一
*
*
*
北境国 の話(一)
*
*
*
あれはいつ頃だったかな…
まだライラを知らない人がいたから、西境国で『道士による殺人事件』があってしばらく経った頃だったかな…
…あぁ。
殺人事件、聞きたいかね?
……
……ハッハ!
そうかね、そうかね、それではまた今度、君が来たときにでも話してあげよう。これから話すおもしろい話には関係のない話だから。
いや、私はね、話がズレると長くなる性質だから。
とにかく、人と他愛なく話すのが好きなのでね。
さて。
私が、まだ幼かった、当時。
私はその日も、深衣(役人の着る、白い地に黒いエリの着物。上下の服が分かれておらず、つながっている)にブーツで走っていたよ。
町の人が『紫ーちゃん』と呼ぶのを『嬌太宰(全ての文官(役人)の長官)です』と訂正しながらね。フフッ。
そう。
その日、私が走っていたのは、いつもの『游さんを探して』という理由からじゃないんだよ、珍しかったことに。
『游さんから頼まれて』という理由からだった。
…いや、実は、この用事で走らされることはよくあったんだけれどもね。
人を、迎えに行っていたのだよ。
これから話す、その人…私の友人の1人は、男児であれば誰もが1回は憧れる、四境(東、南、西、北、の4つの国をまとめて呼ぶ名称)最強の武人・策略家と謳われる人だよ。何事にも動じない心、何モノにも恐れない精神を持っていて、戦でも数名相手に立ち回り、戦略戦・戦術戦でも負けることがほとんどなくてね。政治面でも良く活躍した。
それでいて芸術…詩歌や絵画の才能に溢れていて。手先も器用で、カンザシの細工なんかも作ったりね。美しい物が好きで。
傍若無人で破天荒な一面もあるのに、とても紳士的で、優しくて。
…当時は時折、悲しい瞳で空を見つめる時があったけれども、今はもう、そんな憂えた表情は見たこともない。現状が楽しくて仕方ないらしいね。
君も知っている有名人だよ。
じゃ、話を続けようか。




