ワタシに任せてください
オレと沙織の予想だと、野村は根津を使って、仕事の邪魔をして業務に支障をきたし、オレや沙織を追い出した後にこの部署を乗っ取ろうとしてるんじゃないかと。
「高橋さん、随分と厄介な事になりましたね。でも、上の連中に言えば根津をクビに出来るんじゃないですか?」
「それが出来ればとっくに言ってるわよ」
沙織は吐き捨てるように言った。
「出来ないんですか?クビに?」
「どうも上の連中は野村さんが次期社長って事もあってか、誰も野村さんに逆らうなんて事は出来ないみたいなの」
何だそりゃ?たかが中小企業の会社だぞ?
そんな野村が恐れられてるのか?
次期社長だからって、誰も野村に逆らうヤツはいないのか?
「じゃあ、今の社長に言うしかないんですか?」
「その社長なんだけど、今は病気で療養中だから中々会う機会がないのよ」
「病気で療養中って事は、誰が社長の代行をやってるんですか?」
「そう言えば社長の代行って誰がやってるのかしら?アタシもそこまで詳しくは知らないけど」
「まさか野村さんて事はないですよね?」
「さすがにそれは無いわね。あの人確かに次期社長だけど、代行なんてとてもとても無理だわ」
こりゃ困ったぞ。
オレと沙織は仕事が終わった後、居酒屋に寄り、今後の事を話し合った。
「もし、オレの事を恨んでああいう事してるんなら、オレ会社辞めます」
オレは亜美の件で野村が赤っ恥をかいたので、根津を使って業務に支障をきたすよう、仕向けたとしか考えられない。
「何言ってるの?仲村くんがそこまで責任を感じる事じゃないでしょ?」
「いや、妹の件もあったし、多分あの人はオレの事を逆恨みして根津にああいう事をさせたんじゃないかって思うんです」
亜美が自分の女にならないからってあんな嫌がらせをしてるに違いない。
「野村さんと直接会って話をしてみたいわね。何であんなことをするよう命令したのか」
「会ってもとぼけるんじゃないんですか?あの人ならあり得ますから」
「どうすればいいんだろ…」
さすがの沙織も困り果てた。
根津は調子に乗って傍若無人な振る舞いを更に増していた。
もはや手の付けられない程、やりたい放題で業務に支障をきたす程だ。
「いっそオレら仕事ボイコットしませんか?」
「それもいいかもね」
別に業務に支障が出ても、オレ的にはそんなに困らない。
「あ、遅れてすいません…」
彩音が息を切らせて店に入ってきた。
「酒井さんお疲れ様。仕事の方は大丈夫だった?」
「ええ、まぁ何とか。でもその根津さんが」
「彼に何かされたの?」
「いえ、そうじゃないんですが、根津さんが【オレの秘書にならないか?】ってしつこくて」
「秘書~?」
「あんなヤツが秘書だと?何考えてんだ、あのヤロー!」
なぁにが秘書だ!どうせ彩音狙いでいずれは根津の餌食に…
いかん!こりゃマズイぞ!
はぁ、まさかこんな事になるなんて想像もつかなかったからなぁ。
「あのぉ、ワタシ前の会社でセクハラにあったって言ったじゃないですか?」
「あぁ確かにそんな事言ってたわね」
「で、思ったのですが…」
「えーっ?!」
「いくら何でもそれはちょっと…」
沙織は彩音の出した提案に難色を示した。
「はい、でもこうでもしないとお二人はあの会社に居られなくなるんじゃないかと思って」
「いや、しかしいくらなんでもそれはマズい」
「そうよ、そこまでしなくても」
「大丈夫です!ワタシに任せて下さい!」
「でも、何だってそこまでしてまでオレや高橋さんの事を?」
そうだよな、フツーならいくら世話になってるとは言え、あくまでも会社内での事で、ここまでする必要はない。
「だってお二人ともワタシに丁寧に仕事を教えてくれましたし、それに格闘技の話しここまで出来る人他にいませんから」
何だそりゃ?彩音のプロレスやボクシングのマニアックな会話についてこれるのオレらだけってのか?
「だからと言ってアナタがそこまでする必要はないのよ」
「そうだよ、酒井さん。いざとなったらオレが会社辞めればいい話なんだから」
「仲村くんは辞めなくてもいいのよ」
「だからワタシに任せて下さい」
「それもダメよ、酒井さんが危険だわ」
「だからオレが辞めれば」
「それもダメよ」
「ワタシ大丈夫ですから」
「だからダメだってば」
「やっぱりオレが責任とって…」
三者三様の言い分がぶつかり、話がちっともまとまらない…
「仲村くんは関係ないのよ」
「高橋さん、ワタシやります!」
「アナタも危険な事はしないで」
「そうだよ、オレが辞めれば…」
「もう!ちっとも話が進まないじゃないですかっ!」
彩音がキレ気味に怒鳴った。
「はい、すいません」
オレと沙織は彩音に謝った。
彩音はレモンサワーを一気に飲んだ。
「ワタシがやると言ったらやるの!いい、お二人は黙ってみてなさいっ!」
こえー、彩音の迫力に気圧されてしまった。




