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 あぁ。それで。


 (けい)は右手で姫を手招いた。それを見て楽し気にニヤニヤする仰暁(こうぎょう)。私はどうすれば良いのか、ただただオロオロするしかなかった。


 と。そこで。


「ピィィ!」


 姫は慧に向かって頬を膨らませ、自身の腰に両手を乗せて、まるで母親が子どもを叱るように甲高い声をお上げになった。


 その声と態度に、慧は少し頬を染めて困ったような、そして悲しそうな表情をした。


「そんな…ほっぺたプクプクされても…


 誰なんですか。酷いじゃありませんか。私だってそんな、服着せてもらったことないですのに」


 その表情を見て、姫は両手をご自身の口元にお当てになられて、どう答えて良いのか困ってらっしゃるご様子だった。


 発言許可は得ていないものの、私はこれがチャンスだと思って、思い切って慧へ能のことを話そうとした。ドキドキした。能を助けられると思って、嬉しかった。


 しかし、それをさえぎって…低いが優しげな声が後ろから聞こえてきた。


「慧!


 さっきも言い掛けたんだけどな、西境国(さいきょうこく)も君が来ないうちに色々変わって。


 この男は、俺んトコの国からここへ亡命した『硝北(しょうほく)村』の元薬師(やくし)だよ。今、この国で丞相(じょうしょう)やってるんだ。夢ーちゃんが服着せたのはたまたまだよ。


 そうそう、もう、紫瑛(しえい)くんにも俺が北境(ほっきょう)の王だってこと、話してあるから。


 君も俺のこと、もう、紫瑛くんの前で隠そうとしなくていいよ。


 今まで協力してくれて、ありがとう!」


 (こう)がにこやかに語り掛けると、慧はスッと銃を下ろし、無表情になった。


「別に協力していたわけではありません。こちらもこの国の国民には隠しておいて欲しかったのでね、利害の一致、ということです。


 しかし…『硝北村』…! あの、私の紅爪(こうそう)を焼いた、あの、下品極まりない村ですか。そこの生き残り、と…


 …ンン…? フフン…


 貴方、それで負い目を感じて、亡命を見逃したんですね?


 自国で激情家で残虐な王を演じているのに、そのようなことをしたらブレますよ?


 王たる貴方がブレれば国は傾きます。


 …私はおおいに結構ですがね」


 慧が銃を下ろしたのを見ると、姫は慧の元へ駆け寄った。慧は嬉しそうに目を細めて微笑んで、姫の頭に右手を置いた。


「ウワキはダメですよー?」


 その姿を見て、もう、1名。


「慧…


 あのなァ、俺、ネコを飼い出して…フッフッフ…


 なー、触らせてやろうかー? クックック…」


 それまで沈黙を貫いていた(たん)が表情を暗くしつつ慧へ黒い笑いと共に声を掛けた。煌はハッとした表情をしていたよ。


「猫ですか…それが何か?


 生き物は嫌いです。人間と違って考えて行動しませんから。何するか分かったもんじゃありません。汚い感じがしますし。


 あぁ、貴方はもっと嫌いですが」


 無表情でたんたんと話す慧に向けて、更に表情を暗くし、意地の悪い笑顔まで加えた坦は滑らかな声で言い放った。


「クックック…


 それを聞いて良かった…


 夢ーちゃん、ちょっと慧が銃撃たないように左手押さえといて!


 これを見ろっ!


 そしておののくが良いわっ!


 よくも今まで『18番目』だなんて馬鹿にしゃーがったなぁっ!


 今度から『坦様』と呼ばせてやるぅっ!


 ライラ行けっ!


 あの眼鏡ペロペロしてモフモフして来いっ!」


 そう言うと、坦は壁で伏しているライラの横へ立つと、慧の方へ指を差した。



 …それまで慧も仰暁も気が付かなかったみたいだね。


 後から聞いたところ、彼らはこんな大きくて綺麗な白虎がいるわけがない、と、置物か何かだと思っていたようだね。ライラもそれまで動かなかったしねぇ?


 ライラは坦がよく世話していたから。いつも綺麗で清潔な真っ白い体をしていてね。遠目には彫刻に見えるくらいだったし。



 のっそり起き上がったライラに、東境(とうきょう)の2人は慌てて距離を取ったよ。仰暁は流石と言おうか、慧を庇うように前に立ったけれども…


 それからはまた大騒ぎで。


 省略するけど、ライラが慧の眼鏡をくわえて庭を一周するし、慧が眼鏡がなくて困っているうちに仰暁が姫の手の甲に慧がやれたんだから自分もとキスをしたり、それを見た煌がとうとう刀を抜いて構えてしまったり…


 …でも、その大騒ぎがキッカケで、一応の(のう)と慧、仰暁の簡単な自己紹介は終わったよ…



 うん?


 知りたいかい?


 じゃあ、ちょっとだけそこらへんの会話を思い出してみようかな…


 会話だけね。


 ここらへんで長い時間を取ってしまって発つ時間になってしまったら、中途半端に聞いてしまう君らにも申し訳ないしね。



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