十三
さて。
どこまで話したっけね。
あぁ、そうそう。
坦が煌にライラを紹介したところまでだっけ…失礼。
ライラのことを聞いた煌は、自馬である『ポラリス』に片手を上げて手の平を見せた。
それはたぶん、ポラリスに落ち着くよう示す合図だったのだろう。ポラリスは動き回っていた足を静止させ、静かにその場に留まったよ。
「平気なのか?」
「は?
平気じゃなきゃ飼わねぇよ……」
それを聞くと、煌はそれまでの態度を一変させて、坦の方へ顔を向けた。
「触らせてくれ!」
「…どうぞ」
煌は坦の声を背中に受けてから、床に落ちた鞘を拾って刀を納め腰に差し直すと、ライラが歩いて来る方向へ走って行った。そして庭の中央までライラに着き添って歩きながら、肩から背中にかけてのラインを優しく何度もなでた。
「すごいな! 大きい!
どうやって捕まえたんだ?」
「そりゃお前、俺のココよ!」
そう言って坦は自分の腕を2回叩いた。
「しっかしお前、相変わらず怖いもの知らずだな。
俺が大丈夫だって言ったとはいえ、よくそう簡単にライラに近付いて触りまくれるよなぁ」
坦が半分呆れながらため息をついた頃には、ライラは庭の中央まで来ていた。ライラは坦の表情を確認してから寝そべり、笑ったような表情で頭を砂利の敷き詰められた庭へ降ろした。煌は寝ているライラの頭やノドを怖がりもせず触り、ライラも嫌がりもせず嬉し気な声を出していた。
「エサ代大変だろー。お前、仕送り少ないもんなー」
「アハハ!
ところが! ライラはベジタリアンなんだ、この国じゃあタダだよ」
「へぇ!
いいなぁ!
そうか、名前、『ライラ』なのか! 七夕生まれかー?」
「いや別に。
単に『ライラ』って音がカワイくって。あと…女子受けも良さそうだし…ねー? 夢ーちゃん。今日もカワイイね! 服、仕立て直せたんだねー、似合ってるよ」
目ざとい坦は煌と会話をしつつ、姫のお召し物を、自分の持っている情報と共に褒めた。そう。丁度その日お召しになっていた着物は、坦と2人切りになった時に着ておられた物だった…ん? …いいや。…君も坦のファンなのかね? 何もなかったよ、破られたとかじゃないよ、サイズ直しをしただけだったみたいだよ。本当だから。…えぇと。そう。そうして、これまでの急速な話の展開と内容が信じられない様子で未だボーゼンとしている能へ、坦は声を掛けた。
「…良かったじゃん」
能はそこでハッとしたようだった。
「あ。あぁ…よ、良かった…本当に…
…しかし、何だろう…自分の命が軽んじられたようで…納得がいかん所もある…」
「『命』を『軽んじられた』?
何かあったのか?」
「どう…伝えれれば…私にも理解できない箇所があって…ちょっと整理させてくれ」
能がため息を吐いた所でやっと私は、坦に文句を言えた。
「坦さんっ!」
「おー。紫瑛」
「もー! 頭ワッシャワッシャすんのやめてくださいっ! 直すの面倒なんですからっ!」
「えー。やだね。おもしろいから。アハハハッ」
「もー!
……
…ねぇ、坦さん」
「はん?」
「坦さんは、煌さんの本当のお仕事のこと、知ってるんですか?」
「『本当のお仕事』? ん?」
「あの…『権利を与える側』の、オシゴト…」
私がおずおずと坦を上目遣いで見上げながら聞くと、坦はニコッと笑った。
「あぁ! あいつが王様だってこと? 知ってたさ。
そっか、お前も知っちまったんだなー、隠しといてやれよー」
ポンポンと私の頭を軽く叩く坦に、私はまた頭が乱れると思って抗議した。
「んもう! 頭、ダメですっ!」
私が頬をふくらませていると、坦はイタズラっぽく笑って、能の方へ向き直った。
「整理できたか? 教えといてくれよ、ないとは思うけど、もしその話関連で何かあったら助けられるだろ?」
「あー……」
能は、眉間に深い皺を刻んだ。
「……游さんが、交渉してくれて。
…私の身の安全と引き換えに……ハァッ……その。姫と…あー…彼は、交換日記をするらしい」
それを聞くと、坦は目を閉じ、肩を落としてハァ――――ッと長い息を吐いた。
「あー…俺、今からでもいいからお前を北境に引き渡したいぜ…」
「…お、お前ぇぇぇ…」
能が坦へ鋭い視線を向けて怒ったのをみると、坦は少し笑った。
その表情を見ると、能も軽くフフッと笑って目を閉じ、ほんの少し、微笑んだ。
そうして、目を開けると、能は坦の肩に額をコツンと付けて、すぐ離れた。
…あれは、能なりのお礼の表現なのだろうね。
言葉にはできない時の。
とてもゆったりとした時間だったよ。




