会社の跡取りだぁ?
オレは仕事を終え、沙織といつも飲んでる居酒屋に向かった。
店には沙織が居て既に飲んでいた。
「すいません、遅くなって。ちょっと在庫の数が合わなくて」
オレは在庫にあった製品の数が合わない為、それをチェックするのに時間がかかった。
「お疲れ様。ゴメンね先に飲んでて」
「いや、大丈夫っす。あ、すいません生1つ」
オレは店員にビールを注文した。
「じゃ改めてお疲れ様~」
乾杯してグビッとビールを飲んだ。
「何か仲村君変わったよね」
「はい?」
「顔つきが精悍になっというか。前に比べたら随分頼もしくなってきた感じ」
そりゃボクシングやってるからだろ。
「単に仕事に慣れてきただけですよ。これも高橋さんのお陰です」
取り敢えずパイセンを持ち上げておかないとな。
「仲村君、ボクシングやってるでしょ?」
っ!!オレはビールを吹き出しそうになった。
何で知ってるんだ?
「いつだったか仲村君、こんなに顔腫らしながら会社に来た時あったよね?最初ケンカでもしたの?って思ったけど、偶然仲村君がボクシングジムに入る姿を見たのよ」
「知ってたんすか…」
バレてたのか…確かに言われてみりゃ、顔腫らして出社すりゃ誰だって何かあったんじゃないか?って思うわな…
「それにユースケさんって元ボクサーだったじゃない?あぁあの人のいるジムに入ったんだってね」
そうか、ストライカーの奥さんは沙織の学生時代のパイセンだったらしいからな。
「まぁ橋本さんに勧められて運動不足だったし、ダイエットにもなるかなって始めたんですけどね」
「そうなんだ。でも前よりずっとシャープになってきたよ。キリッとしてカッコいいよ」
カッコいい!この言葉をどれ程待ち望んだだろうか。
今オレは泣いてもいい気分だ!
いや、号泣してもいい!
それほどオレにはこの言葉が神の御言葉にも感じる!
「で、野村さんの事よね?」
そうだっ!一瞬にして我にかえった。
「は、はい。あの人って普通ならとっくにクビですよね?あんだけ仕事しないで会社に居る事自体不思議で」
沙織は生ビールを追加してオレにこう言った。
「あの人、社長の息子なのよ」
は?何それ?初めて聞いたぞ、そんな事は!
「でも名字が違くないですか?確か社長は井上って名字じゃなかったですか?」
「うん、正式には別れた奥さんの旧姓が野村で、あの人は奥さんの名字を名乗ってるのよ」
…オレは野村と入社してから幾度となく、飲みに誘われ色んな話をした。
しかし、野村が社長の息子だったなんて事は一言も言わなかったぞ。
「ゆくゆくはあの会社は野村さんが社長になるみたいらしいけど。もしあの人が社長になったらアタシは会社を辞めるわ」
はぁ、次期社長かよ。
あんなオヤジが社長になったら会社潰れるな、こりゃ。
「確かに社長になるにはあまりにもサボり過ぎなとこありますよね」
「あの人ね、前にいた会社でセクハラで訴えられてクビ同然の形で今の会社に入ったそうよ」
バカじゃなかろうか…
よりによってセクハラとはwww
「訴えられたって事は相当酷い事したんですかね?」
「詳しくは知らないけど、慰謝料をかなり払ったらしいわよ、社長が。その慰謝料を払う条件として今の会社を継ぐ形で入ったらしいけどね」
沙織にしては珍しく吐き捨てるような言い方をした。
野村を相当嫌ってんだろうな。
「で、野村さんのその事を知って人は社内で結構いるんでしょうか?」
「実はあんまり知られていないのよ。アタシは前に企画部署にいた時に、部長で斎藤さんていたでしょ?あの人から色々聞いたのよ」
くの一沙織か!情報収集はお手のものってとこか。
「部長は野村さんの事を嫌ってるわ。出来ればこの会社から追い出したいとまで言ってたぐらいだから。社長にも直談判したらしいけと、所詮は別れたとはいえ、我が息子が可愛くて社長は野村さんの擁護するようになったのよ」
恐るべし野村!
「おまけにこっちに来てからセクハラはエスカレートして、新入社員の女の子辞めさせたりしてね。アタシの直属の後輩だったんだけど、耐えられなくて依願退職という形で辞めちゃったし」
段々と沙織の口調が投げやりな感じになってきた。
後輩を辞めさせるようなしたんだから沙織が怒るのも無理はない。
「あれ、その新入社員て高橋さんが仕事してる合間にスマホばった弄って、やる気がないなら辞めなさいって言った社員の事じゃないですか?」
オレは野村からそう聞いたぞ。
「うん、確かに後輩にはスマホばっかりしてないでちゃんと仕事しなさいってね。でもそのスマホからの連絡先は野村さんだったのよ」
なんだって~!
「新しい娘に飲み会でLINE交換したらしく、次の日から時間帯構わずにLINEしてくるんだって。さすがにイヤになってアタシに相談しに来たんだけど。
もうその娘は辞めるつもりだったらしく、辞めさせるきっかけを与えたのよ、アタシが」
鬼の野村だな!いや、鬼畜の野村とでも言うべきか。
「てことは高橋さんが泥かぶるような形でその社員は辞めたんですか?」
「そういう事になるわね。何だか疲れてきちゃった。
あの人は次期社長どころか、シロアリみたいなもんよ」
随分とやさぐれてんな沙織は。
沙織と野村は水と油のような関係なのかな。
やりたい放題で我が物顔で社内を徘徊してるからな、あのオヤジは。
テメーで蒔いた種をテメーで刈り取らねえってワケか。
そりゃいくらなんでも沙織がかわいそうだ。
それから野村の女遍歴を延々と聞かされた。
少なくとも会社には野村の喜び組が数名いるという事まで聞き出した。
…こりゃ絶対に亜美は餌食になる!
この男が亜美の彼氏になるなんて兄として断固認めん!
オレは野村と亜美の経緯を沙織に話した。
「妹さんは一刻も早く野村さんと縁を切るべきだわ。あの男、女なら見境なく近づいて紳士ぶって接するから若い娘は落としやすいかもね。あんなヤツいなくなればいいのよ!」
相当頭にキテるな沙織は。っていうか、アンタこれでビール何杯目だ?
相当頭にきてるのは解るが、飲み過ぎだろ!
オレは仕事のジャマしかしない野村がかなりめんどくせーワケで…
こうなったら、亜美に直接聞くしかないな。
また憂鬱だ…
そして沙織はベロンベロンに酔っぱらい、駅まで介抱してタクシーに乗って帰った…
憂鬱が倍増だ…




