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十五



 流石というべきか、(たん)はとっさに受け身を取ったものの、それでもライラの力には押されてしまい、後ろへ倒れ込んでしまった。


 私は血の気が引いた。坦が言っていたのはこのことだったかと、慌てて坦の方へ駈け寄ろうとした。しかし…


「動くな紫瑛(しえい)っ!」


 ビクリとして、私はその場にとどまった。


 すると、ライラは坦の方ではなく、森の方向をにらんで恐ろしい咆哮を上げていた。


 ウグゥゥゥゥルルルルルルゥヴォォォォォォォァァァァァアアアアオオオオオオォォォ!


 ヴォォォォォォ!


 ヴォォォッ!


 そのライラのにらむ先から、キラリと光る物が飛んで来た。


 シュピッ! バシィ!


 シュピシュピッ! バチバチッ!


 何か、坦を襲う速い物質を、ライラはその体をもってはたき落としていた。



 賢い動物は、身を盾にして攻撃から味方を守ることは滅多にしない。なぜなら、第2波、第3波の攻撃が来た時に、自身が動けない状態では味方を守ることが難しくなるからだ。



 ライラも例にもれず、坦を守るように動いていたが、それは自身の怪我も最小限に抑えようとして動いているようだった。


 坦はライラが『何か』をはたき落としている間に、宮殿の中へ走り込み、身を低くしていた。何発か、速い物が坦の付近に落ちた後、今度は、思いもかけず…


「紫瑛っ! ボーッとしてるなっ! 伏せろっ!」


 …私の方へも何かが飛んで来た。


 私は避け切れず、袖を貫かれた。


 私は驚いた瞬間に体勢を崩してしまって転んでしまい…その場に倒れ込んだ。そこへ、何か速い物が幾つか飛んで来た。…私の体が小さかったためなのか、相手の腕が悪いせいなのか、上手い具合に袖や裾を射抜かれただけで、体には当たっていなかったが…それでも、恐怖を感じるには十分だった。


「キャアァァァァ! ヤだぁぁぁあ! たすけてぇぇぇぇぇ!」


 甲高い声を上げて身を小さくして叫ぶ私に、大きな影が目の前に現れた。



 …ライラだった。



 恐怖で固まって動けない私を守り、ライラは坦と同じように何度も『何か』をはたき落とした。


 ところが。


 それでも、やはり、全てをはたき落とせる程、ライラは経験もなく…



 ッキュウゥゥンッッ!


 …オォォンッ!



 ライラの腹に、『何か』は刺さった。ライラは悲しげな泣き声を上げた。


 その直後、2本目も背中に…刺さった。


 ッキュウウッ…


 しかし、ライラはそこで倒れず、森の方をにらみつけたまま、今度はそちらへ向かって、聞いた者の耳も感情も砕く程の咆哮をし、走り出した。



 ヴォォォォオオオオオオオォォオオオオオオオオ!



「ライラーッ! いいッ! こっち帰って来いッ!」


 坦は走り出すライラに向けて声を投げかけ、その声を発すると同時くらいに、私の元へ駆けつけて、私を抱き上げた。そうして、また、宮殿の中へ走り込んだ。


 ライラは坦の声を聞くと走るのを止め、きびすを返すと、坦の方向へ走って来た。


 坦は私を抱きかかえたまま宮殿の中を走り、先ほどいた庭とは逆方向へ抜けた。ライラも坦の後を追って走った。そして私が住む後宮の方向へ走り込むと、後宮と[[rb:前朝 > ぜんちょう]](国王の公的空間。国王の私的空間である後宮とは分けられている)を隔てる重い門を金属の装置を使って閉じ、そこで私を初めて下した。


「大丈夫か!? 紫瑛っ!? 腕は!? 足、怪我したか!?」


「ぼ、僕、大丈夫です! でも、ライラが、ライラがっ…!」


「そうか…! ライラ、動けるか? 台所の方へ行こう、広い場所がない!


 紫瑛! ここは後宮だ、外からの攻撃に強い! ある程度動けるから、(のう)を探してくれ! で、もしいたら判断を仰いでくれ! そして…出来れば、獣医を、早く!」


「わっ、分かりました!」


 私は泣きながら後宮の中を走った。


 もう、どうすれば良いか分からなかった。考えることが出来なかったので、とにかく、坦の言葉に従おうとした。


 私のせいでライラが怪我をした。


 怖い『何か』が飛んで来た。


 能さん助けて。


 その言葉を頭の仲でただただ繰り返し、涙を拭きながら駆け回った。



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