五
煌はもらった物品と次回欲しい物を書いたリストをまとめて空になった布にくるみ金属の箱に入れると、馬の背に乗せ、続けて、私も抱えて馬に乗せた。
「ではな。また来る」
そう短く言ってフッと笑うと、馬を引いた。町中、人の多い市で馬を走らせることは避けたのだろう。良く気遣いの出来る人だった。
私は、その日、抱える程の贈り物をもらう度いつも嬉しそうに微笑む煌が、一体何をもらったのか気になって聞いてみた。
「ねぇ、煌さん」
「何だ」
「いつももらってるその包み紙、中身は何なんですか?」
「……フッ…」
「あっ、教えてくれないつもりですね! じゃ、当ててみせますっ! …うーんと…お菓子?」
「フフッ…」
「違うんですか? じゃあ…服?」
「フッ…いいや」
「えーと…あ~~~…ん~~~…? 武器的な物?」
「ハッハッハ! いや!」
高らかに笑う煌の声に私は少しヤキモキした。早く答えを知りたかった。
「何ですかぁ?」
「…紙だ」
「紙?」
煌は少し悲し気に、私の疑問に答えを返してくれた。
「…俺の国じゃ、紙は貴重なんだ。その代わりになるものなら、何十と開発したがな。…しかしやはり、自然から作られた本物には敵わん」
それを聞いて、幼い私はまた疑問に思ったものだ。
「紙がなかったら本が読めないですね。石とか木に書くんですか?」
それを聞くと煌は静かに、少しだけ口元を上げて、答えてくれた。
「俺の国じゃ、金や銀はこの国の木木の葉と同じだ。落ちていても誰もがそれを踏んで歩く程価値がない。それで、金や銀で板を作って本にする。
紙の本もある。貴重だがな。だが、俺の国の者は皆、一般的に有名な本の内容は記憶してるんだ。『してしまう』と表現しようか。そうして口で次に伝えていくんだ。次の者も覚えて伝えていく。生まれついて記憶力が良いからできる。北境国に優秀な人物が多い理由の1つは、それだな。
もし、一般的に有名ではない本…記憶出来ていない内容の本や専門書、稀少本、紙で出来た本などを読みたかったら王立の図書館に行くんだ。そこで、監視付きで閲覧できる」
「新しい紙の本は? 作れないんですか?」
「作れる。国家から本を作る許可が降りれば存分に書けば良い」
「…紙を使うことは、全部国の許可が要るんですか?」
「いや。個人的に購入すれば自由にできる。が、高価だぞ」
「あ、そっか、北境は生活するのにお金が要るんでしたねー」
「フフ…」
こんな話をしながら、私たちは王宮に入った。
煌は手綱から手を放し、私を抱きかかえて降ろしてくれた。
馬は私が降りるのを確認すると、パカポコと自由に庭を歩き出した。
これは、煌が王宮に来た際にやるいつものことだった。煌の馬は賢かったので逃げることもなく、自身で厩へ行ったり、自由に庭を駆けたりしていた。
馬から降ろしてもらった私は煌と一緒に後宮(王族の私的空間。公的空間は前朝)へと歩き出した。[[rb:游 > ゆう]]さんが煌を迎えに行って欲しいと私に頼んだときは、用があって後から来る場合もあるが、大抵は煌と会えるように後宮内のどこかで游さんも姫もいてくれた。
そう。
それで。
私が煌と後宮内と歩いている時だった。少し距離があったが、前方に、私がいつも執務をしている部屋の前辺りで、人影が見えた。私は近付きながら、声を掛けてみた。
「あのー。僕に用ですか?」
コツコツコツ…
「あ、紫瑛。前回の市で出店していた人物のリストを借りたいのだ、が…
失礼。接客中だったか。また後で構わない。
お客人、失礼致しました、ごゆるりとお過ごしください」
能だった。その時も、彼は黒くて長い衫(ソデの長い薄手の羽織り)に白や緑、青といった寒色の上衣下裳(高官のフォーマルな服装。現代の背広と同じ意義を持つ。礼服。上下の分かれている着物。上は短い着物、下はエプロン状のスカート。能の場合、動きやすいように丈が通常より少し短く、褲(軍用のパンツ)とブーツをはいて歩いていた)姿だったと思う。
能は煌へ軽く頭を下げると、そのまま私の執務室…といえるかどうか分からないが、仕事をしている部屋を通り過ぎ、私たちの横も通り過ぎ…ようとした瞬間だった。
「…し、はく…」
煌が、目を見開いて声を出した。
その言葉を聞いた能は、驚いた表情で振り返り、返事をしていた。
「……はい」
そのまま。長い時が過ぎたように感じた。




