っているのはそれぐらいだ。
「ハイエルフはより妖精に近い性質を持つエルフでね。エルフの変異種だよ。通常種のエルフよりも長い耳、高い魔力によって燐光を帯びた輝く髪を有しているのが特徴と言われていて、能力的にも通常種のエルフとは一線を画すものがあるらしいね」
「然り。ハイエルフはエルフにとって王族に連なる『高貴なる血』として崇められる故に、次代の里長となる事を定められたそうだ。エーゼルは先祖返りではあるが、里における唯一のハイエルフらしい」
先祖返り、要は隔世遺伝か。
「『高貴なる血』とか言ってるけど、実際はただの突然変異なんだけどね。ぶっちゃけ、そこに血の尊さ云々は一切関係ないよ!ナトゥーラ森人国の一番古い原初の血を引き継いでいるであろうエルフの王族だろうと全員がハイエルフって訳じゃない……むしろ、殆どが通常種のエルフだったりするしね!」
「ホント、ぶっちゃけだな……」
まあ、俗信迷信なんてのは得てしてそんなモンだけどさ。
「多分だが、能力的に優れるハイエルフが自然と重要な役割を担うようになったから、それが転じた結果そうなったってだけなんだろうな」
「お、シュラ君鋭いね!正にその通りだよ!」
歴史は繰り返すと言うが、そういう所は異世界でも同じらしい。
「ハイエルフと言えば、ミラフィア君もハイエルフの特色が強いハーフエルフみたいだね。それだけにより一層疎まれてるんじゃないかな?」
「……その通りだ。『悪辣たる魔人との混血でありながらハイエルフの特色を持って生まれた異端児』そのように言われているらしい」
「純血のエルフの中でも滅多に現れないハイエルフが、嫌悪しているハーフエルフの中から出たものだから嫉妬と憎悪が大爆発って所か?」
まあ、正式な遺伝では無く低確率で発生する変異形質では少ないのは当然なので仕方ないとは思うが。
「正にシュラ殿の言う通りらしい。純血であれ混血であれハイエルフはハイエルフであろうに……ここまで違う感情を抱くのかとエルフの在り方が理解できぬ」
種族こそ違うがエーゼルやミラフィアと同じく変異種であるゴドリックとしては何かと思うところがあるみたいだ。
「これは完全に憶測なんだけど、エーゼル君とミラフィア君、ほんの少しだけど魔力の質が似ている部分があったし、もしかしたらあの2人は何らかの血縁があるんじゃないかな?」
「そこまで分かるのか。エーゼルはミラの母親の従兄の息子だとミラが言っていた」
「血縁って言ってもそこまで行けばほぼ他人だね!」
違いない。
そこまで離れていれば、仮にあの2人が子供を成したとしても血が濃くなるという事は起こらないだろう。
色んな種族がいるみたいだし、遺伝に関して地球と同じかどうかは分からないからハッキリとした事は言えないけどな。
そもそも俺はそこまで遺伝学に詳しいという方でもないし。
というか、選択科目で『生物』を取った事も無いしな。
「でも、それを聞いての予想なんだけど、エーゼル君とミラフィア君は変異が発生し易い血を引いてるのかもしれないね」
成程、それはあるかもしれない。
「手前はミラのみならず、エーゼルも守りたいと思っている。手前の身勝手な思いではあるが子供には自ら思うままに生きて笑っていて欲しい。それを奪おうとするカルディア傭兵国と矛を交えるのは避けて通れないだろう」
「ゴドリック君、君はどうして命を懸けてまであの子達を守ろうとするんだい?2人が守るべき子供だからっていう理由だけじゃないんだろう?」
「あの2人は手前にとって掛替えのない恩人なのである。この森まで命からがら逃げ延びて辿り着き、数々の傷を負い、空腹で倒れた手前を懸命に看病して救ってくれた恩人なのだ。手前を救った事が知られれば、間違いなく立場が悪くなるのを知った上で救ってくれた恩人の為ならば、この命使い果たそうとも悔いは無い。むしろ、自らの命惜しさに見捨てた場合の方が一生悔いて生きる事になるだろう」
そう答えるゴドリックは覚悟を決めた強い意思の篭った眼差しをしていた。
どうにも、その眼差しが俺には眩しく感じられた。
「正直、あの2人を守れればエルフの里がどうなろうと手前は構わないと思っている。しかし、エーゼルはその責務を放棄しないであろうし、ミラもエーゼルを見捨てはしないだろう。故にエーゼルが守ろうとしているエルフの里も守る。それが手前の出した結論である」
そこには本当の意味で尊き者達を守ろうとする覚悟を決めた1人の漢の姿があった。




