旅立ち 2
「ははッ……!こりゃ凄ぇ!」
その光景に思わず本心が漏れる。
空から飛び降りた事は幾度もあったが、空挺降下では風景を楽しむ余裕なんてなかったからなぁ……
それに日本にはこんな雄大な大自然は見られるものではない。
関東の空からの景色とかって、ゴルフ場が妙に沢山あるから山は十円禿げだらけみたいな感じだし。
これは年甲斐も無く子供の様に胸が弾むというものだ。
だが、いつまでも喜んでばかりでもいられない。
「ティアリエ、どの辺りに降りたら良い?」
着陸地点を決めとかないといけないから現状確認だ。
「右側に見える草原の辺りが良いかな!あそこは平地になってるみたいだし、近くに魔物や人の姿は見えない!」
ティアリエは翼人……
鳥の獣人なので目が良い。
それに俺とは比べ物にならないレベルで探知系のスキルも豊富だ。
彼女の指示に従うのが得策なのだ。
「了解」
俺はティアリエの指示通り、草原の方へと向かって、直情付近で旋回しながら自身の内側に組み込んだ風竜玉に魔力を流して、風を逆噴射することでスピードを緩める。
地球の飛行機の様に電子的に制御している訳では無い。
風竜玉から発せられる風を『形状操作』を使用してバルブを開閉する感じで各所に張り巡らせた風導管の必要な個所に通して、送る魔力の量で風量を調節しているだけだ。
言うのは単純なのだが、この風竜玉というのが中々に曲者で、発せられる風量が込めた魔力に正比例している訳では無く二次関数の曲線みたいな感じだったりする。
ある一定の点からグンと増幅率が上がるようなので制御の感覚を掴むのに苦労した。
まあ、苦労の甲斐もあって今となっては問題無く安定的に飛行することだって出来るようになった。
流石にティアリエの自前の翼を使った飛行には及ばないが、それは仕方がない。
俺は無理矢理制御して飛んでいるが、向こうは飛べるのが当たり前の種族なのだ。
しかも、魔術型なので魔力の制御能力も向こうの方が圧倒的に上だ。
飛行という分野において勝てる要素が無い。
俺は噴出する風を制御して、無事に目的の草原へとそっと軟着陸を行った。
着陸して、ハッチを開放し、ティアリエが下りたのを確認してから形状を元の鎧姿へと戻した。
「さて、初の下界な訳だが、ここはどの辺りなんだろうな?」
常に移動している浮遊大陸から適当に飛び降りただけなので詳しい位置など分かるはずもない。
「ん~……多分だけど西大陸の西側の方だと思う!」
ティアリエは北の空を眺めてそう答えた。
この世界にも地球で言う北極星のような自転軸のほぼ直上に存在する基準点となる星があるみたいで、それを見れば大体の座標は割り出せると言っていた。
ティアリエの目は日が照っている明るい空の中でもその基準となる星が見えるぐらいには良かったりする。
俺達の世界でも鳥って目が良い上に、紫外線も見えるらしいから実は夜でも視界が利くらしい。
ティアリエも同様に同じものを見ていても俺とは違った見え方をしているのかもしれない。
『鳥目』なんて言われるが、実際の鳥は殆どが暗くなると視界が利かなくなる『鳥目』ではないという。
鶏のような一部の鳥が鳥目なだけであると聞いた覚えがある。
人間にとって、一番身近な鳥が鶏だったから『鳥目』なんて言葉が産まれたんだろうな。
あと、殆どの鳥が昼行性だったから知る機会も無かったというだけであろう。
それにしても、西大陸か。
確か『獣人主義』を掲げるケネス獣皇国と『普人主義』を掲げるアドル共和国がある大陸だったか?
少しうろ覚えだが、最初に聞いた話だとそんな感じだった筈だ。
「この辺りは都合良く僻地過ぎて近くに国どころか村も無い未開拓エリアだね!」
何の都合が良いのかと言えば、人目を気にする必要が無いという辺りだろう。
兎にも角にもティアリエは狙われ易い種族みたいだからな。
「人がいない分、魔物は多いだろうから警戒は怠るなよ」
野生の大自然は優しくないからな。
油断は禁物だ。
自分に言い聞かせる意味も兼ねて、ティアリエに注意を促した。




