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十一



 それを聞いた能の母君は声を高くして驚いた。能もとても驚いた様子だったよ。


龍胎湖(りゅうたいこ)で拾った?」


「すごいな…


 いや…『国の人がそう言っている』とは何だ?


 王自身が言っていることは違うのか?」


 私はその疑問にもサッサッと答えた。


「游さんはおかしなことを言ってて、よく分からないんです。


 『大きな()(てん)(分かりやすく表現すれば神。「天」は世界を作っており、世界が上手く進むように全ての事象を操れる、とされる。世界を動かす神々全てを「天」と表現することもある)の心のまま俺のために作ってくれたコだから、俺の子どもだ』って言ってます。


 国の人は龍胎湖(りゅうたいこ)で生まれた龍の子どもだって言ってます。


 天が游さんに預けた龍の子だって。タダで預けるのは申し訳ないから、龍胎湖(りゅうたいこ)をおまけであげたんだって。


 …だから姫様は龍の子で、『龍声(りゅうせい)』しか出せないんだろうって」


 

 …えぇと。


 …あぁ、そうだね。


 『天が龍胎湖(りゅうたいこ)をあげる』ということについて、ちょっと説明を入れないといけないね。


 以前、まだ4つに国が分かれていた頃、国境は戦争によって書き換えられていたんだが、中央の眠龍山(みんりゅうざん)だけはどこの国の物でもなかった。そう、昔から聖域だったからなんだよ。


 ところが、眠龍山(みんりゅうざん)に新しく…そうだねぇ、滝や、鉱石が生えるように隆起した土地や、洞穴なんかの、『地形の一部が新しく発現した』場合、もしくは、地震や台風なんかで『隠れていた地形が見つかった』場合、それは、見つけた国が管理できることになっていたんだよ。


 …まぁ、『管理する』という名目で、『自分の土地に出来る』ということだよ。


 …いやー、ただ見つけるだけじゃ、その土地を自国の物には出来なかったねぇ。


 必要な行為は2点だね。見つけた者がその土地に、土地の名称と出身国の名前を書いた札や看板を置いて範囲を囲むことと…4つの国の王、もしくは王と確実に連絡がとれる者にこれがどの国が見つけた土地だ、と1番に示さなくてはならなかった。実はこれがやっかいでね。もし見つけたのが2番でも、各王への連絡を1番にとれたなら、2番手でも奪うことができた。でもこれもルールがあってね、連絡を受けた王は即座に連絡を受けた日付や時間を明確に示した札を連絡した国に出さなくてはならない、とか、もしズルをすれば天がその国に与えた物を奪うことになるから、王であれ極刑を受けるとか…色々細かいルールが四境(しきょう)間で取り決められていたよ。


 まぁ、早い者勝ちだがルールには忠実に服すべし、といったところかな。


 うん。


 それでだね。


 游さんは、その競争で勝ったんだよ。


 その話を町の人から聞いて会ったときに「すごいですね!」と手を叩いて喜んだら、「偶然が重なって」と言っていたよ。「初めは行く気がしなかった」とも言っていたっけ。う~ん、これもまたの機会に話そうか…長くなる。


 うん?


 『名前』?


 あぁ。


 皆、眠龍山(みんりゅうざん)の山の形が、まるで高い山に龍が巻き付いたように見えるのは知っているね。


 それで、山でイベントなんかをする際も、「龍の左後ろのツメのあたり」だとか、「龍の3つ目の尾のうねり」だとか表現しているね。


 当時も一緒でね。


 龍の体の部位にちなんで場所を指し示したりしていた。…そうそう、今でも、そういった地名が残っているね。…そうか、地名があるなら、それで教えてあげた方が分かりやすかったかな?


 そう。


 『龍の胎盤(たいばん)辺り』に湖が出現したから、『龍胎湖(りゅうたいこ)』だよ。


 似たような名前に『龍尾湖(りゅうびこ)』や『龍左爪崖(りゅうさそうがい)』とかがあるね。


 …あ。游さんはヒネッて考えることが苦手だからね。名付けたのは彼だけど、そのままの意味だよ、たぶん。



 …あぁ、まぁ。


 そう。


 話を戻そう。


「『龍声(りゅうせい)』? どういう意味だ?」


「能さんの質問の答えですね。


 姫様は何故か言葉を喋らないんです。


 出せる声は甲高い、獣か鳥かのような音のみです。


 游さんは『話せないんじゃなくて話さないだけだよ』って言うんですけど。


 游さんが拾って連れて来た時からそうだったって国の人は言ってます」


「…そうか……」


「何でか、游さんだけは瞬きしただけで分かるんですよ。


 でも姫様、動作とか、手とか背中に指で文字、書いてくれますから。


 国の人もちゃんと伝える時間、とってくれます!


 普段無表情ですけど、それは周りに気を遣わず自然に生きているだけだから、だそうです。みんなが言うには。


 良く見てると表情変わってますから。


 だから、怖くないですよ?


 色々、この国の人とは違って見えると思いますけど…」


「…怖がってはいない」


「良かった!


 姫様は無表情からのギャップでよくモテるんですよー!


 姫が怖くないなら、姫様に彼氏が出来るまでヘンなムシが付かないようにこれから僕と一緒に頑張ってくださいね!


 えっとぉ、う~ん、あのですねぇ、游さんは姫様の決めた人を彼氏にするって言ってるんです。


 西境国(さいきょうこく)の王はずっとそうやって、貴族だろうが農民だろうが、心の通じ合った人を相手にしてきたって。


 国のみんなは游さんが彼氏になりなよって言ってるんですけどー。ねー…どうも、游さんの方が…


 あー僕、今日見てたけど、能さんでもいいな…游さんがなついてるし。国のトップでしょ? 姫様を守ってもらえそぉ…


 あ。ヤバイ、話がズレてく…!


 そう、だから能さん!


 僕に協力してくださいよ!


 游さんの面倒を見るのも大事ですけど!


 彼氏じゃないのに姫様に手を出そうとするヤツは僕がやっつけます!


 能さんもやってくださいね!」


「…オマエ………勘が良いのか悪いのかどっちだよ……」


「あんた、どうすんの? 自分で自分をやっつけられるの?」


「母さん!」


 私はそこから先の会話を覚えていない。聞いていなかったというか、門を開ける音で消えてしまったというか…



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