三
私が西境国で過去最年少の太宰(国政を司る役所『天官』の長官であり、且つ、その他の役所全てをまとめる役も担う。官吏全ての代表、最高長官)と太保(王の相談役。側近)となってまだ日が浅いときだった、と思う。
その頃『役所』だの『公共施設』だなんて物はまだなくてね。私は宮殿内で仕事をしていた。
…実をいうとね、その頃、『役人』なんてものは近所の人で手が空いた者が適当に仕事をしていたのだよ。どこそこで子どもが生まれたから住民票を書き加えておいただの、橋にガタがきているから適当に資材も人も集めて直しておいただの。
驚くことには、西境国では、『国のための寄付』という名の『税金』も皆適当に王宮へ持って来ていたのだ。今年は豊作だったから食う分以外の金を持って来ただの、いつもお世話になっているから利益のいくらか分の金を置いていくからだの。
…あぁ、話がずれたね。
まぁ、だから公的『役人』は長官の私だけだった。それで常には1人で近所の人の持ってきたものを整理だの何だのしていた。1人だから、書類を整理し必要ならば作成できるような部屋さえあれば良かったし、周りに気を使わない自由な環境でもあったから、宮殿内でも十分仕事ができたよ。
そう、それでだ。
あの日、私は用があって宮殿を出た。
走って。
探していたかな?
その日は市の開く日だった日だったから道にはたくさんの人々がいた。
背が小さい私は大きな大人の間を、林の木をよけるように避けて走っていた。
――あぁ、そうだ、とても大事な用があったのに、それを伝えるべき相手が王宮内にいなかった。それで、だった。慌てて。少し、怒って…
「…『待ってて』ってッ、言ったのにッ!」
思ったことをスルンと言ってしまうところもまだまだ『子ども』だった。
「王っ宮のッ! 玄っ関のッ! 雨っ漏りッ! 明日ッ! 直すッ!」
ザッザッザッザッザッ…
走りながら。会えたらまたきまぐれを起こして消える前に。即座に伝えようと。ずっとつぶやきながら走っていた。
…あの人は困った人を見つけてはすぐフラリと手伝いに行ってしまう。田や畑が好きだけど国の田畑地帯は広いから、農作人に混じるとどこにいるか分からなくなる。
そう遠くへ行っていないと分かっているうちに見つけ出さないといけなかった。
「おゥ、嬌太宰! 今日も走ってるねぃ!」
「紫ーちゃん、今日も追っかけっこかいぃ!? あっはっは!」
「大変だねぇ、紫瑛ちゃんもねぇ」
「プンプンしたお顔もカワユイねぇぇ!」
アッハッハ! ガヤガヤ…
ザッ! ピタッ! クルリッ
「んもぅ! あのねぇ! 僕は『嬌太宰』なのッ! 『しーちゃん』はやめてくださいッ! あとねっ! ボクっ…、カワイイとか! 男児に向かって! だめなの!」
「ははは! 分かった分かった!」
「『カワイイ』なし!」
「『キョウタイサイ』」
「そうですッ!」
ガカッッッドドンドォ――…サァァッ…ザララ、ゴロゴロゴロ……
「!?」
怒っていた私の後方、すぐ近くで大きな音がした。