十六
「ごめんね、カスタードの包子(中華まん)を蒸し直してたから…でも良かった、みんな仲良くなれたんだね、心配してたんだよー」
点心(お菓子を含む軽食)とストローを差したグラスの飲み物を乗せた盆を床に下し、游さん自身も床に正座した。…どこか、気品のある座り方だった。
游さんが盆を床に置くまでを注視していた姫は、置いた瞬間に坦の両腕に頬ずりしてからほどいて立ち上がり、座った游さんの背中から游さんを抱き締めた。
「はいはい。でも、寂しくはなかったでしょ。こんなに小夢のお友だちがいるんだからね。
はい、みんな、テキトーに取ってね。煌ちゃんはコレね、ミカン」
グラスに入っている飲み物を1つ持ち上げ、煌の方へ差し出した。それを見た煌は静かに階段を上がって游さんからグラスを受け取ると、游さんの正面に足を組んで座った。
坦は姫の頬が当たった腕の辺りを手で優しく触れた後、背後にある盆の方へ振り向いた。
「わぁ! いただきます。ほら、紫瑛。俺が先に取るぞー。どれがいい?」
私が慌てて1つのグラスを手に取ると、坦は次に両膝を付いたままの能へ「お前はどれがいい?」語り掛けた。能はため息をついてから「どれでも…」と答えたので、坦は適当に能の前にグラスを置いた。最後に自分がグラスを取ると、片膝を立てて座って頭を下げた。
「飲茶(お茶と軽食の時間)だと思って。お酒の席じゃないから、一気飲みも回し飲みもナシね。年は…うーん、これは誕生日順になるね。俺がたぶん1番で最年長になるけど、俺が飲むまで待たなくてもいいから。紫ーちゃん、自由にしてていいからね」
…そうだね、もしあれが酒席になっていると、色々マナーがあってね。年長者が飲み干さないと年少者な飲めないとか、最初は全員で一気飲みして、その後一気飲みを回してやっていくとか…まぁ、酒席は夜の食事の後が大体だから、あの時刻からいっても酒席とはいえなかったけれど…
…まぁね。
それから。
「あ。包子1コください。煌、待ってな」
坦は包子を手に取ると半分に割って、それを煌へ渡した。
「ほら」
「あぁ。ありがと」
その様子をじっと見詰める能に、坦は半分の包子を食べながら答えた。
「…あー……コイツさ。腹いっぱいにして馬に乗ると酔うらしくて。それでいつも俺が残り食ってやってるんだよ」
それを聞いて、煌は両手で包子を食べながら視線を落として恥ずかしそうにうなずいた。
「うん…」
若干イラッとした表情をした坦は煌へ話を続けた。
「…それやめろよ。お前、とっきどきソレ出るよな。女子っぽいの。…好物なんだっけ?」
「イチゴ」
「だーっ、もうっ、ソ、レ、だ、よ!」
「だ、だって…イチゴ…」
「言い方! 何でちょっと照れながら言うの?」
「……いや……だって…同性に好物聞かれるとかあんまりなくて…」
「ハァァァ?」
「あの、……坦は?」
「…いやー、キモイキモイキモイ。その感じやめろって。
…まーでも仕方ないな。教えてやるよ。…俺はねー、夢ーちゃんの作ってくれるゴハンが好きだよー」
「あっズルい……でもいいなー。いつでも食べれてうらやましー」
「…だからそういうのやめろって。何でちょっと赤くなる?」
騒いでいる2人を見て、游さんは嬉しそうに微笑んでいた。游さんの背中に乗っている姫は、游さんの背中をゆらゆらと揺らしながらいつものように無表情で2人を見ていたが、游さんが姫の目の前へ包子をちらつかせると、頬を染めてハプリと包子に食い付かれた。姫が食い付いたのを見て、游さんはゆっくりと包子をひっぱった。もっちりと包子が姫の口元から離れた後、姫はニコニコと微笑んでもぐもぐと口を動かしになった。そうしてまた、游さんの背中をゆらゆらと揺らしておられた。
「うわぁ…かっ、かわいい…ダメだ、好きだー……」
その姿を見た煌は密かにつぶやいてシュボァッとまた一気に真っ赤になった。游さんも姫もそのことに気が付いていなかったが、私の他に坦と能はその声を聞き取れていたようで、2人共煌の方へ顔を向けた。
「いや。まぁ。お前はソレだから俺は安心してるから」
「なっ、何を…?」
「能、な。分かっただろ。ちょっと気ぃ付けとけよ、コイツ。テンパッたとき、時時だけど無意識に告白するから」
「えっ…俺、何か言ったっけ」
その言葉通りの反応を示した煌を見て、能は坦の目を見て静かにうなずいた。
その後しばらく皆で点心を食べながら話をして…ちょっとそこらは今、思い出せないのだけど。
食べ終わって私たちが話している間に游さんと姫は片付けをして、戻って来た游さんは煌へ声をかけた。




