教えてティアリエ先生 7
本音の部分を言うのは流石に気恥ずかしいので言うつもりは無い。
それに何かコイツは放っとくと何か危なっかしい気がする。
何故かそんな予感がビンビンするのだ。
「そっか、そうなんだ……ありがとう、シュラ君」
「気にするな。礼を言われるようなことでも無い」
「私は嬉しかったからね!だから君にお礼を言うのさ!」
「そうかい。なら勝手にしろ」
「それなら大の得意分野だよ!私はいつだってどこだって自分勝手だからね!」
そう言って笑うティアリエの笑顔は本当に眩しくて、俺は思わず目を逸らしてしまう程であった。
「なあ、ティアリエ」
「何だい、シュラ君?」
「聞いておきたいんだが、有無を言わさず俺を隷属させることだって出来たんじゃないか?」
「……鋭いね。どうしてそう思ったんだい?」
「むしろ、普通その方が一般的なんじゃないかと思ったからな」
俺達の世界でもロボット三原則というものがある。
『人間への安全性』、『命令への服従』、『自己防衛』の3つから成り立つ原則なのだが、ここで重要なのは、被創造物は人間に危害を加えない様にプログラムされていて然るべきという辺りだ。
錬金術師に生み出された存在である魔導機構である俺にそれが組み込まれていない方がおかしいのだ。
「君の言う通りだよ。ゴーレムにせよホムンクルスにせよ隷属術式を製造段階で組み込む方が普通だね」
(だろうな)
内心で同意する。
「だけど、私は君の躰に隷属術式は組み込んでないよ」
「何故だ?」
万が一の備えとして組み込んでおいた方が良いだろうに。
「私なりに筋を通したかったのさ。私の身勝手な都合で無理矢理魂を召喚する訳だし、それでいて無理矢理従わせるなんてのは……やられた側からしたらあんまりだろう?」
それはまあそうなのだが、俺の知っているダーク系の転生ファンタジー小説だと召喚された勇者に仕込まれてることも珍しくない。
『筋』か……
師範も『筋を通せ』ってよく言ってたな。
彼女のその不器用な筋の通し方に俺は好感を持てた。
「私は隷属魔術って好きじゃないんだよね。小さい頃に故郷の皆が奴隷商に連れて行かれた事をどうしても思い出しちゃうし……」
彼女の境遇を考えたらそれは当然かもしれない。
「何より楽しくない!折角、異界から君を呼びだしたのに隷属術式で縛ってたんじゃ人形と一緒じゃないか!私は自由に動く君が見たいんだ!故に対等で友好な関係性を築きたいと思ってる!その為の努力は惜しまないつもりさ!」
この言葉を聞いて『俺を召喚したのがティアリエで良かったな』と思った。
彼女でなければ、隷属術式などというモノが存在する世界で俺はどのような扱いを受けるかなど分かったモノじゃないからだ。
「ティアリエ、お前変わってるってよく言われるだろ?」
「どうだろうね?長い事1人だったから分かんないね!」
笑顔でこっちがつい『ゴメンナサイ』と謝りたくなるような事を言ってくれる。
「でもまあ、私が錬金術師として異端なのは自覚してるかな!でも、それで良いと思ってる」
「その心は?」
「皆と同じじゃ新しい結果は生み出せないでしょ?錬金術師として私は私だけの可能性を見出したいからね!」
同じだと新しい結果は生み出せないか。
道理だな。
「それがティアリエの選んだ道なんだな?」
「そう!私は私の道を行く!」
自分の信念を貫くティアリエの姿を見て、俺としては彼女と共感できるものがあった。
ティアリエの誠意に俺も応えないとな。
『目には目を、歯には歯を』で有名なハンムラビ法典ではないが、恩には恩で、仇には仇で応えるのが俺のポリシーだ。
誠意には誠意で応えるさ。