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「…………は………あ。いや、あの! べ、別にっ! …えぇ…あの………」


「ほぇ。どしたの。あ。もしかしてパンツ見えた? 加減して回したつもりなんだけど…」


「ちっ、違っ! 私はただキレ…ぐッっ! 王族に何の畏れも抱かず触れるお前に呆れただけだ!」


「ありー。そんなもんかなー…みんなやってるけど…」


「あ、案内を! 案内を頼む、王宮へ!」


「あー、そうだった。俺、案内しなきゃね! え~と、どうする? 一緒に帰る?」


 そう言って游さんは姫の方へ視線を落とした。


 私はまたも慌てた。


「帰りくらい姫には護衛を用意してもらった方がいいですよっ! ホントは行きもですけどっ!


 姫様! また黙って抜け出してぇっ! せめて僕を連れてってくださいよ!


 游さん! それにですよっ! お客人もおられるんですよっ!? いくら游さんでも、姫とお客人、合わせて3人も守るの、無理でしょっ!


 頼んで頼んでっ!」


「う、ぅ~ん…そぉ?」


 ポリポリと頭をかく游さんをそのままに、私は(ほう)くんへ声をかけた。


「縫くん、姫様を送って行ってくれる? お父さんとか、(いち)の大人の人と。1人で帰ってもらうには怖いんだ」


「うん、いいよ! 2~3人集めてくるよ。あ。でも、ちょっと待ってね。すぐそこだから、先に荷降ろしを済ませちゃうよ。姫さん送ってくのはそれからでいい?」


「いいよー! ありがとー!」



「あ。おやっさんの店でしょ? すぐそこじゃない。運んであげるよ」


 ガゴッ…


 そう言うが早いか、游さんはやっと直った荷車に犬と商品を乗せ、そのまま、両手で肩の高さまでゆっくり持ち上げ、幾らか歩き、先程と同じ速さでゆっくりと丁寧に、店の真ん前に下ろした。


 ガダン…


「はい」


「ありがとう、游さんっ! じゃ、僕、父ちゃん達呼んで来るから! 姫さん、それまで見ててー!」


 タッタッタッ…


 それを見ていた『彼』や付き添いの女性は、やはり驚いた。


「お前…ガタイには筋肉がそれ程付いていない様に見えるが…? よくあんな重い物を……」


「あ。俺、何でかこーゆーのだけは得意なんだー」


「………」


「俺、(ゆう)』。『(あそ)ぶ』って書く」


「…。私は『(はく) (のう)』。(あざな)は『士伯(しはく)』。隣にいるのは私の実母だ」


「『(のう)ちゃん』ね!」


「…あ?」


「いいじゃん。字、最近使ってないトコ多いよ? 東境国(とうきょうこく)の人がね、やっぱりよくこっちの国に遊びに来るんだけど、使ってないんだー。でさー、あそこは最先端の国じゃん? で、俺らものっかろーと思って。今の流行だよー?」


「そ、そうか…」



 そうか、説明しないといけないね。


 昔はどの国でも、人は本名であまり呼び合わず、(あざな)で呼び合ったものなのだよ。名前には力があって相手を操ることが出来るからだとか、位が高いとか年上だとか神聖だとか、尊い人の名前を俗の者が呼ぶのは失礼に値するからだ、とかね。


 今はもう、そのような風習も薄れてきたがね。



「じゃ、小夢(しょうむ)を見送ったら行こうか」


「は? 『ショウム』?」


「このコだよー」


 游さんはすぐ後ろにいる姫の肩に触れて前へ押した。


 姫は游さんの背中から彼の腰を抱きしめられた。そして、上目遣いをしながら恥ずかしそうに微笑んで、(ほお)を1度游さんの体にすってからまたニコリと微笑まれた。


「あーぁ…甘えん坊だね。[[rb:紫 > し]]ーちゃんに笑われるよー」


 そうすると、少し残念そうに姫は体をお離しになった。


「このコは『()』だよー。俺は小夢(しょうむ)って呼んでるけどね」


「お、お前! 自国の姫を、字にせよ、呼び捨てにしているのか! 失礼だぞ! せめて『様』を付けろ!」


「えー。みんなも『()ーさん』だの『()ーちゃん』だの呼んでるよ?」


「………何という国民性だ…」


「ホラ、(のう)ちゃんも読んでみなよ!」


「………ふぐっ……!」


「俺は(ゆう)さん』ね。ホラ、『游さーん』て。『夢ーちゃーん』て。ハイッ!」


「……ぅ……『ユウサン』…」


「そぉ! で?」


「………………ッ………」


「…………?」


「………許してください…………」


「何ソレ」


「…………」


「……え…ちょ…大丈夫…? ……泣いてる?」


「…………」


「……うーん、ゴメン。何か、急かしすぎたね。まぁ、そのうち、慣れたら呼んでよ。そうそう、あのコも紹介しないとね! おいで!」


 游さんは顔を背けている能の肩を優しく叩くと、私を呼んだ。


 私にとって、游さんは大切な人だ。命よりも。国よりも。…生まれてすぐ親に死なれた私にとって、親でもあり、兄でもあった。彼になら何を頼まれても私は喜んでその通りに動く。昔も、今も。


 呼ばれた私は幸せな気持ちで走り寄った。…ハハ。周りから見ればまるで子犬のようだったろう。


「ハイッ!」


「自己紹介してー」


「ハイッ! 僕は『(きょう) 紫瑛(しえい)』ですッ! (あざな)は…一応、『紫花(しか)』っていうのがあるんですけど、僕、『紫瑛(しえい)』の方が好きだから、是非そっちで読んでください!」


 しかしそこで能は私の隠された秘密に感づいたようだった。(あざな)だけで情報を読み取れるとは…やはり彼はあの天職に就く前から計り知れない程の『読み取り』『思考し』『最適の結論を導く』という才能を有していたといえる。




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