表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/452



 ()は、天帝(てんてい)(天界の最高神)が自身の娘を玉龍(ぎょくりゅう)(神獣中最高の地位にある龍族の王。天帝の乗り物)の息子に嫁がせ、出来た娘の分神(ぶんしん)(分身)である。


 玉龍は天帝の乗り物であるとはいえ、天帝の命令を無視して天変地異を起こすことができる、龍族の王である。天帝は龍族との緊張状態を緩和するため、自分の娘を玉龍の息子に嫁がせた。天帝は七夕伝説に出て来る織姫の他にも子がおり、今回嫁いだのは天帝の長女である。その娘と玉龍の嫡男との間に生まれたのが夢であり、今、赤い顔をしているのはその夢が自身の恋心を基礎に作った、個性も固有意思もある1柱の神である。ただし、夢本人よりも能力は劣っており、『恋心』を基盤にして作ったため、周囲の人間の愛情、幸福感、欲望など人間の悦楽・快楽に関する気持ちを増幅させてしまう、という妙な体質になっている。それゆえ、夢が地上で過ごしやすいように天上人とも人間とも少し違う能力を付け加えていた。


 まず、夢は人間の感覚で世界を見たり感じたりしていなかった。見た目ではなく、心を大事にした。実際のところ、周囲の心中での幸福感や愛情といった温かな思いを感じることが夢の1番の栄養源で、自身の心にも体にもダイレクトに伝わるエネルギーだった。簡単に言えば、生き物の器ではなく、中身を見、その中身から生きる力を分けてもらっていた。


 次に、夢しか持ち得ない能力だが、夢に近接した者のみの範囲、夢が見たいと願った対象のみで、夢は生物の心が千変万化する炎や水のように見えた。気持ちによって色も形も変わり、その色や形の占める割合で人が今、心の中で何を何割考えているか、読めた。簡単に言えば、形が変化する円グラフのような物を見ていると思ってほしい。現在頭の中に、何が何%を占めており、何が何%を占めているのかが理解できた。純粋な天人であれば完璧に心を読むことも可能であろうが、夢は能力を制限されて生み出された分神であったため、このような大雑把な力だった。


 そして、これも夢に限ったっことだが、心を見た時に自分へ向けられる幸福感などをそのまま自身の栄養源にしていた。



 それを踏まえて。



 坦に押し倒された時、夢は天人の独特の感覚で、器(体)が欲しければいくらでもやる、心はやらないのだから器をどうこうしても意味がない、自身を殺そうという考えの下で何かしようとしているのではないのだから、裁きも罰も下す対象にならない、とにかく、器をどうしようが坦には何のメリットもデメリットもないのだから好きなようにすれば良い、と無関心に構えていた。事実、体の関係がある者はこれまでは全くおらず、興味を抱いたことも無かった。


 ところが。


 先ほどの夢の能力。近接している者の、考えの割合が大体読めるという、曖昧な能力。


 これで坦の心を何気なく見てしまったことが失敗の元だった。このことで夢は赤くなることしかできなかった。


 これまで兄くらいにしか思っておらず、心の中もそんなに注視して見ていなかった。父親のことを考えながらカワイイと言って来る神経が分からなかったし、自分の国のことを考えながら花を髪に差してくる気持ちが全く分からなかった。


 今。


 坦は夢へのありったけの想いを心の中で爆発させてから任務を進めようとしていた。


 これまで隠し続けていた気持ちを夢の目の前で全てさらけ出してしまっていた。


 つまり。


 夢は今の坦の心の中に自分への愛情しかないことを見てしまった。一点の曇りもなく、全て夢で染まりきっている。


 こんなものを見たのは初めてで、自分でもどうして良いのか分からなかった。自分は(ゆう)の物なのに、不謹慎なことに、これほどの気持ちを知ってしまって、ちょっと、ドキリとしてしまった。更に、最悪なことには、これ程の自身への想いを何の用心も身構えもなく『見た』ことによって直接体に入れてしまった。慌ててすぐに目をそらしたが、瞬間、例えようもない快感が全身に走ってしまった。


 しまった…そう思って、現在。もう1度あの快感を欲しがらないように必死に忘れようとしているのだった。


 失敗をする所や少し抜けていたりする所など、短所が存在することも、夢が天人と同じに完璧な分神として作られておらず、劣って作られている所以(ゆえん)である。


「…と……あの。ゴメン、その…これはっ…間違いでっ……」


 夢が必死で今見た物と自分の不甲斐ない感情を忘れようとしていると、坦の方から、間違いだったと、声が降ってきた。


「ちょっと…その……あの。いや、間違いでもなくてっ! いつもの、そのっ、フザケてやってるヤツでぇっ、あんまりカワイイから脅かそうと! そんな、そんなにさぁ、胸開けた服着てると、男に、こんな風に襲われるよって……アハハ……」


 坦はゆっくり体を起こしていった。夢は今度はしっかり身構えて坦の心の中を確認のためもう1度見てみたが、もう、あの1色に染まった心の中はなくなって、また良く分からない複雑な色と変化を続ける形がそこに見えただけだった。ホッとした。夢はやっと、落ち着きを取り戻した。


「えっと、その…信じて、くれる…? 俺は、その……夢ーちゃんを、その……違くて、その……」


 その時だった。


 ッバァン!


「夢ーサマァァ! 助けに参りましたぁぁッ!」


「夢ーサマぁ! お任せくださいィィィッ! 半殺しにいたしますぅぅぅぅぅッ!!」


 夢の乗り物だと自負する、神聖生物のキョウダイ、歌陰(かいん)歌陽(かよう)花鳥斎(かちょうさい)(坦の離宮名)の戸を蹴り入って来た。


 それを見ると坦は真っ青になって無言で飛び退き、庭に飛び降りてそのまま森の方へ走って行った。


「むわてぇぇぇぇぇ! おんまぇェェェェェェェ! オレの、オレのッ、オレの夢ーサマに何しやがったァァァァァァ!」


「大丈夫ですかッ!? 何かされましたか? あぁっちょっと顔赤いじゃないですかぁぁ…! あぁぁぁあ赦すまじぃぃぃぃ!」


「ピィィッ!」


 坦を追い駆けようとするキョウダイに向かって、夢は慌てて声を掛けた。ビタッと動きを止めるキョウダイ。


「うぅ……うぅぅう………このっ、オレが油断したばっかりに……うぅ……」


「うぅうう……夢ーサマぁ、大丈夫ですゥ、器だけですゥ! 心は汚れておりませんん! 何ならボクが清めて差し上げますゥゥゥゥ」


 号泣する2人に、夢はまだ少し赤い顔で起きたことを簡単に伝えた。


「……みー…」


「え…あっ……そう、なんですか…押し倒された、だけ…よ、良かったぁぁぁぁぁぁ! …あぁああ……うぅっ……あぁあぁあ……っく……っく……」


「良かったぁぁぁぁぁ! ボ、ボク、もう……夢ーサマ……ヤツの手に落ちたのかと……っく、っく……ううう……うあぁぁぁ………」


 泣き崩れる2人の背中をしばらくなでると、2人は落ち着いて来た。それで、夢はどうしてやって来れたのか、聞こうと思った。


「みゃー?」


「…あっ……そう、あの、オレたちッ……葬式の手伝いしてたら、能さんが来られて…」


「…んッ、うん…それで、今2人切りの状態でたぶんよろしくない状況になると思うから、2人でブチ殺しておいでなさいって、言ってくれてぇ……」


「そうだなー、あの人、めっちゃイイヤツだなぁぁ…歌陽ぉぉぉ……うっうっ……」


「歌陰んんん……良い丞相を持ったねぇぇぇぇ……うううぅ……」


 そうか、あの人のおかげか…そう思って、夢はすがりついて泣く2人のキョウダイを抱き締めた。


 お礼をしなければ…そう、考えた後、人間の思考や行動を読み切れていない自分の馬鹿さ未熟さにクスッと自嘲した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ