七(*必要性から台本仕様になっています)
えぇとね…
慧 「ハァッ…ハァッ…
嫌だ…気持ち悪いです…獣の舌が私のカオ…ウエェ…」
仰暁 「タオルです。あと、予備の眼鏡です」
坦 「あー、大丈夫かライラ。あんなのなめさせて悪かったな。お腹痛くなってない?」
慧 「2度としないでください!」
坦 「ね~? 酷いですね~、ライラ~? あのメガネの人間はねぇ、綺麗なお姫様がナメた自分の指はそりゃもう嬉しそうにナメれるんですよぉ? なのに綺麗な虎が顔ナメると怒るんですよぉ、ひっどい差別ですね~? あ~、辛ぁ~い、辛~いですねぇぇ~? こんな人間から学んではいけませんよぉ~?」
慧 「う……」
坦 「ハイ、言葉に詰まったので俺の勝ちでーす! 今度から俺が声掛けたら王宮内でも返事しろ! でないと即『ライラ!』だからな! 身分偽ってるからとか言って外でしか会話しねーのはムカつくんだよ!」
慧 「うぅう…仕方ありません…良いでしょう…」
坦 「おし。じゃ、それと。今度の飲み代はお前持ちな! …あとなぁ、お前、俺と王宮内でも話せるんなら、外で飲まずに王宮内で飲んで、1泊くらいしろよ。いつも中途で抜けておもしろくねぇんだよ、煌だって朝帰りだぜ、ときどき」
慧 「…貴方と王宮内で深く話す機会を作らないために外で飲んですぐ帰っていたのですがね。あと、そこの貴方のことも。
それに、私はそこの強奪しか出来ない野蛮人ばかりのいる国とは違って、律と仁と徳で生きる、清潔な国ですから。忙しいのですよ。同じ王とはいえ、とても休暇を取る暇などあるものですか。
本日でさえ、私は仕事を携えて来ているんですよ、合間に仕上げようと思って。ご理解頂けましたか、この能天気貧乏王子が」
坦 「…やっぱ俺お前のこと嫌いだわ」
慧 「私も下半身で考える浅はかなオバカさんは嫌いです」
坦 「お前人のこと言えたギリかよ! この中じゃ1番ムッツリなくせに! …ライラ!」
慧 「仰暁! さっき夢ーさんから渡された私の歯輪…に゛ゃああっ! ギャァァ―――ッ! おやめなさいっ!」
仰暁 「あ~、スイマセン、若。それ、今、紫瑛から聞いたところに因ると、どうやらベジタリアンで優しい性格だとか。ひとまず放っておきます。今ちょっと立て込んでまして…ウフフフ…」
慧 「貴方! 私が、王が、気持ち悪い思いしてるんですよ、このピンチを見過ごすほどの重要なことが今この場にありますか!?」
仰暁 「あります!
何てことでしょう…夢ーさんのおっぱいが…前来た時よりちょっと育っているように感じます。さすが! まだ成長期なのですね! 是非測らせてください、これまでのように目視で確認しても良いのですがね、やはり具体的数値が欲しいので。いえ、他意はないのです。オーダーメイドのドレスをお贈りする際に使用するのです、本当に。クククク…」
慧 「こ~う~ぎょ~うぅぅぅぅぅ! 貴方の禄(給料)、マイナスにしてもよろしいのですよ!?」
坦 「…結構使えねぇな、お前の臣下…」
煌 「うわぁぁぁ! 夢ーさんの前でそんなっ破廉恥な会話っっ! いやぁぁぁ! 夢ーさんっ! 耳ふさいでっ!」
慧 「うえぇ……もうっ! ハイ! イイコちゃんですね、えーっと…トラ! ほら落ち着いて、トラ! もう分かりました、もういいのです! 『も』、『う』、『い』、『い』、のです!
……あーもぉ……やっと……
それで! ちょっと! 仰暁っ! おやめなさいッ! 何、王の婚約者をなめるように見てるんですかっ! 未来の皇后に対してしっつれいな…! 貴方といえど大砲持って来てふっ飛ばしますよっ!?」
能 「え……」
私 「違います。能さん。王…あ、『慧様』は何回もプロポーズしてますが姫様が『ハイ』と言ったことはないんです。姫様は游さんのです。安心してください」
慧 「紫瑛! 何を言っているのですか! 見ていなさい!
……
………
…………夢ーさん?
あのね、私、今日は東境で流行っている色のマニキュアを買って来たんですよね。欲しい? ですか?」
夢 「キュッキュッ!」
慧 「…いいでしょう。では私と結婚してください、答え方は『今すぐする』か『後でする』かです。大丈夫です、いつでも式が行えるように準備は整えさせておりますので」
夢 「……」
坦 「な? 分かったか? コイツ色々すげーだろ、だから嫌なんだよ…」
能 「何となく、危険なのは分かりました」
煌 「ハァァ…俺は毎回怖いんだよ…いつかうなずいちゃうんじゃないかと…」
慧 「さ。どちらですか?」
夢 「………」
慧 「…もぅ…そんな、困った顔で上目使いされたら…じゃ、じょーずにオネダリ出来たら、次帰って来る時まで答えるのを引き延ばしますし、これも差し上げます。やり方は、前来た時教えたでしょう? ちょっと私の胸に飛び込んで来てくださればよろしいのです、私を游さんだと思って。頬を胸に着けてすってくださるとなおよろしいです」
夢 「…………」
慧 「……」
夢 「……………」
慧 「……あぁ……この表情と動きを残せる機材を開発したい……!
もぉっ、仕方ないですねぇ~?
じゃ、更新ですね。次回までお答えを保留します。もぅ…おねだりが上手なんですからぁ…ハイ、どうぞ」
夢 「キュッ!」
煌 「うぅぅ……」
坦 「がぁぁ……」
能 「半分調教化してますね…しかし、これは…繰り返すうちに游さんと同じように対応することに慣れて来て、且つ、長期的に行えば游さんとの感情も混同してくるでしょうし…危険ですね、確かに。人間心理をよくついた方法です…」
仰暁 「クスクス…若は人間を調教するのがとてもお得意ですから。何しろ、東境国ではミスをした宮中の臣下は全て若がムチ打って『お教え』になるんです。とてもステキですよ、ククク…
そこの紫瑛も若が『ご教授』くださってますから。とても良く。文字通り、身に染みる程。
機会があれば背中をご覧ください、未だに見事に美しい模様が刻まれていますよ。あれはきっと一生消えない…クァッハッハ!」
私 「……」
仰暁 「おっと、お前はもう、王宮の『1年草』、ただ墨を磨るためだけに存在する『飾り花』じゃありませんものねぇ。『墨童(墨を磨るためだけに存在する男児。13歳の間しか働けない)』から『太保(王の話し相手。相談役)』まで登りつめましたもんねぇ…立派なもんです、クックック…
名前も変えたんでしたっけ? 折角『紫の英(英:房のようになって咲く花。藤など)』なんていう美しい文字でしたのに。『紫の瑛(瑛:花の様に美しい宝玉。透明で光輝いている物。水晶など)』にするなんて。王宮の『生け花』になって一応の役職を得て冠を被る権利を得たから(周から漢の時代に編纂された『礼記』には「男子は20歳で冠と字を持ち、女子は15歳でカンザシと字を持つ」という内容が示されているが、桃源郷では、厳密に年齢で字を持つ地域もある中、ほとんどは冠やカンザシを着けた時から字を持っている。冠やカンザシは役職に就いた者が着ける物であるため、その役職に就いた人物を簡単に名前で呼ぶことは失礼に値するという理由もあげられる。『礼記』が作られる周代以前から存在する国があり、『礼記』の影響を受けなかった所、それが浸透していったとも考えられる)、わざわざ王から『紫花』という字はどうか、とおっしゃられ、そのまま賜ったのに。『英』だったから『花』という関連付けた文字を頂けましたのに。残念です。『瑛』ではもう呼ぶ価値がないではありませんか…ククク…
後輩として、可愛がってやっていたのに…残念ですよ、『紫瑛』、残念です、フフフ」
坦 「…あんまり言ってやるなよ。あんたたちの国の習慣に口をはさむ気はないけどな、ここは西境国だ。この国のルールじゃあ、人の過去にあんまり入って来ちゃいけないんだ。『今』を見てやれよ」
仰暁 「ほほぉ。なるほど。傷の舐め合いですか。いつでしたか、昔、我が国の人質でしたもんね、坦様は」
坦 「…ぐ……」
仰暁 「貴方の見せしめの時も見ておりました。これも仕事の一環ですのでね。案外、にらんでくる瞳は綺麗でしたね。しかしうちの若を越える程ではありませんでした。若がオシオキする際の冷たい目…人形のようなご尊顔といったら…フフフフフ…」
慧 「アイ…」
仰暁 「…?」
慧 「ヤ―!」ドガッ!
仰暁 「ッうぁ!」
慧 「あんまり失礼なことを言うもんじゃありません! 私のことを褒めるのは良いにしても、他を必要以上に蔑むのは良くありません! 一応顔見知りですし…夢ーさんに私がそういう教育を臣下にしていると思われてしまうじゃありませんか! 貴方の禄を更に5%ダウンですっ!」
仰暁 「温情、感謝いたしますぅぅ…うぅぅ…自己防衛術のために功夫を教えたはずが…お強くなられて」
慧 「何言ってるんですか! こんな華奢なのが強いハズないでしょう! 貴方がそっちに気をとられていたから上手く蹴りが入ったんですよ! 貴方はこの国に来ると途端に気が緩みますね!
それで、ですよ。
見ましたか?
夢ーさんは今の状況を保留しています。少なくとも、断られたという事実はありません」
坦 「ものは言いようだな…」
慧 「それで? そこの方? これでお分かりになられましたか? 夢ーさんは私の婚約者です。細かく言うならば婚約保留者ですけれど…
見た所平民ですが。一体どなたです」
私 「王…あ、慧様。あの。紹介をさせてください、この人は最近丞相になられた『白 能』さんです。北境国から亡命なさって来られたんです。亡命されてますが、煌さんからお許しはもらってます」
能 「『白 能』、字を『士伯』と申します。東境の王にこうして目線を合わせて謁見できるとは、恐悦至極にございます。つい最近まで平民でございましたゆえ、至らぬ点も多々出て来ると考えます。その際は是非ご叱咤を賜りたく存じます」
慧 「フン。あの硝北村の出とか言ってましたね。いまいましい。
早速ですが。揖礼(挨拶の一種)は拱手(片手を片手で包む動作)が必要ですよ。特に格上の相手がいる場であれば」
能 「……私の腕を、どうぞ御触りください、ご理解いただけます」
慧 「……!…………」
仰暁 「……!…」
慧 「……あの、爆発でですか? 私の兵器、紅爪を焼いた…」
能 「いいえ」
慧 「…煌さん。あの村の人人は、どうなったのです? 少し、気になります…貴方、とんでもないことを、本当に。貴方、今はこんなに…」
煌 「あそこはああいう時のための村なんだ。村人にも覚悟はさせてある。
もうあの技は通用しないと思うからバラすが、あの村は東境国に近い土地で、東境が攻め入って来るだろうことはずっと以前から予想していた。
そこであの村の家の柱は全て中心をくり抜いた資材を使い、その空洞に黒色火薬を詰めていた。もちろん、いざという時に使用できるよう、最適な状態に維持できる工夫がしてある。珍しい木材も使用したしな。居住者は全て薬品に詳しく、毎日の細かい管理も可能な人材だ。ヘマはしない。厳選された、最優秀の学者ども、技術者どもだ。俗人の間ではどうか分からんが、今じゃ、知識人の間ではあそこに住まわされていたというだけで弟子希望者が1日200人は詰め掛けるそうだ。
安全の面も問題はなかった。東境の者どもが攻め入った際には即安全に逃げる道も準備した。一部、火薬の入っていない住居もあったが、それは優秀な兵と将を毎年入れ替わりで派遣して、東境が来た瞬間に効率良く、避難と戦の準備が出来るようにした。全ては村造りの段階から始まっていた策術だ。
東境の軍が大体村に入ったところで安全な遠隔地域から導火線を用いて中央の住居へ点火させ、誘爆させて全村内を吹き飛ばした。村1つ全てが火薬なんだ。そりゃあ、壊滅もするだろうな。
『硝北』村だ。火薬の材料の1つ、『硝石』がもともと良く取れた村だった。だから『硝』の字が付いている」
慧 「…村の名前にまで気を回しませんでした…私のミスですね…次から気を付けます」
煌 「『次』があるかないか、それは分からないから。それも気を付けておくんだな。俺も、そう、イイハナシを君の前でバラすことができない立場だからな」
慧 「フン……分かってますとも……
しかし、なるほど…その機転と奇策、本当に見事です。
けれど…貴方などは住んでいた村や家を失うことになりましたが…それでも、よろしかったのですか…?」
能 「我々北境の民は王を神とあがめております。王の決めたことは全て正しく、美しく、慈悲深く、絶対なのです」
慧 「……うらやましい限りです…」
煌 「…でも今は、たぶん友人の関係だよ、俺の国民じゃない。この間飲み会したし。次の日仕事があるからって能は1口しか飲まなかったけど。
いいツッコミ係だよ、空気読めるし。坦の暴走と游の天然を止められるのは彼くらいだよ。イイヤツだ」
能 「なんかイヤだな、ツッコミ係というのは…」
煌 「えぇー…褒めたつもりなのに…
でも慧。お前も、やっぱり本質は游と変わらないな。敵の村の人間を心配したりするなんて。お前も、イイヤツだ」
慧 「フン。別に。
私は趣味の1つに火薬の調合がありますから。あれだけの爆発で村人の死骸が見当たらなかったことに不思議を感じたまでです」
能 「火薬の調合がお好きなのですか?」
慧 「……趣味の1つにすぎません…」
仰暁 「そうです、そうです。 若の趣味は本当に高貴で高度で素晴らしいものばかりです。フフフ。
火薬調合と言いましたが、花火や爆竹を作るのがお好きで。東境の節(祭)では若が希少な火薬を使って花火を作るのが恒例なのです。
それから、兵器開発も。この間の紅爪などは若が設計し開発しました。巨大なチェーンソウと火炎放射器のセットの戦車だったのですがね…火炎放射器の方は使わないまま壊滅してしまいましたが…クク…
あ。申し訳ありません。いえ。別に。ミスを嘲っているわけではありません、はい。フッフ…
その他、珍しいご趣味としては射撃に、ダーツですか?
あぁ。そうそう。自動車を組むのもお好きですよね、これは小さい頃からのご趣味で。本日のお車も若がエンジンから作りましたよね。お見事でございます。
あとは…お人形趣味ですか、フフフ…あれは…
うぐぅッ!」
慧 「……ナゼ、お前は、この国では、そう、気の緩んだオトコに、なるんです…!
今度言ったら本気で極刑に処します…」
仰暁 「ここには同じ『王』というご身分の方方が沢山いらして、常からある若の警戒心も緩むでしょう? プハッ…
だから同じ趣味の人物を探せばもっと警戒心がなくなると思いまして。それでご友人が増えれば、と…そろそろ私も若のご要望通りの人形のお召し物をご用意するのが難しくなってきてますから。ご友人がいらっしゃればその方と選ばれてもよろしいでしょう。
いやぁ、あの人形のお顔だとついつい自分の趣味が入ってしまうもんで。ご趣味の合う方に同時購入して頂く方が助かりま…うぐフゥッ」
慧 「明日処刑します」
仰暁 「え」
慧 「本気です」
夢 「ッみゃぁあ! ッピイィキュイィィクルッ!」
慧 「えっ…お、怒ってます? もしかして、処刑するとか言ったからでしょうか…も、もぉ。嘘ですよぉ。怒らないでー」
夢 「みぃぃ」
仰暁 「フゥ…」
坦 「今、すげぇおもしろい言葉が聞こえた。プププ。何? お前、いい年してお人形さんが好きなのー? くぇふぇふぇ!」
煌 「カワイイもの好き? 俺、押し花のシオリ作るの趣味なんだけどー」
慧 「………」
能 「…いや…何か…言いたくなさそうですから…もっと奥が深い物ではないですか? …紫瑛と姫は、聞かない方が…」
仰暁 「紫瑛に関しては杞憂(杞憂:度を超えた心配)です。東境の王宮で、しかも王の側でお仕えしていた者なら誰でも知っていますよ。もちろん、紫瑛も知っていますよ。クスクスクス…」
私 「はい、知ってます。でも、そんな隠すようなことじゃないと思いますけど。沢山飾ってるだけでしょう? 綺麗でした。とっても。僕は昔、1つ欲しいなって思ってました。こんな人に会ってみたい、話してみたいと思っていました。
今は本物がいますからもういらないですけど」
坦 「『本物がいる』…?」
煌 「『本物』…? 『いる』…? 何だろう…」
能 「…ちょっと想像出来ました。
ハァ…
確かに今までの東境王の話を聞いていると、東境の王の仕事は大変で、思いが募ることもあるでしょうから…」
慧 「察して頂き嬉しいです…
あ。私のことは、『慧』と呼び捨てでよろしいです、游さんと同じで。本当は王宮内では王として接して頂きたかったのですが、坦さんが先程その規律を乱してしまいましたので、もう、王宮内も外も、一般人と同じように扱ってください。ハァ…
王だということは隠してこちらに来ておりますので、どうか、その点、よろしくお願いします。
…一応金持ちの道楽息子ということで過ごしてます。部下がいたり、その部下が時折書類を持って来ても金持ちにはそれなりに何かあるんだと、周りが勝手に推察してくださるもんで楽なのです…」
煌 「あ~…そっか…
……俺は生身の人間で穴埋めしてるなぁ…作る技術なんてないし…」
慧 「まさかの下半身脳ナンバー2の貴方にご理解頂けるとは。…まぁあちらの男性はオバカさんなのでナンバー1は揺るがない上、分かりもしないでしょうが。
…どうか、分かってない面面にはご内密に…特に、夢ーさんにはバレないように。…不本意ですが、『お願い』します」
煌 「あ~黙っとくよ。お互い大変だということで」
坦 「何だよ、俺だけ放っとかれるのかよ!」
煌 「…そのうち分かるよ、君だったら…」
慧 「毎日遭遇出来る人には分かりません」
坦 「遭遇…? だめだ、分からねぇ…」
仰暁 「ハイ、できました。綺麗に塗れたでしょう? 少し乾かしておくのですよ? ククク…スベスベですね、手…大理石のようではないですか…フフフ…いつまでも触っていたいですね…飾っておきたいくらいです…
ねぇ、夢ーさんん、今度こちらの国にもお忍びでいらしてくださいよぉ、私、お休み頂きますんでぇ、その日ぃ? 1日でも2日でもぉ? クスクス…大人の遊び方をお教えしますよぉ? …フッフッフ…」
慧 「アイヤー!」ドガッ
仰暁 「ゴファッ!? ありがとうございます! うぅ…」
慧 「貴方、あまりに酷いと今度から連れて来ませんからね!」
仰暁 「いやぁ…私も久々に夢ーさんの顔を見たもんで、つい…」
慧 「何が『つい』ですか! 妻帯者のクセに!」
能 「えっ!?」
慧 「…紹介が遅れました。これは私の臣下の『段 仰暁』です。えぇ、妻帯しております」
仰暁 「見せかけですけどね。その方が動きやすいときがあるもので。相手も若の有能な臣下でしてね。理解した上での、計略上での婚姻です。お互いに恋愛感情はありません。もちろん、仕事と都合以上の相手が見つかれば別れる契約をしております。なので…夢ーさん、私はフリーですよ、いつでもオシノビください、昼でも夜でも。ククク…
クク…あっ…若…構えるのはおやめください、私そろそろ背中割れますんで」
能 「…動き易い、というのは」
仰暁 「ハッハ! なるほど! では若の正体を知っておられますしね。私のことも知っておいてください。
私は提督東廠をしております。
東廠は…北境にはございませんでしたかな。
宦官はご存知でしょう、いわゆる、刀子匠(去勢専門医)から完全去勢施術(陽根と陰嚢を切除して男性として生殖行為を行えないようにする手術)を受けた吏官です。自宮者(自ら宦官になることを望んだ者)だとか受刑者だとか奴隷だとか神官だとか。理由は色々ございますけれども。それらの者をまとめ統括する特務機関でしてね。王宮の内情から外の大根1本の値段まで逐一探らせて報告させる、いわゆる情報機関です。最近は秘密裏に制裁や処罰、時には殺人も行う秘密警察や陰の処刑人みたいな役割も兼ねておりますが(桃源郷でのみ行われている役割で、現実世界とは異なっている)。
似た機関に西廠という部門もあるんですがね、あれは東廠内のスパイを探らせるための内部機関で(これも桃源郷でのみの設定)私がそこの提督も兼任しておりますから。現実には、私が全ての宦官のトップです。そして、王宮内、全ての宦官は王宮の管理や王の身の回りのお世話をしておりますので。女官もおりますが、今の所、意見が釣り合った場合、宦官の意見が優先されます。
ということで、私が王宮の家令(執事)長で、王宮内に仕える全ての女官、宮女、宦官、使用人、そして錦衣衛(皇帝(桃源郷では皇帝に当てはまることは王にも当てはまる)を守る禁衛軍と呼ばれる近衛軍の一種。秘密警察。軍事組織。仰暁のいう『時には殺人も行う組織』はこれに当たる)のトップとなります。王への進言も出来ます。政に関して文官がどう進めようしても、戦に関して武官がどう言って来ても、最終的決断者である王の意見が私の意見に左右されることがあるのです。ある意味、行政部の文官や軍部の武官よりも偉い、吏官の最上位なのです。クックック…」
慧 「左右されたことは1度たりともありませんがね。私は私の判断で動いていますから。体も心も弱かった私の父とは違いますので」
仰暁 「……フフフ…」
能 「そうでしたか…しかし、提督でありながら擬似とはいえ対食(宦官と女性との婚姻のこと。宦官の相手は大体が女官だった。向き合って食事を取ったことから『対食』と言われる。漢代以降では『対食』だが、明代以降は『菜戸』と呼ばれた。宦官との婚姻は当初秘密裏に行われていたが、時代が進むにつれ、公然と行われるようになる)を決意なさるとは、大胆なお方だ。当時は大事でしたでしょう」
慧 「あ。そのような心配はいりませんよ。東境国では菜戸は公然と行われてます。それに仰暁は嫪毐ですんで辛いこともありません。蹴ればこたえる体ですから。夢ーさん、気を付けてください」
仰暁 「心外ですなぁ」
能 「『ロウアイ』。無学で申し訳ありません…私の頭には古い書物で読んだ宦官の名前だとしか、存じ上げておりません」
慧 「あぁ…そうですよね、そちらの国では宦官といえば完全な宦官ばかりでしょう。
…実は私の国では施術を受けていない宦官もいるのです。『宦官』とは言えないのかもしれませんが、そこは宦官より縛りの強い契約や策略的理由…その他、ちょっとここでは申し上げにくいこともありますが、まぁ、ある一定以上の理由や条件が整い、忠誠を誓っていれば施術を受けていなくても宦官の職に就けるようにしております(桃源郷のみの設定)。ごく少数ですがね。
古代、『嫪毐』という名の偽の宦官がいたことから(秦代の実在人物。始皇帝の父の後押しをしていた太后と関係を持ち、権力を得た)、私の国では未施術の宦官を『ロウアイ』と呼ぶのです(これも桃源郷のみの文化)」
能 「え…では、貴方は、その…」
仰暁 「えぇ。根本に馬車の車輪を差し入れて回せた嫪毐ほどではございませんが、ちゃんと付いております。それ故、王への忠誠を疑われることを避けるために菜戸をいたしました。女官どもがこうるさいのですよ、色々と。…まぁ、私の菜戸相手は内司(女官長。王宮に仕えている女性の中では最高位)ですので。もしこれ以上女どもがうるさく言うことがあっても黙らせるよう彼女に申しつけますけどね。クックック…
あぁ。それに。下な話になりますが、自信もあります。色々とね、諜報活動のために活躍しておりますよ。嫪毐までの芸はできませんがね、似たようなことは…クックッ。夢ーさん。『やって』ってカワイイ顔して言ってくれたらいつでもお見せします。ご、し、ん、じょ、で。
あっ…本気で…若。本気で。おやめください。ノドボトケ狙うのは。…す、…す、すいません。すいません。
…チッ…
…この中で出来そうなのは煌様と…坦様くらいでしょうかね、下半身には自信がおありらしいですので…」
煌 「きゃぁぁぁぁ! ななな何言ってんの! この人っ!? 夢ーさんいるのに!」
坦 「急に話振ったと思ったらコレかよ!」
仰暁 「今度勝負しましょう。飲み会するんでしょ。混ざりますんで。その際にでも…フフフフフフ…クックッ…」
坦 「…呼びたくねぇ~…」
さて。
こんなところかね。
あぁ。会話を思い出して伝えるだけでも疲れるもんだね。
うん。
それで。
次の話の展開へ向かおうか。




