四
…えぇと…あ、そうそう…
煌が馬から降りた後だったね。私もその後すぐ背から降りて馬の首の根っこ辺りを撫で、煌の近くへ小走りに近付いたよ。
「ねぇねぇ、今日は何を持って来たんですか?」
私はいつものように、煌へ質問を投げかけた。
「…うむ。…いつもの通りだ。宝飾品に、鋼に。あとは、頼まれていた物品だ」
机に片腕を置き、足を組む煌に、酒屋の店主は微笑みながら煌の腕近くにお茶を置き、静かに語り掛けた。
「でも、煌さん、大丈夫かね。俺たちは、嬉しいんだよ、北境国でしか手に入らない物がたくさんもらえるからね。
でも、あんた、北境国は今、大変じゃないか。
ほら。あのー、一般人は出入り禁止なんだろ、国? それに、闇商人は、北境国の王様がどんどん、見つけ出しては処刑しているんだろ?
あんたのことは好きだし、ここにいるみんな、あんたを嫌いなヤツなんかいないさ…でもな、危険を冒してまで来てくれるのは、俺は感心しないな。自分の身を1番に考えなよ」
心配そうに盆を持って話す店主の方へは顔も向けず、煌はフフンと笑いながらお茶を飲みほした。
そう。
煌は、北境国の国境を馬で密かに越えて、密入国ならぬ蜜出国し、北境国でしか手に入らない良質の宝玉や鉱石を売っている。…うん、そうだね。西境国は昔っから、出国も入国も自由で、国境にも警備隊なんていなかったから。…うん。ノンビリ、してたねぇ…
で、だ。北境国の国境を越えるには、国境警備の兵士の視線をかいくぐり、山賊のいる峰などを抜けなければならない。それに加えて、恐ろしい獣が跳梁跋扈する山道も、険しい岩盤地帯も、深い渓谷地帯も、目のすくむような崖もある。そのような危険な道のりを毎回平然とした表情で越えて来て、あの、桃の木の下で悠然とした態度で昼寝をする煌に、密かに私は憧れを抱いていた。こんな強い男になってみたいな、と思っていたんだよ。…まぁ、1番好きな人は游さんだったんだけどね。強さだけは、ね。
私が煌の態度に目を輝かせて見つめていた時だったろうか。
酒屋の奥方が台所の方から顔を出し、含み笑いをしながら、店主をたしなめた。
「やだ。お前さん!
もー、あんた、ヤボなこと言って!
煌さんは、あたしたちのために来てるんじゃないよ。あたしらは、オマケさ。
あたしらなんかのために、煌さんが危険を冒してまで来るもんかね。
…会いに来てんだよー!」
それを聞くやいなや、煌はやにわに立ち上がった。そして、群がる人山の方へ1声、美しく響く低い声を発した。
「時間だ。次回持って来て欲しい物があったら聞くぞ」
それを聞いた人だかりは、布の上に落としていた視線を煌へ向けて、様々な要望を伝え出した。
コンドマタアカイノモッテキテェ! キョウハアノコニアゲタノー!
ワタシ、ツギ、アオイノー!
オレモマタツギ、ハガネクレヨー!
…オレ、ショウセキジャナクッテ、カヤクジタイホシインダケド、イイカイ?
ガヤガヤ…!
「よーし!
分かった、分かった!
じゃあまた、紙にでも書いてくれ、次、持って来られるように努力はしてみる!」
そう言って目を閉じた煌は、人人があびせる期待の言葉を、物理的にも押さえるように2、3度上げた両手を小さく上下に動かした。
人人はそこで静かになり、酒屋の店主に紙と筆をもらって1人1人、要望を書き出した。
その間、しばしの静寂が周りに広がった。すると急に、1人の女性が大事なことを思い出したような声をあげた。
「あ! 紙と言えば! 煌さん! ハイ、コレ!」
どうやら髪飾りをもらえたらしい女性が、頭の新しい飾りを光らせつつ、煌に向かって、軽く抱える程ある包みを渡して来た。
そこで初めて、煌はニヤリとした笑いではなく、少年のような瞳で笑った。心の底から純粋に喜んでいる様子だった。
「おぉ! 有り難いな!」
「煌さん、また絵、描いてよ。私、煌さんの絵のファンなのー!」
それを聞いた、周りにいた女性たちは、またザワつき、静寂は一変して黄色い声ばかりになった。
「私も!」
「あんただけズルい!」
「私もよー、煌さーん」
「私も欲しい~!」
「ンねぇ、あの要望書に、『煌さんの絵』って書いてい~い?」
「あっ! じゃ、私も~!」
そう言って要望書に群がる女性に、鋼のグラムを書き込んでいた男性は筆を取り落とすほど慌てて対応した。
それを見て、煌はため息を吐きながら、しかし、どこか、少し嬉し気な表情をしながら、あしらうように、言葉を口にした。
「…描けんぞ、そんな急には」
それに対して女性の軍団は、全員で煌の方へ振り向き「いつでもいいのー!」と答えた。
それを見てまた、煌はため息をついた。
そんな煌の傍らにいた鋼をもらった鍛冶屋や研ぎ石をもらった魚屋なんかは、煌がいらないというのを聞きつつ、匕首(小型ナイフ)や干物なんかをどうかと勧めていた。それを見て、煌の絵が欲しいと言っていた女性陣も煌に物をあげだした。
「これお菓子!」
「これお花!」
「これリボンね! 東境国出身の人がやってるお店で買ったの!」
「私もお花!」
「被っちゃったけど、私もお菓子ね!」
煌の腕の中へ次々にカワイイ物が押し込められていった。
煌が黙っていると、女性陣はみんなして…
「夢ーちゃんにあげて! 喜ぶから!」
と言った。
煌の体が固まったように見えた。
そう。
煌も、姫…あぁ、当時の立場だけれどね、そう、姫のことが好きだったから。
危険を冒してまで西境国に入国していたんだね。
…うん。
…そうだね、まぁ……
君ももう知っての通り。煌は、たくさんの危険の内、闇の売買をしている理由で国内から追われる、という危険だけは回避出来るから。
うん。
その他の危険も、回避しようと思えば出来たんだけどね。
無理矢理国境を越えて危険を冒す理由が、彼なりにはあったみたいだよ。
それも後々、話していこう。
…あぁ、そうだね、そろそろ、煌と私が西境国の王宮に入る話に入ろうか。
…ここからちょっと、私の友人の1人に危機が訪れるんだ。
あの時は本当に大変だったよ!




