第四話/戦闘
私の挑発を聞き怒ったのか、あるいはもともと探していたゆえに見つかったからただ飛んで来たのかは分からないが、町の多くの場所から大量のカラスがこちらに向かってやってくる。
・・・・・・狙い通りだ。一見敵を増やしただけのようにも思えるが、彼らと私には大きな違いがある。彼ら――カラスたちと人間たちは自身の言語は分かるようであるが、代わりに他の種族の言語は分からないらしいのだ。
その理由についてはまだよく分からないし、もしかすると分かるものもいるのかもしれないが、少なくとも多くはないだろうことが今までの観察により分かっている。そして大多数が分からないのであれば十分な連携は取りにくいだろう。
さらにこれは憶測になるが、どうにも彼ら、というか一般的な生物たちは同種の見分けはそこそこ上手いのだが他種族の見分けはあまり上手くないようなのだ。なので人間・カラスのどちらかに変化することでお互いをお互いの攻撃に対する囮としても使えないかと期待しているのだ。
さて、そうは言ってもさすがにカラスが集まりきるまでは多少の時間が必要である。ゆえにそれまで時間を稼がねばならな――おっと、まあ当然と言えば当然だが人間たちが上空の私に攻撃をしてくる。ハモノであってもここまで飛ばしてくるのは素直にすごいと思えるが―――しかしだからと言って当たってやる義理などない。
それにしても時間を稼げばいいだけであるから楽である。なぜなら今の私はカラスの姿。猫と同様に被弾面積が少ないのもそうであるが、なにより空を飛ぶことができるのだ。であるならば相手の攻撃の回避のみに専念すれば余裕である。いや、むしろここは別の行動も行っておくべきか?
ふむ、そうだな。今は共通の敵がいることであるし、追いかけてくる人間たちを殺すのにはあの雷の力があった方がいいだろう。ゆえにここはあの雷人間の手助けを行おう。私にまともに攻撃が届かないと見るや人間たちは雷人間の方へ向かったようであるし。
とはいえカラスのこともあるし、あまり上空から離れたくはないのだが・・・・・・ふむ、何かものでも落としてみようか?うむ、それがいいな。そうしよう。
私は周囲から細かなものが置いてある区画へと降下し、その中からなるべく鋭利なものを探す。とりあえずこの「+」という形に先端がなっている棒でいいか。それからついでにそのあたりにコナミルクと交換用のアイテム――コナミルクを交換するときに使ったものである――をを隠す。あまり量が多いと機動性が下がりすぎてしまうからな。戦闘中は体内にポケットを作りそこに収納していたのだが。
よし、これで大丈夫であろう。それじゃあこの棒を・・・おお、複数本あるな。中には先が「-」になっているのもあるが、まあ別に問題はない。ではこれらを機動性があまり下がらなさそうな範囲で持てるだけ持っていこうか。
私は身体を変形させて数本のそれらを体に巻き付けると再度飛行し――――むぅ。バランスがとりづらいな。少し持ちすぎたか?そんなことを思いながら身体を他のカラスたち同様に黒くしたうえで人間たちの頭上へと移動する。
雷人間がおそらくあの雷を出すのに適しているのであろう体勢で人間たちを睨み、人間たちはハモノを構えながらじりじりとゆっくり動いている。どうやらちょうど場が硬直しているようだ。ならばこれが役に立つであろう。私は人間たちの真上から持ってきた鋭利なものを先端が下になるように落下させた。
「ぎゃぁ!な、なんだ!?」
「ちぃ、あいつがこっちにやってきたのか!?」
「うぐ・・・・・・・」
・・・・・・さすがに貫通するまでの威力は出ないか。だがしかしこれで―――
「―――――!!」
―――雷人間が動く隙が出来る。そして雷人間が動くということは・・・・・・先のように雷が人間たちを打ち据えるということである。その際に人間たちの動きが鈍ることは分かっているので、急降下して首にハモノに変化させた腕で斬りつける。
勢いよく宙に血しぶきが舞う。・・・どうやら上手く斬れたようだ。倒れ行く人間を見ながら急いで次の標的へと狙いを定める。さすがに2体で終わりであろうが、それでも1体分の差は大きいのだ。
私は膝の先端を長く、鋭利に変化させ勢いをつけて――――眼球から相手の頭を貫いた。(正確には骨は貫通できなかったのでその前までだが。)
「があああああああああ!!!!!!!」
瞬間、辺りに獣の雄たけびのような声が響く。む?この方法では即死しないのか?ああいや、今倒れたな。よしよし、この方法でも殺害できると。なんだ意外と色々殺す方法はあるではないか。これなら何とかやっていけそうだ。
おや?先ほどよりも雷人間の顔が青くなっている。やはり疲労が溜まっているのであろう。かくいう私も睡魔に襲われつつある。これはいよいよ早めに決着をつけなければ。
「くっ!遅かったか!」
「いやこれからでも!!」
「まずはあの■■を狙え!(まずはあの変身能力者を狙え!)」
するとようやく私の方についていた人間たちがやってき―――うん?一人ほど数が減っている?何かあったのか?あるいはどこかに隠れている?いやもしや逃げられたのか?それだと厄介だが・・・・・・
―――――――――――――――ヒュン!
むぅ、私は狙われやすいのだろうか?雷人間に対しては牽制で動きを止める程度であるのに対して私には明らかに本命とみられる本数のハモノが飛んでくる。さすがに至近距離ともなると、今の私の状態では少し難しいが――よし、何とか避けられた。すかさず二の矢を放とうとしてくるが―――――
――――――――――時間だ。
私に挑発され集まった町のカラスたちが、一斉に狙いをつけ私を殺すために突貫してくる。その量は今日の午前に出会ったのよりも多い。どうやら相当かき集めてきたようだ。まだ成熟前とみられる個体も存在する。この数ではもし私のみ相対していたのならば敗北は必至であっただろう。
だが現状はそうではない。この場には私の味方(?)である雷人間とそして何より、多くの人間たちがいる。ならばやりようはあるというものだ。
カラスに襲われた私は人間たちに隠れるように飛行し攻撃を躱す。そうすると当然カラスたちも私を追いかけてくるために――――
「くそ!なんだ!?こいつら!?どうやって集めやがった!?」
「まさか他にも■■がいるのか!?(まさか他にも異能者がいるのか!?)」
「なんだっていい!迎撃するぞ!」
それを自身たちへの攻撃だと判断した人間たちが炎の球やハモノで迎撃しようとする。そしてそれを先頭にいる私が避ければ―――
「邪魔ヲスルナァ!!!」
「貴様ラモ奴ノ味方カァ!!!」
―――私を追いかけているカラスたちに当たるのである。そしてそれによってカラスたちの目線では人間たちが私の味方となる。そうなると当然カラスたちは人間たちを攻撃し・・・・・・
「くそっ!!こいつ、こんな■■を隠していやがったのか!!(くそっ!!こいつ、こんな奥の手を隠していやがったのか!!)」
「■■!!混ざっちまってどれが■■だか、分からねぇ!?(畜生!!混ざっちまってどれが本体だか、分からねぇ!?)」
「とにかく数を減らすんだ!!」
人間たちもカラスを攻撃する。これで三つ巴のような状態が発生した。ならばあとは奴らが潰し合うのを飛び回って待っていればいい。とはいえ、あの雷人間も巻き込まれてしまうが・・・・・・それでも先ほどよりは楽であろう。
そこは適宜補助していけば―――いや、雷人間も潜在的な敵であると考えるべきか?確かに今は人間たちという共通の敵がいるため味方のような立ち位置になっているが、人間たちを倒したらその後第二戦が始まる可能性がある。雷人間が人間たちと敵対した理由が分からない以上、私とも敵対する可能性は十分あるはずだ。
そしてそうなった時には私の体力はまともに残っていない可能性が高い。すなわち人間たちとカラスたちを倒してもその後には私も倒されてしまうかもしれないということだ。それならばむしろここで雷人間も多くの被害を受けるようにし・・・・・・・て・・・・・・・・
痛っ!?
・・・・・・少しカラスに攻撃されたようだ。鈍い痛みが身体に走っている。だがそのおかげで意識が覚醒したのは助かった。しかし参ったな。どうにも眠気が抑えられなくなってきてしまったらしい。このままやれれば敵は一掃できそうだったというのに。
しかしこのまま眠るわけにはいかない。この状態ではおそらく人間側――雷人間も含む――は私がどれだかわかっていないだろうが、カラス側はきちんと分かっているのだ。よってここで眠ってしまうとカラスたちに襲われて死んでしまう。
ゆえに私が眠りに落ちてしまう前に決着をつけるか、最悪でも攻撃されない位置に行かなければならない。そして雷人間が敵になる可能性も考えるとなると―――――致し方あるまい、何とかして上手いこと隠れるしかないだろう。
では隠れるとしてどのような点に気を付ければいいか?となればやはりカラスの目から逃れることだろう。ただこれは中々に厄介だ。なぜなら今もカラスたちは私のすぐ後を追いかけてきているからである。
人間たちの方は状況を見るに、カラスたちに紛れたおかげで欺いている自信はあるのだが・・・・・・。ふむ、何かに紛れるというのはいいかもしれない。問題は紛れられそうな何かがあるかどうかだが・・・・・・うむ、少しだけ距離があるがあそこにあるあれなんていいのではないか?
よし、そうと決まれば誘導を掛けようか。・・・・・・ここは雷人間を利用してみよう。上手く動いてくれるかは分からないが、動いてくれればスムーズに事が運ぶし、駄目なら単独で行えばいい。それでも何とかなるはずだ。
私はなるべく後ろのカラスたちが直接攻撃しないよう大きく迂回しつつ雷人間に近づく。そして喉を変化させ人間用の声が出せるようにして――面倒なことに種族ごとに出せる声に違いがあるようなのだ。どこかにどんな声でも出せるような種族はいないだろうか?いるのなら普段からその種族の喉にしておくのだが――なるべく雷人間にしか聞こえないような音量で言葉を伝える。
「あちらの方向へ逃げろ。何ならそのまま逃げ切っても構わない。」
「――!っ分かりました!」
そう言うと雷人間は指示した方向へ走り出す。よし、どうやら従ってくれたようだ。
「おい!待て!」
「逃がすな!追え!」
人間たちもそれを見て追いかけるのだが、私はすかさず彼らの前に後ろに飛び回り妨害する。これによって私を追いかけてきているカラスたちによる目くらましと攻撃が期待できるのだ。
しかし人間たちも炎の球を放ったり、ハモノを投擲することで雷人間の足を止めようとする。雷人間も雷で応戦するのだが・・・・・・例のよく分からない文様を浮かび上がらせながらの射撃戦ともなると逃げきるのはやや難しそうだ。
こ・・・こ・・・・・・は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っは!?
危ない、危ない。もはや一刻の猶予もないな。今にでも眠ってしまいそうだ。飛行の機動性も落ちてしまっている。私は力を振り絞り、雷人間のやや手前まで飛んでいき―――
―――――――その後ろにある小物の山に突っ込んだ。
そして山にぶつかる瞬間に身体を見えた小物の一つ――なるべく小さく丸めなものがいいだろう――へと変化させ、激突の衝撃で山の内部へと入り込む。その時にドンガラガッシャンと大きな音がする。この音も多少の妨害になればいいが。それと同時に山の小物が飛び散って辺り一面に広がる。
これで追いかける人間たちの足元に小物を散らかすことで追いかけづらくしつつ、カラスたちが私を見失うことでそのまま人間たちとの戦闘に専念してもらうという筋書きだ。正直どこまで上手くいくかは分からないが、いずれにせよ――――――
―――――――私は衝突の衝撃と睡魔に敗れ眠りに落ちるのでここまでである。
雷人間よ、もしかしたらちょっと大変かもしれないが――ま、頑張ってくれ。もともとそちらの戦闘に私が巻き込まれた形なのだしそれくらいはいいであろう?その分くらいは働いたはずだ。まあ敵にカラスを追加したことで帳消しにしているかもしれないが。
などと薄れいく意識の中で考えていたのだが――――先の衝撃と音の大きさである程度眠気は遠ざかってはいたものの――やはりもう限界らしい。
おやすみ。