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 北境国 の話(一)

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 あれはいつ頃だったかな…


 まだライラを知らない人がいたから、西境国(さいきょうこく)で『道士による殺人事件』があってしばらく経った頃だったかな…


 …あぁ。


 殺人事件、聞きたいかね? 


 ……


 ……ハッハ!


 そうかね、そうかね、それではまた今度、君が来たときにでも話してあげよう。これから話すおもしろい話には関係のない話だから。


 いや、私はね、話がズレると長くなる性質(たち)だから。


 とにかく、人と他愛なく話すのが好きなのでね。



 さて。


 私が、まだ幼かった、当時。



 私はその日も、深衣(しんい)(役人の着る、白い地に黒いエリの着物。上下の服が分かれておらず、つながっている)にブーツで走っていたよ。


 町の人が『()ーちゃん』と呼ぶのを『(きょう)太宰(たいさい)(全ての文官(役人)の長官)です』と訂正しながらね。フフッ。



 そう。



 その日、私が走っていたのは、いつもの『(ゆう)さんを探して』という理由からじゃないんだよ、珍しかったことに。


 『游さんから頼まれて』という理由からだった。



 …いや、実は、この用事で走らされることはよくあったんだけれどもね。


 人を、迎えに行っていたのだよ。



 これから話す、その人…私の友人の1人は、男児(だんじ)であれば誰もが1回は憧れる、四境(しきょう)(東、南、西、北、の4つの国をまとめて呼ぶ名称)最強の武人・策略家と(うた)われる人だよ。何事にも動じない心、何モノにも恐れない精神を持っていて、(いくさ)でも数名相手に立ち回り、戦略戦・戦術戦でも負けることがほとんどなくてね。政治面でも良く活躍した。


 それでいて芸術…詩歌や絵画の才能に溢れていて。手先も器用で、カンザシの細工なんかも作ったりね。美しい物が好きで。


 傍若無人で破天荒な一面もあるのに、とても紳士的で、優しくて。


 …当時は時折、悲しい瞳で空を見つめる時があったけれども、今はもう、そんな憂えた表情は見たこともない。現状が楽しくて仕方ないらしいね。



 君も知っている有名人だよ。


 じゃ、話を続けようか。



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