五
廷を出て庭にまで飛んでいた角は、タンカに乗せられながら能の方を見ていた。能はそんな角を、庭から廷の入り口へ入るための階段上で、見下すように見ていた。
「くそ…お前………」
「…フフン。だから三流なんだよ、お前は」
「…刺さった、はずだ……いや、幻だったのか…?」
「刺さった。お前はそれの腕は良い。違う生き方を見つけろ」
「……奇術か………?」
「………クックッ……」
能は目を閉じて顔を少しうつむけ笑った。諦めたような、そんな気持ちも含まれたような、フッきれた声の軽さだった。
「母さん!」
そうして、能は突然彼の母君を呼んだ。
すぐそばにいた私は、どうしたのかと、首をかしげた。
彼の母君はあの窮地に駆け付けた集団の中にいたようで、能の声を聴くと角の周りの人の山から走り抜けてきた。
「言長! お前は視野が狭いな! 見るがいい! 母さん、やってくれ!」
その声に角の周りの人も能の方を見た。
そして、息をのんだ。
「私はな! この国に来るずっと、ずっっっと以前から!
――両腕などないのだ!」
彼の母君は、能の上半身の着物をやにわに脱がしていた。
そして、彼が嘘をついていないことが証明された。
白くなまめかしい皮膚に、たくましく筋肉が付いていた。私は本来驚くべき事象よりも、『頭だけ鍛えているわけではないんだな』と、そこに感心したものだ。




