三
彼の馬はとても早く、あっという間に町の、商店街まで着いた。
丁度その日は市のある日で、商店街の入り口には多くの人が往来していた。
煌はそこで馬を降りた。その時私は馬の上に残しておかれ、煌が馬の手綱を持って前進した。私は当時、精神的にも幼かったし、体格的にも幼かった。なので普段背の低い私の視点からでは分からないモノがたくさん見えて、とても楽しかった。
「あっ! 煌さん!」
「煌さんだ!」
「煌さーんっ!」
キャァァ…
ワァァ…
多くの人が、煌を見つけるや否や、騒いで周りに集まった。集まった人は女性が大半だった。
「煌さん! 煌さん! 今日は何を持って来たの~?」
「私、赤いのを見せて欲しい! 次の節(お祭)のときに着けたいの~!」
「私、耳飾りが欲しいの! 今度デートなの!」
「この間頼んでた髪飾り、あるぅ?」
女性が要望を次々に口にした。
「煌さん。良~い研ぎ石、持ってないかね」
「今日は鋼、持ってないか? やっぱりあんたんトコのが1番でね!」
目の前の人だかりに対して苦笑いを1つした後、煌は馬の手綱を近くの木に結び、背に乗せている荷物をその場に下ろした。荷物は金属の箱のように見えた。
あぁ、『市』のことを少し話しておこうか。
今も昔も、西境では何の手形も許可もなく、誰でも、市の立つ道に店を開いて良いのは同じだよ。
私は太宰として、誰が店を開いているのか、確認はしていたがね。
西境国では通常、買い物は感謝の気持ちだけで良かった。『買い物』ではなく、『もらう』と言った方が良いのかもしれないね。西境国の国民は人に物をあげることやもてなすことが大好きで。そーう、今もだけど。
無料で物をもらうことが心苦しい場合には物物交換や頼まれ事をすることで売買が成立した。ただ、そんなことをする人は少なかったけどね。いつでも、どこでも、苦しいときは助け合い、あげたい物、欲しい物があれば何とかするっていうのが国民性だったからね。是非お礼をしたいという気持ちや、物をあげたいという気持ちから、物物交換に発展することは頻繁にあったけどね。
西境国外の訪問客や旅行者が来て買い物をし、無料が心苦しい場合には、その国の通貨で支払うことも良しとしていた。
その他国の通貨を貯めて、その通貨の通用する国へ旅行したり、税金として納めたりすることが西境国国民の楽しみの1つだったよ。
…その他国の通貨を使って、私は役所の仕事をこなす資金にしていたよ。物物交換で頼み事をしたりね。でも受け取る人はほぼいなかったねぇ。受け取る人も、他国の品を仕入れて西境国を豊かにすることを目指す志の高い人だったり、他国の高い薬を手に入れるための元手にしたり。良い人ばかりだったね。そういう人を税金で援助していたから、もらってくれて本当に良かったよ。そう、そんな人たちを除いて、受け取らない人には半分無理矢理手に握らせていたんだけれども。…それも後で税金だと言って納めに来る人が多かったけどね。
その、市で。
煌は石を敷き詰めている道に布を引いて、上に、品をザラッと無造作に置いて、自身は近くの酒屋の椅子に腰かけた。布の上には輝く色とりどりの宝玉に、その玉を使った宝飾品、白く輝く鋼の塊、黒色火薬の材料になる硝石、や研ぎ石などがゴロゴロと散らばっていた。
ワッと群がる人人を見て、煌はニヤニヤと笑っていた。人人は群がるも、そこは西境国国民。奪い合うことはせず、誰が欲しいか周りに許可を取ったり、欲しい人みんなで見たりしていた。
基本、西境国の国民は貴金属や宝飾品に興味を示さない。それらに高価な価値を見出せない。だから、物物交換なども成立する。人の心を1番に考える国民性を持っている。
だが、まぁ、何というか。やはり、女性は、想い慕う人と同じ時間を過ごす時など、時折は、着飾りたいみたいだね。しかし誰それよりも美しい宝石を持っている、などと自慢することや、誰だれの身に着けている装飾品よりも自身の持っている物の方が美しいと見せびらかしたりすることは、まぁ、なかったね。見た目よりも、心で勝負をする、そんな女性たちだったし、男も、心で応えるような人物ばかりだったよ。
…あぁ、ゴメン。話がズレたね。
戻していこう。
えぇーっと、どこまで話していたんだっけね?




