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「し、ん、じ、られない……」


 (のう)がポツリとつぶやいた。


「でしょう」


 私もつぶやいた。



 シィンと静まり返る宮の廊下で、2人、動じずに楽しそうにする人物がいた。



「あぁ、来たねー、(こう)ちゃん。今日もお疲れ様ー。


 すぐお菓子と飲み物用意するからねー。


 小夢(しょうむ)ー、ほら、行っておいでー」


「みゃー!」


 (ゆう)さんが通常運転で、片腕につかまる姫へニコリとした笑顔を送ると、姫は游さんの笑顔に頬を染めた後、煌の元へと走り寄られた。そうして、いつものごとく、しゃがんで、土下座する両手を取って立ち上がらせようとし、煌の手にほんの少しだけ触れた途端。


「わーっ!


 そんなっ!


 だからダメッ!


 手はっ!


 他の方法で起こしてっ!


 手とかまだそんなカンケイじゃないからッッ!


 なんかその、きちんと段階を踏んでっ…!」


 そう言って、いつものごとく、煌は上半身を起こしつつ視線は下を向いたままで、手をサッと引っ込めて。


「みゃ~ミィ!」


 いつものごとく、姫はそれを気にせず、ニコニコ笑って無理矢理煌の両手を握って、上下にブンブンと振って。


「わぁぁぁ! ちょっ…またっ……!


 ッッ!


 ………」


 いつものごとく、気絶するように煌の頭がフラリと揺れた瞬間、姫は手をお放しになって。そしてまた、いつものごとく、正座が横に崩れて体が倒れる瞬間、煌は床に片手をついて、体を支えて。


「……………至福です…」


 いつものごとく、煌が真っ赤な顔に少し涙を潤ませて、床に手を付いていない方の手を胸の前でギュッと握りしめた後、ポツリとつぶやいて。



 ……ハァ……


 …ここまでが煌の言う、『最重要案件の極秘任務』のワンセットなんだよ。



 ところが、今回は妙な物言いが2人付いた。


「夢ーサマッ!


 オトコノヒトの手なんか握ってっ!


 (よご)れますゥッ!


 ()めてくださいッ!」


「そうそうっ!


 こっち来て!


 消毒してやるから!」


 歌陽(かよう)さんが叱った後、歌陰(かいん)さんも叱って、しゃがんでいる姫を立たせると、2人は姫の手を自身らの両手で包み込むように握った。


 それを見た游さんは、何かを悟った様子だった。


「あぁー!


 君たちだったの、そっか、そっかぁ!


 いやぁ最近ねー、小夢が。男に触ったから消毒だの何だのって、俺に抱き着いたりキスしてきたりさー。前から抱きつかれたりキスされたりするのはよくあったんだけど、近頃特に頻度が高くなって。おかしいなー、父親に構ってもらいたがる時期なのかなーって心配してたんだよー。フフッ! そう、だったのかー! アッハッハ!」


 游さんは、カラカラッと楽し気に笑うと、歌陰さんと歌陽さんへ向けて声を掛けた。


「歌陰ちゃん、歌陽ちゃん、ありがとね。いつも。俺が父親らしいこと全然やってなくって、小夢に色々大事なコト教えてやってないから、近くにいる君らに小夢の教育を押し付けた形になっちゃって。感謝してるよー。


 でも、いいんだよ。別に。男の人にスキンシップ取ったくらいで、俺は汚いとは思わないよ。やりすぎはダメだけどねー」


 そう言って、今度は姫の方へ笑い掛けた。


「小夢、男の人を触ったからって、そう、汚ながるコト、ないから。これから、『消毒』、ナシでいこうねー」


 そう言って、游さんは姫の頭をなでた。


「歌陰ちゃんも、歌陽ちゃんも、それでい~い? ん?」


 空いている手で、歌陰さんと歌陽さんの頭も、順になでた。


 歌陰さんと歌陽さんはほんのり頬を染めてため息をつくと、游さんの方を上目遣いで見上げ、(あきら)めた様子で、しかし口元は上げて、同時に声を出した。


「「仕方ないなぁ」」


 そうして2人は姫の手から両手をスッと放した。



 「ハァー、良かったァ。いやぁ、ごめんねー、小夢が俺に抱き着く頻度が高くなってさぁ、ちょっと、用がし辛くなってきて…」



 そのさわやかに笑う游さんの腰に、姫は幸せそうに正面から抱きつかれた。


「あらー…もー、言ったそばから…俺はこれから煌ちゃんにお菓子持って来なきゃならないのに…みんなに笑われるよー? そんなに甘えんボだと…」


 そう言って、困りながらも姫の頭をなでながら、游さんは周りを見渡した。そこで初めて、能の顔色に気が付いた。



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