九
「えーっと、飲み物の数が、…イチ、ニィ、サン、シィ…あれ…能ちゃん? 顔色悪い? どうしたの、病気? 寝てた方がいいよ、送って行こうか?」
そこで私は、能を游さんに助けてもらおう、という名案を思い付き、慌てて声を放った。この国の王対他国の王なら、何とか、能の命を救ってもらえると踏んだ。これは、今から思ってもファインプレーというヤツだったね。
「あのっ! 游さんは、煌さんと昔から友だちなんでしょっ!? そしたら、煌さんの本当のオシゴト、知ってるんでしょっ!?
あのっ! あのねっ! 能さんを助けてあげてくださいっ!
何か、北境国を出て来たこと、煌さんに怒られてるみたいなんですっ!」
「あ~…!」
游さんの目がいつもの笑っている瞳から、真面目な目に変わった。口元はいつもの通り、ほんのり微笑んでいたけどね。
「煌ちゃん、そうなの? …いつかはこうなると覚悟してたけど…難しいモンダイだねぇ、どうする?」
その言葉を聞くと、顔色が元に戻っていた煌は困ったように微笑んで立ち上がった。
「…俺は…俺のことは、良く分かってるだろ?
…ただ、難しいんだ」
「…そっか……
じゃ、俺が悪い方になろうか?」
「…この場合は…ごめん、俺じゃ、ちょっと、良い対処を思い付かない……」
姫と会ったり、姫の話を出すと、煌はそれまでの態度を軟化した。その雰囲気は、私たち友人の前でも時折見せてもらえたけれど、確実に態度を軟化させるのに1番効果があるのはそれだったよ。
後後分かったんだがね、游さんと姫の前で見せる態度と、私たちとの前で見せる態度も、微妙に違っていたよ。
…あぁー…
そうだねぇ、君には、信じられないかもしれないがねぇ。
今は、とてもそうは見えないよねぇ。
煌が、そんな怖い雰囲気を持っていたなんて。
そう。
昔のこと。
昔。
四境がまだ、4つの国に分かれていた時のことだったからね。
…戦争も、国交戦略も、スパイ合戦も、血縁関係の争いも…良く、あったんだよ。
……
…あぁ、話を戻そうか。
えぇと…
あぁ、そうそう。
游さんと煌が、能のことについて話していた時、だったかね?
「……」
「……」
2人はしばらく押し黙って、お互いの瞳を見つめていた。その瞳は、優しいものだったよ、どちらもね。
「…オーケイ、俺が今回、貧乏くじを引こうか」
そう言って、游さんは困ったように微笑んだ。
「……ごめん、頼むよ。
…借りは返すから」
そう言って視線を下に向ける煌に、游さんは笑って答えた。
「フフッ!
いいよー! 何でもないことだから。今日、お願いしてたでしょ? それで、もう、いいから。あんまり深く考えないで。俺を、君だと思って。何も遠慮も気遣いもいらないから。
…それじゃ、ちょっと待ってて」
そうして、やっと、游さんは自分の腰に幸せそうにしがみついている姫へ、顔を近付けた。
姫は頬を染めて、游さんの顔を上目遣いで見上げられた。
游さんはそのまま、姫に耳元へ何かを囁いた。
…姫は游さんが囁く直前まで顔を耳まで赤くしてホォッとため息をついておられたが、游さんが何かを言い終わると、赤い頬も元に戻り無表情になった。そうして瞳を半分閉じて下を見てから游さんの瞳を、何か決意したようにスッと見詰められた。
游さんは、その姫の表情を見て、ニコリと微笑んだ。
姫はその游さんの微笑みを見て自身も困ったように微笑むと、体を游さんからお離しになった。
游さんは、腕を組んで返答を待つ煌の方へ向き直り、いつものようにニコッと楽しそうに笑い掛け…煌と能の関係を改善させる、おもしろい解決策を提案した。




