表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/452

十三



 さて。


 どこまで話したっけね。


 あぁ、そうそう。


 (たん)(こう)にライラを紹介したところまでだっけ…失礼。



 ライラのことを聞いた煌は、自馬である『ポラリス』に片手を上げて手の平を見せた。


 それはたぶん、ポラリスに落ち着くよう示す合図だったのだろう。ポラリスは動き回っていた足を静止させ、静かにその場に留まったよ。


「平気なのか?」


「は?


 平気じゃなきゃ飼わねぇよ……」


 それを聞くと、煌はそれまでの態度を一変させて、坦の方へ顔を向けた。


「触らせてくれ!」


「…どうぞ」


 煌は坦の声を背中に受けてから、床に落ちた鞘を拾って刀を納め腰に差し直すと、ライラが歩いて来る方向へ走って行った。そして庭の中央までライラに着き添って歩きながら、肩から背中にかけてのラインを優しく何度もなでた。


「すごいな! 大きい!


 どうやって捕まえたんだ?」


「そりゃお前、俺のココよ!」


 そう言って坦は自分の腕を2回叩いた。


「しっかしお前、相変わらず怖いもの知らずだな。


 俺が大丈夫だって言ったとはいえ、よくそう簡単にライラに近付いて触りまくれるよなぁ」


 坦が半分呆れながらため息をついた頃には、ライラは庭の中央まで来ていた。ライラは坦の表情を確認してから寝そべり、笑ったような表情で頭を砂利の敷き詰められた庭へ降ろした。煌は寝ているライラの頭やノドを怖がりもせず触り、ライラも嫌がりもせず嬉し気な声を出していた。


「エサ代大変だろー。お前、仕送り少ないもんなー」


「アハハ!


 ところが! ライラはベジタリアンなんだ、この国じゃあタダだよ」


「へぇ!


 いいなぁ!


 そうか、名前、『ライラ』なのか! 七夕生まれかー?」


「いや別に。


 単に『ライラ』って音がカワイくって。あと…女子受けも良さそうだし…ねー? ()ーちゃん。今日もカワイイね! 服、仕立て直せたんだねー、似合ってるよ」


 目ざとい坦は煌と会話をしつつ、姫のお召し物を、自分の持っている情報と共に褒めた。そう。丁度その日お召しになっていた着物は、坦と2人切りになった時に着ておられた物だった…ん? …いいや。…君も坦のファンなのかね? 何もなかったよ、破られたとかじゃないよ、サイズ直しをしただけだったみたいだよ。本当だから。…えぇと。そう。そうして、これまでの急速な話の展開と内容が信じられない様子で未だボーゼンとしている(のう)へ、坦は声を掛けた。


「…良かったじゃん」


 能はそこでハッとしたようだった。


「あ。あぁ…よ、良かった…本当に…


 …しかし、何だろう…自分の命が軽んじられたようで…納得がいかん所もある…」


「『命』を『軽んじられた』?


 何かあったのか?」


「どう…伝えれれば…私にも理解できない箇所があって…ちょっと整理させてくれ」


 能がため息を吐いた所でやっと私は、坦に文句を言えた。


「坦さんっ!」


「おー。紫瑛(しえい)


「もー! 頭ワッシャワッシャすんのやめてくださいっ! 直すの面倒なんですからっ!」


「えー。やだね。おもしろいから。アハハハッ」


「もー!


 ……


 …ねぇ、坦さん」


「はん?」


「坦さんは、煌さんの本当のお仕事のこと、知ってるんですか?」


「『本当のお仕事』? ん?」


「あの…『権利を与える側』の、オシゴト…」


 私がおずおずと坦を上目遣いで見上げながら聞くと、坦はニコッと笑った。


「あぁ! あいつが王様だってこと? 知ってたさ。


 そっか、お前も知っちまったんだなー、隠しといてやれよー」


 ポンポンと私の頭を軽く叩く坦に、私はまた頭が乱れると思って抗議した。


「んもう! 頭、ダメですっ!」


 私が(ほお)をふくらませていると、坦はイタズラっぽく笑って、能の方へ向き直った。


「整理できたか? 教えといてくれよ、ないとは思うけど、もしその話関連で何かあったら助けられるだろ?」


「あー……」


 能は、眉間に深い(しわ)を刻んだ。


「……游さんが、交渉してくれて。


 …私の身の安全と引き換えに……ハァッ……その。姫と…あー…彼は、交換日記をするらしい」


 それを聞くと、坦は目を閉じ、肩を落としてハァ――――ッと長い息を吐いた。


「あー…俺、今からでもいいからお前を北境(ほっきょう)に引き渡したいぜ…」


「…お、お前ぇぇぇ…」


 能が坦へ鋭い視線を向けて怒ったのをみると、坦は少し笑った。


 その表情を見ると、能も軽くフフッと笑って目を閉じ、ほんの少し、微笑んだ。


 そうして、目を開けると、能は坦の肩に額をコツンと付けて、すぐ離れた。



 …あれは、能なりのお礼の表現なのだろうね。


 言葉にはできない時の。


 とてもゆったりとした時間だったよ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ