第六話/会話
前回のあらすじ
雷人間(仮称)は連れてきた主人公に隠していた薄い本を発見されてしまったのであった。
「おわぁああああああああああ!!!???な、なんで!?なんでそれが!!??
それは確かに■の■■の■に隠しておいたはず!!!!
(おわぁああああああああああ!!!???な、なんで!?なんでそれが!!??
それは確かに机の引き出しの裏に隠しておいたはず!!!!)」
雷人間は狼狽えた。凄まじく狼狽えた。その様は思わず身構えてしまうほどである。これはやはり大切なものだったらしい。・・・戦闘になるか?
「はっ!?い、いや、違っ、ご、ゴカイです!ゴカイなんです!」
「・・・・・・ゴカイ?(とは一体何であろうか?知らない言葉だが・・・)」
私は慌てた様子の雷人間が何か変な行動をしても対処できるように警戒しつつ、人間の声帯を作ってそう聞きかえす。
「え、ええ!そうです!そ、それは・・・その、私が■■とか■■とかそういう
わけではなくてですね! えっと・・・そ、そう!!■■!あくまで■■
なんです!!■■はありません!!!
(え、ええ!そうです!そ、それは・・・・・・その、私がロリコンとか
ショタコンとかそういうわけではなくてですね!えっと・・・そ、そう!!
学術的興味!あくまで学術的興味なんです!!他意はありません!!!)」
むぅ、おそらく話の中核になるのであろう部分の単語が分からなくて意味が理解できない。どうしたものか。現状で私の知識不足を悟られるのは痛いのだが。とりあえず無言で話の先を促すようなそぶりをしてみよう。確かそういうのがあったはずだ。この半液状の姿でできるかは分からないが。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」」
お互いに何も言わずに沈黙が続く。もしや失敗したか?怪しまれるのも辛いが、それ以上に攻撃されるとなると、唯一の出入り口を塞がれているのが痛い。
何か、何かこの状況を打開できるものはないだろうか?ああ、そうだ。このホンがある。これはわざわざあんなところに隠してあったのだし、この取り乱しようであるからしておそらくとても重要なものなのであろう。であるならばこれを上手く使えば逃げるなり仕留めるなりできるはずだ。ならば――――
「・・・ごめんなさい。無理がありますよね、はい。ええ、認めますとも。
その■は私が個人的に■■で■■したものです。
(・・・ごめんなさい。無理がありますよね、はい。ええ、認めますとも。
その本は私が個人的に趣味で購入したものです。)」
「・・・・・・・・・・・・。」
やはり何と言っているか分からない。どうやら何か謝っているようだが。・・・現在の私できちんと人間と会話するのはまだ無理があるのだろうか?
「え~と、それでですね。そのとりあえずあちらの部屋に行きませんか?ここで話
をするのもなんですし。・・・・・後、そのホンはそこへ置いてください。」
「・・・分かった。」
今のは内容が聞き取れてよかった。これはホンと言うのか。しかし内容はある程度覚えたとはいえ、ホンをこの場において相手に言われるがままついて行っていいのであろうか?いやだがこの現状だとついて行かざるを得ないか。仕方がない、指示に従おう。
ならばせめて突発的な事態に対応しやすいよう人間形態に変化して体積を増やしておくべきか。姿は・・・とりあえず成体だな。ん~・・・ホンに出てきた成体の雄でいいか。人数もいるようであったしおそらく一般的な姿なのだろう。私がそう思い身体を変化させると―――
「ちょっ!?ちょっとちょっとちょっとぉ!!??何でその恰好なんですか!?
私への■■ですか!?そうですよね!?
(ちょっ!?ちょっとちょっとちょっと!!何でその恰好なんですか!?
私への当てつけですか!?そうですよね!?)」
「・・・・・・この姿は駄目か?」
「お願いですからやめてください!!!」
むぅ、雷人間から猛抗議を受けてしまった。何がいけなかったのだろうか?もしや対象が悪かったのか?あるいは成体の雄は駄目なのだろうか?そう思い、今度は人間の幼体の雌に化けてみる。正直体積という点では猫やカラスよりは増しとは言え、かなり心もとないが・・・・・・しかし今は現状をやり過ごすこと優先で行くべきであろう。
「いやだからなぜにあのホンから選ぶんですか!?しかも■■が
無駄に高いですし!!!
(いやだからなぜにあのホンから選ぶんですか!?しかも再現度が
無駄に高いですし!!!)」
「・・・・・・駄目か?」
そう首を傾げながら訪ねるが、結果は大体分かっている。おそらくあのホンから選んではいけなかったのであろう。ならば――
「あ、いえ・・・・・・駄目か、と言われると、どうでしょう?そ、その姿はありかもしれません?」
うん?あのホンから選んではいけないわけではなかったのか?どういうことであろうか?
「・・・この姿のままでいいのか?」
「は、はい!い、いいんじゃないかと思いますよ!?か、かわいらしいですし!」
雷人間はなぜか顔を赤くしながら私の今の姿を肯定する。正直何が良くて何が駄目だったかはあまり分かっていないのだが、しかし上手くいったのだからとりあえずこの場は気にしないでおこう。
そのまま雷人間に連れられてトビラをくぐる。すると細長い通路に出ることになった。辺りを見渡せば、他にもいくつものトビラが見える。ん~、外に出られるのはどのトビラだろうか?
ガチャ。
雷人間がトビラの一つを開ける。案内されたのは先ほどの場所よりも広めの空間で、中央には巨大な四つ丸とその周囲におかれた小さな――といっても先ほどの
場所の四つ丸と同じ大きさだが――四つ丸がある。
また向かい側が見えるようにくり抜かれた壁がありその向こうにもやや狭い空間があるようだ。そして何より先ほどの場所との違ってここには物が多い。
至るところに細かな――私からすると何に使うのかよく分からないような――物品が置かれているし、そのためにあるのであろう一部がくり抜かれた直方体による収納の数も多い。しかもそれはここだけではなく向かい側の空間も同じようなのだ。こんなに物があっても生活しづらいだけではないかと思うのだが。
ただ共通点もある。部屋の壁側に先ほどの場所にもあったやや光沢のある板がおかれているのだ。ただあの黒い箱はないようである。・・・もしや似ているだけで違う物なのだろうか?あれは箱と紐のような繋がっていて黒い箱と連動していたのだし。
「どうぞイスにお掛けください。話をしましょう。ああ、その前にココアでも
入れましょうか。少しお待ちください。」
雷人間がそう四つ丸を指しながら向かい側の空間へ行こうとする。どうやら四つ丸はイスと言うらしい。・・・それが分かったのはいいのだが、どうやら何か持って来るらしいのだが・・・
「いや、結構だ。それよりも早く話をしよう。」
「そうですか?分かりました。」
私はそれを止める。何を持って来るのか自信を持って断言することはできないが、おそらく食物ではないかと思う。しかし私は――身体は変化させられるとはいえ――未だに幼体であるため、彼らの食物は受け付けない可能性があるのだ。それにこの一対一で相手の縄張りという状況なら何らかの害あるものを持って来ることもありうる。警戒すべきであろう。
「・・・初めまして。私はカニシロと言います。分け合ってあの■■の■■に
襲われていまして。助けていただいてありがとうございました。巻き込んで
しまって申し訳ございません。
(・・・初めまして。私はカニシロと言います。分け合ってあのごろつき崩れの
隠密集団に襲われていまして。助けていただいてありがとうございました。
巻き込んでしまって申し訳ございません。)」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
どうやら名称を答えられたようだ。おそらく状況的には私も名乗り返すのが普通なのであろうが、何と名乗ったものか。残念ながら今の私には名前がない、あるいはあっても分からないのだが――――
「あ、あの・・・・・・?」
「・・・ああ、私はクルミナコだ。初めまして。」
「はい、クルミナコさんですね。よろしくお願いします。」
咄嗟にコナミルクを反対にしただけの名前を名乗ってしまった。むぅ・・・人間と交流する際はこういった聞かれそうなことを先に考えておかないと不味いようである。今後は気を付けよう。
さて、それでこの後だが――正直情報そのものは得たいが、ボロが出る可能性を考えるとあまり話していたくはない。しかし最低限相手の所属とそれから奴らがさらにこちら――私に対して何かしてくるのか程度は聞いておかないと私の能力が知られてしまっている以上、まずいやもしれぬ。・・・それだけでも聞いておこう。
「それで奴らは今後もまた襲ってくるのか?」
「・・・それはおそらく大丈夫だと思います。すでに■■の■■は達成しました
から、今更私たちをどうこうするという可能性は低いでしょう。
(・・・それはおそらく大丈夫だと思います。すでに雇い主の依頼は達成しました
から、今更私たちをどうこうするという可能性は低いでしょう。)」
「・・・ヤトイヌシノイライ?(とは一体何であろうか?)」
「あー・・・私自体は■■なんですが、今回の件は
結構大きなものでしてね。仕事上、詳細は話せないのですが・・・・・・。
(あー・・・私自体はフリーランスなんですが、今回の件は結構
大きなものでしてね。仕事上、詳細は話せないのですが・・・・・・。)」
う・・・肝心なところが何を言っているか分からない!ここは聞き取れた単語を前後の分から考えてぼろがでないように聞き返すしかないということか。私は以前に見た人間の仕草を思い出しながら、首をやや傾けて疑問を発する。
「お前はふりぃらんす(で合っているよな?)なのか?」
「(・・・かわいい。)ええ、私も実はクルミナコさんと同様に異能力がありましてね。まあクルミナコさんのものと比べると随分と見劣りする上に、左程使い道は無いんですが。しかしそれでも異能者であることには変わりがないので稼ごうと思うとこういう職にでも就くしかなかったんです。せめてもっと使える能力なら町の保護を受けられたのですが・・・。」
む。雷人間、もといカニシロにも能力がある・・・というよりどうやら人間の中には何らかの能力を持っている人間がいるらしい。そしてそれをイノウシャと呼び、それらは集団の中で何やら影響もあるようだ。ただふりぃらんすというのは結局よく分からなかったな、どうしたものか。
「それでクルミナコさんは?どこかの組織――例えば町などに所属しているのですか?それともフリーランスなのです?あまり変身能力持ち、それもクルミナコさんのように変身が上手い人がこの辺りにいるとは聞いたことなかったのですが。」
「・・・・・・・・・。」
何と答えようか?とりあえずふりぃらんすとやらと答えるか、何かの組織に属していると答えるか、あるいは私の現状を包み隠さず伝えるべきなのか?いや答えないというのもあるな。
ん~・・・この後どうなるかは分からない以上、答えない方がいいか。戦闘になる可能性もあるうえにカニシロが敵でないと決まったわけでもないしな。
「悪いが現状では答えられない。」
「・・・残念ですが、答えられないのなら仕方ありませんね。」
そう言いながらもカニシロはあまり残念そうではないような、分かっていたかのような表情をし、私のことを見つめてくる。・・・正直に言って不気味だ。やはり気を付けた方がいいかもしれぬ。
「それでこの後はどうするおつもりで?」
「イエ(棲み処のことをそう呼ぶらしい)に帰るつもりだ。色々と疲れたしな。」
「そうですか、まあそうですよね。では■■まで案内しますよ。ただ連絡先
の交換はお願いできますか?この件で何か知らせた方がいいことが起きるかも
しれませんし。
(そうですか、まあそうですよね。では玄関まで案内しますよ。ただ連絡先
の交換はお願いできますか?この件で何か知らせた方がいいことが起きるかも
しれませんし。)」
・・・・・・確かこれはケータイ――という小型の光る物品、すまほとも言うらしい。何に使っているのかはいまいちよく分からない――で何かするときの文句だったか?しまったな、これは持っていないと言っていいのだろうか?町のほとんどの人間は保有しているようだったが・・・・・・。いやしかし持っていないのは事実であるし、仕方がないのか?
「・・・・・・・・・あの?どうかしました?」
「・・・すまない、ケータイを持っていなくてな。連絡先の交換はできない。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そ、そうですか。分かりました。」
何やら訝しんだような、それでいてやや顔を青くしたような表情でカニシロは少し考えこむとゆっくりと口を開き――
「あのクルミナコさ―――――」バタンッ!
カニシロが何かを言おうとしたその瞬間、出口――であると思われる場所――のトビラが切断され、あの人間たちのような黒い服を着て長いハモノを持った人間の雄――体格的にそうであると思われる――が勢いよく飛び出してきた。
・・・・・・どうやら第二戦の開始のようだ。
おそらく大丈夫、襲ってくる可能性は低いとは一体何だったのだろうか?
雷人間の名前判明、そして主人公の名前(仮)も決定しました。