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迫り来る悪意の足音 4

エーゼルはギリリと弓を引き絞り、俺達の方に矢を構えていた。


そこには純然たる殺気が込められていた。


「川を越えるなと忠告した筈だ」


「ああ。だが、こちらにも事情がある。単刀直入に言おう。ミラフィアの身が危ない」


「何だと?チッ……その事情とやらを詳しく聞かせろ」


俺の返答を聞いてエーゼルは弓を下ろして引き絞った弦を緩めて聞く姿勢を見せた。


だが、弓と矢からは手を離していない辺り警戒を解いていないのが見て分かる。


そんな彼に対し、海から向かって来るカルディア傭兵国の大部隊、既に森に侵入しているであろう先行部隊、そして彼らの手口をティアリエがしっかりと伝えた。


「チッ……!嘘を言っている訳では無いようだな」


それを聞いたエーゼルは実に苦々しい顔をしていた。


そして、そこには苛立ちでは無く憤怒と憎悪が見えた。


「当たり前だよ!こんな時に嘘言うもんか!」


そんなエーゼルを見て、ティアリエは憤慨する。


「それよりも急いだ方が良い!ミラフィア君もだけど、刻一刻とエルフの里にも危機は迫っているんだ!今から行動を起こせばまだ間に合う!」


『少なくとも最悪の事態だけは免れる筈だ』とエーゼルに伝える。


が……


「今、里では明日執り行われるエルフにとって極めて重要な祭事の準備をしている……我以外に動ける者がいない」


「そんな事を言ってる場合じゃないよ!連中は明日には確実に攻めて来る!下手すれば今から動き始めていても不思議じゃない!!」


連中が予定通りに行動を起こせば、どれだけ被害が出るか分かったものではない。


こんな森のど真ん中で焼き討ちが行われれば、大規模な森林火災に発展する恐れもある。


実際にカルディア傭兵国の奴隷狩りが原因で無くなった森も幾つかあるとティアリエとゴドリックの2人は語っていた。


「そんな事は分かっている!だが、あの無駄に長く生きているだけの石頭共は絶対耳を貸さんのだ!!ハイエルフであろうと我のような産まれて間もない新芽の言葉にはな!」


苛立ちと自虐の込められた彼の言葉には悲痛な思いが感じられた。


喚き散らすように吐き捨てると、深呼吸をして荒げた息を無理矢理整えるとエーゼルはこう言った。


「一つ、貴様らに頼みがある……あの落ち着きのない馬鹿を、ミラフィアの事を頼む」


その言葉には先程よりも更に悲痛な思いが乗せられていて、呼吸をしていない俺以外の2人は思わず息を呑んでいた。


俺達に頼むエーゼルにはいつもの尖った雰囲気は無く、どこまでも優しくも儚い感じであった。


恐らくはこっちが本来の彼の姿なのだろう。


「我は里の者を守る責務がある上、あの娘を守っている事を里の者達には知られる訳にはいかない立場なのだ。良い機会だ……あの不憫な境遇の娘をこの森から連れ出してやって欲しい」


そう告げるエーゼルの瞳には覚悟が見えた。


前世で何度も見て来た類の覚悟の色が。


アレは命を捨てる覚悟をした死兵の目だ。


「君はどうしてそこまでしてミラフィア君を守ろうとするんだい?」


無論、それに気付いたのは俺だけではない。


ティアリエもゴドリックも同じだ。


「我はあの娘の母親に託されたからだ。それに個人的な後悔の念もある」


「後悔?」


「それを貴様らに語る義理は無い。それにそんな時間も無いだろう」


彼の言う通りである。


実際に時間が無いのは事実だ。


「里を見捨ててミラフィア君と逃げるという選択肢もあると思うよ?」


『その里にそこまでして守る価値はあるのか?』とティアリエが間接的に問う。


「我は我の責務を果たす。それが責任ある立場の者の務めだ。……それにあのような所であっても故郷は故郷だ。みすみす滅ぼさせる訳にもいかない」


それが彼の答えであった。


この強い意思は周囲の言葉では曲げる事は出来ないだろう。


それが伝わって来る。


「有益な情報の提供に対し、特別に見逃してやる。二度とこの地へ来ない事だ」


再び役目を背負ったエーゼルはそのように告げて、その場から姿を消した。


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