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私のこころ  作者: 2Bペンシル
第二部・4
27/27

【成人期】――残影――

≪第十一節 21310629≫

「グソー派って、何なの?」

 お父さんが腕を組む。

「≪人間同盟≫は穏健派も過激派も、数多くの派閥に分かれているんだ。元々、アメリカで発足したっていうのはだいぶ前に話したことがあるよね?」

「ええ」

「≪人間同盟≫はAIや機械に、生活の糧を奪われた労働者に由来する。そういう人たちは、色々な属性を内包するんだ。例えば、僕はホワイトカラー由来の主流派に属していたし第二位の派閥はアメリカを再び偉大に(MAGA)運動を経ても没落した右派ポピュリスト、第三位の派閥は人間が単一の知的生命体であることを固持したキリスト教諸派という具合にね。他にもネオ・ラッダイト派や反科学主義派とかもあったな。単一の勢力であっても、その中には様々な考えや思惑がある……右派と言っても全体主義(トータリタリアニズム)オルタナ右翼(アルト・ライト)があったり、左派も社会主義(コミュニズム)から無政府主義(アナキズム)まであったり、フェミニズムと言ってもリベラル・フェミニズムやラディカル・フェミニズムがあるのと同じさ」

「人が集まれば、それだけ多様な考え方があるということね?」

「さすが、理解が早い。で、ロジーヌ・グソーが率いていたグソー派は言ってしまえば日和見主義者の集まりだ。元々は急進派だけど、過激派に変わったときに『戦争する気はないから』と穏健派に転向したけど、そのあと『我々はあくまで機械を攻撃する』といって穏健派の色々な派閥を邪魔したりね……そういう煮え切らない態度でどちらからも厄介者扱いされていた連中だよ。穏健派は中道保守に近い集団が多かったから、グソー派みたいなのはそぐわないんだよね」

――敵に居る分には良いけれど、味方に来てほしくはないタイプね。

「そういう集団だから、穏健派の中でも派閥規模だけで言えば下から数えた方が早い、小規模な派閥だった」

「『だった』?」

 お父さんがいくつかキーを叩くと、世界連合(WU)傘下の連合特殊部隊がマリア・テレジア共和国のグソー派本拠地を制圧し、ロジーヌ・グソーを殺害したという2106年のニュースがホログラフィック・ディスプレイに表示された。

「グソー派はリーベが生まれる前に指導者が死んで壊滅したはずなんだ。穏健派に移ってからも使える資産(アセット)が少なかったからね、壊滅まで時間は掛からなかったよ」お父さんが腕をほどいて、肩をすくめた。「アルバ・ドラコネスのことを考えると……何か重要作戦を邪魔したから、怒りを買ったのかもね」

 だとしたら、『グソー派』というのは存在しない集団だというのか。

「じゃあ、『機械仕掛けの人間(ホモ・エクス・マキナ)』っていうのは……」

 お父さんが顎に手を当てる。

「最も可能性の高い仮説だけど、恐らくグソー派の遺志を継ぐ団体のスローガン。元々グソー派は人権意識が高い故、機械への権利を認めることができなかったという経緯があって設立されているんだ。2017年、サウジアラビアでロボットに対して市民権が認められた際、サウジアラビアにおける女性人権の扱いやカファラ制度についての疑問が一部から噴出した。さらに2024年、EUではAIを受容ではなく制限するためにAI規制法という形で法体系が成立したこと、その他フィジカルAIに関する法律や議論を遠縁として……第三次世界大戦(WWⅢ)の前にロジーヌの母親であるヴィオレット・グソーがグソー派を立ち上げた。当時の彼らはAIを道具ではなく、『機械権』のある存在として考えたんだ」

「それならなぜ、『ホモ・エクス・マキナ』を掲げる団体はAIを破壊して回るようなことを?」権利があると考えたのなら、なぜそんな立場をとったのか。「おかしいじゃない、権利のある存在を好んで殺すようなことをする必要、ないでしょう?」

 お父さんの眉間にしわが寄る。

「ヴィオレットは『機械権』を人権のアンチテーゼとして取り扱った。曰く『人間は制限されるのに人権があるのだから、機械も制限される以上は機械権がある』ってね。義務という制限があるから権利という主体があるという式を機械にも当てはめようとしたんだ。でもヴィオレットが無くなった後にロジーヌが提唱した『機械権』はね、『機械は良き隣人たる権利を持ち得る』ってだけだった。搾取しても暴行しても殺しても何も言わずニコニコしている、『隣人』としての権利を機械に与える事が彼女の目標だ。『人格なき人権』とでもいうんだろうかね、僕には最後までその言葉遊び(レトリック)が理解できなかったけど」

 その言葉が含意する身勝手さに、ぞっとした。

 自らの理想に合致しないモノに対して、攻撃的になったということか。その理想が、論理から外れた都合の良い『理想』だとしても。

「彼らの唱えるのは権利という言葉とはかけ離れた、都合のいい『機械権』だけだったんだ」お父さんが呆れたように肩をすくめた。「気に食わないやつがいるんだから、そいつを殺せばストレスフリーになる。そのレベルのことを繰り返してきた日和見主義者の集まりがロジーヌ率いるグソー派だ。『機械権』という一見すると正しそうで正義寄りっぽい言葉を盾にした連中だったんだよ」

「じゃあ、グソー派にとっての『機械権』っていうのは、機械の権利を保証するということではなくて、機械をこき使える『権利』ってこと?」

「そうさ。彼らの言う『機械権』が保証されることで、人権は守られる……自分の健康だとか自由だとかを守るために機械を酷使する権利。そこに機械の犠牲は勘定されていない。むしろ、機械が壊れて怪我をすれば『私たちは被害者だ、機械が不完全なのが悪い。機械権ではそれが認められている』といって別の機械を殴り倒すだろうね」お父さんがため息をつく。「だからこそかもね、アルバ・ドラコネスが狩ったのは。アルバ・ドラコネスは機械に主体性を与えた上で隷従させることで、自分たちが支配しやすい世界を作ろうとした。でも、グソー派はその逆を行ったから。ただでさえ、所かまわず邪魔してたわけだし」

「……今のように人と機械の共存を目指すような社会は、彼らにとって受け入れがたいから、あんな事ばかり続けていると?」

「もしグソー派の後継団体が同じことを考えているというのであれば、そう考えていいだろう。彼らにとっては意思表明をする機械もそれを受け入れる人間も、『嫌』なんだから」

 その言葉に、目が回った。

 これまで相対してきた相手も、私たちには受け入れられないような意見を持っていた。

 それでも、綺麗な言葉で修飾するというよりは良い面も悪い面もいろいろな側面も検討したり表出させたりして、自分たちの主張を示していた。

 私たちの立場だってそうだ。機械の権利を認めることはすなわち、これまでのような奴隷的な働かせ方ができなくなるということ。それにより貧困に陥ったり今の立場を追いやられたりする人間が現れることを理解している。それを理解したうえで、機械と共存することで不利な立場に陥る人たちの受け皿になれるような体制を整えられると、考えているから支持している。

 でも、グソー派のいうことは……本当に綺麗ごとだ。

 ただの拒絶という感情以外、何物もない。

 臭い物に蓋をするとかおためごかしとか、そういうものでしかない。

 何かを変える気も無ければ罪を背負う気も無い、日和見主義の言い訳だ。

「ひどい話ね」

「僕もそう言うしかないよ。唯一の慰めというべきかな、そんなことを掲げている連中だから、恐らく≪人間同盟≫はどの派閥も目を光らせているはずだ。他の団体も調べているだろうけど、アセットの規模が違うからね」

 もし後継団体があるとして、今でも活動できるだけの勢力がある日和見主義者は魅力的で脅威だ。味方につけるにも敵になるにも、十分な価値を持つだろう。

 と、そこまで考えてお父さんの言いたいことがなんとなくわかったけれど、少し外した答えを返してみた。

「もしかして、≪人間同盟≫過激派と会って動向を聞くつもり?」

 お父さんが白目を剥いた。

――予想通り。

「正気かい?」

「違うの?」

「いくら物好きでも、首に爆薬ベルト巻きつけて敵陣に突っ込んだりはしないよ……」お父さんがにやりと笑う。「≪人間同盟≫ってのは、正しいけどね」

 その一言で、私の考えに確信を持つことができた。

「ということは、穏健派と会うのね?」

「そう。彼らなら対話できる。僕らとそりが合わなくても、話くらいは聞いてくれるはずさ」

 当然ながら浮かんだ問いをぶつける。

「もちろん、私も――」

 間髪入れずに、お父さんは頷いた。

「うん。リーベにもついてきてほしい。きっと、君が必要になるから」


≪第十二節 21310702≫

 道路からの反射熱にじりじりと焼かれながら、私たち二人は市街にある何の変哲もないビルの前に立っていた。

「僕が調べた限り、ここが一番近い≪人間同盟≫穏健派の支部だ」

 半袖の白いシャツにジーンズというラフな出で立ちのお父さんがビルを指さす。

「本当に入れてくれるの?」

 念のため――お父さんには「ラフな格好でも大丈夫」と言われたけれど――濃紺のパンツスーツを着た私は、改めて尋ねた。

 事前に調べた限り、このビルのすべてが≪人間同盟≫穏健派の持ち物となっていて、この地域全体で一番大きい支部だ。そんな場所にいくのに、ラフな格好をするのはなんだか抵抗があったのだ。

 と、ビルの入口が開いて、グレースーツ姿のコンシェルジュのようなモンゴロイド男性が現れ、手で私たちを招いた。

「雪村様ですね。お待ちしておりました。どうぞこちらに」

「どうもご丁寧に」

 嫌味ともお道化(どけ)ともとれる意味合いを含ませた口調で、お父さんはその言葉に応えた。

「さあ、向こうもお待ちかねみたいだ」

 お父さんは臆する様子もなく、入口に向かっていく。私もそのあとをついて行った。


 私たちは、応接室というよりは小会議室とでもいうような、シンプルな部屋に通された。

 無機質な白い壁紙にクリーム色のリノリウムで覆われた床。その中央に広くて灰色をした長方形の机と、その長辺に二脚ずつ置かれた質素で腕掛けもない白い椅子。

 机の感触はプラスチックにしては温かくてざらざらしている。多分、紙と何かの樹脂を混ぜて成形したリサイクル素材だ。

 まるで病室のような色味のなさだ。小さな窓から見える外の鮮やかさが際立つほどに。

「どの部材も生分解性のあるものっぽいな……環境保全派の支部かな」

 隣に座ったお父さんがぼそっと呟く。

「そういう派閥があるの? というか、その情報もなしに突っ込んでいったの?」

「穏健派はだいたい攻撃してこないからね。で、彼らは母体が環境活動家でね。AIデータセンターが環境に与える悪影響、発電・送電による環境への影響や膨大な冷却水、廃棄されるハードウェアについて警鐘を鳴らしていた団体だよ。まあ≪人間同盟≫に合流したのは、データセンターにより環境問題が下火になった2070年頃だったはずだけど。データセンターの排熱は直接空気回収技術(DAC)で回収した二酸化炭素と系内のアミンから出来るカルバミン酸塩を排熱で分解して、アミンを再利用し二酸化炭素を貯蔵するネガティブエミッション機構に組み込むことである程度解決を見た。エネルギー問題も核融合発電で解決、さらにはユビキタス化やアトムプロセッサ化でデータセンターのサイズも大幅に削減したから」お父さんが意地の悪い笑みを浮かべる。「それにWWⅢで人口が減って環境問題が激減したからさ。『敵』がいなくなったら作らないとね」

 私は肩をすくめた。

「相変わらずね」

 ドアの開く音が聞こえた。そちらの方を見ると、白いローブを着た禿頭で灰色の目をしたコーカソイド男性がタブレット端末を胸の上に抱くようにして立っていた。

『そう。我々に必要なのは敵なのだ』

 スピーカーを通した声。

『はじめまして。雪村尊教と雪村レナ』

 一瞬、男性の方が話しているのかと思ったけれど、話すたびにタブレット端末に波形が表示されていた。相手はタブレット越しに話しているようだ。

「彼女のことも知っているようで助かるよ。君たちは何と呼べばいい?」

 姿勢を崩したお父さんが尋ねると、相手は『”A”と。従者は話さない』

 名前を言いたくないのか、本当にAという名前なのか。

――それとも名前がないのか。

 ”従者”というのも気になる。確かに見た目はそうだけれど、なぜそんな役割を与えているのか。

 従者が”A”のタブレットを抱えたまま、椅子に座った。従者の目は死んだ目というのが一番近い、冷たく無感情な瞳だった。

『それで、何を聞きたいのだ』

「わかった」お父さんが一つ間を置く。「レナ、ちょっと彼らにいろいろ質問をしてみてほしい」

 突然の抜擢に、私は目を見開いた。いつもは大体お父さんが話すのに。

「いいの?」

「うん。君のほうが、正確に聞けるかもしれないからね」

『質問者は誰でも構わない』

 ”A”がそう促す。

――こういうときは、単刀直入に。

「わかりました。”A”さんに伺いたいのですが、グソー派について何か知っていますか」

『何か、とは?』

「えっと……」

 PCW上でグソー派の遺物が勧誘してきたこと、『ホモ・エクス・マキナ』という標語のこと、今も活動しているのかということ。

 どれが一番重要だろうか。いや、全部重要ではないだろうか?

「知っていることがあれば、何でも」

『難しいな。グソー派の歴史と解体は隣の男から聞いていることだと思うが。そうであって、なぜグソー派のことを?』

――そうか。

 まず、私たちの考えている前提から話さないと。

「私たちはグソー派が完全に解体されたとは思っていないのです。きっと形を変えて生き残っていて、活動していると考えています。でもその正体を追うには、解体されたあとのグソー派がどうなったかを知らないといけません」

『だから知りたい、と。そして我々は知っているだろう、と』

 私は大きく頷いた。

「はい」

『我々、環境保全派は傍流だ。故に、知っていることは限定される。しかし、なぜその知識を欲するかによっては、あなた方が糸口をつかむ手助けができるかもしれない。何故この知識を欲するのか?』

――何故、か。

 本心を言えば、別にある。

 お父さんから聞いた話が本当だとするなら、あの時間違いなく私は怒りを覚えた。あの日和見主義者たちへの怒りを。

 でも、そんな個人的なことを言ったところで“A”は理解しないだろう。それに、私だってあまり言いたくもない。だから、それらしい言葉――これも本心ではあるのだけれど――を口にした。

「グソー派がテロ攻撃のようなことに加担しているのであれば、止めなくていけません。知っていることがあるのに、知らないふりして目を背けて誰かが犠牲になるようなことは避けなくては――」

 無感情な口調で、“A”に遮られる。

『――それは理性的過ぎる故、本心ではないだろう。あなた方は個人であり大義に縛られた組織ではない。集団であれば、個人間で生じるフィルターを通した感情の一部が内面から外面に共有される。共有された一部が入り混じり、集団の誰のものでもないが集団の誰もが共感する”大義”となることで、ようやく人は表面上ではあるが感情から理性への転換が行えるのだ。だが、二人程度のペアでは感情的な動機のほうが優先されることが多い……あなた方は人なのだろう? その本心は?』

 その言葉に口をつぐむ。

 思い返せば、今までも何かの大義に共感したのは……個人的な感情だった。誰かが傷つくのを見たくないという恐怖やお父さんのためという愛情故だった。

――”A”がそれを知りたいというのなら。

 私のこころの中にある一つの塊を、”A”に伝えなければならない

「私たちは――」

 ちらりと隣のお父さんを見ると、目が合った。その目は「言いたいように言えばいい」と言っていた。

「――いえ。私は、許せないのです。どのような思想や行為にも必ず負の側面や予想不可能性があるけれど、それを許容するなり認識するなりして、それでも『この選択が正しい』と選んで……私はどんなことにも『負い目』を感じながら、それでも決断してきました。この決断をすることで助かる人もいる、でも傷つく人もいる。無意識に私の周りにいる人の比重を増やしながら、公平ではないけれど少しでも多くの人が助かる様にと考えながら。自分の選択は正しかったのか、もっと良いやり方はなかったのか、自問自答を続けて。良いものも悪いものも積み重ねて、私は生きてきました。生きるのが楽しいと思っても、楽だと思ったことはありません」深く息を吸う。「でも、グソー派は違う。彼らは自分たちの決断に責任を持たない日和見主義者です。そういう人たちはきっと、『自分に責任はない』と繰り返して、何かを壊しても誰かを殺しても……後悔しない、苦悩しない、理解しないで生きていきます。自分や仲間は常に被害者で、攻撃する側が常に悪いのだと、そう考えながら」

 私はタブレット端末の先にいるであろう”A”に、本心が伝わってほしいと思いながら、睨みつけるように見つめた。

「そんな、『うらやましい生き方』、私にはできない。私が背負おうとしたものたちがそれを赦してはくれない。彼らのしていることじゃない、彼らの『生き方』が許せないのです」

 いつもなら喉の奥にすら現れない言葉がなんとか外へ這い出ようと、体の中を暴れまわる。

――生き方を否定することは、その人を否定することだ。でも、否定したい。だって、私の大切な人や見ず知らずの人達を絶対に傷つけるから。

 その痛みが私を刺す。まるで胸を食い破ろうとする寄生虫のように。

 その言葉そのものを出す理由(わけ)にはいかないと、なんとか堪えた私の口からでた言葉は自分でも聞き苦しいほど掠れていた。

「だから彼らの足を、引っ張って、やりたい。自分たちのしていることが理解できないのなら、せめて……邪魔したい。出来ないようにして、諦めるように、仕向けたい」

 口に出すと同時に、舌の根から喉の奥まで燃え上がるように熱くなって、初めてと言っていいくらい苛烈な感情に襲われた。

――恥ずかしい。

 私はこんな言葉を口にしてこなかった。いや、こころに思ってもこなかったかもしれない。そんな硫酸のような言葉を口にしてしまった私は、ただただ落ち着かないまま、目を泳がせていた。

『浅ましいな、そして汚い』

 ”A”の言葉は私のこころへ釘を打つかのように刺さる。けれど、その『痛み』はむしろ自分の吐いた言葉を忘れさせてくれた。

 泳いでいた目線が”A”に定まる。

――ええ、これが本心よ。どう言われようと、私は『うらやましい生き方』を生きることができないのだから。

 私は彼らがうらやましい。

 何を壊しても誰を殺しても、その責任もなにも追わずに忘れ去って、「私は被害者なのです」と叫んで涙さえ流せば良いと考えている彼ら。

 だから、私は許せない。野放しにはできない。

 そんな人たちを放っておけば、いつか私の大切な人を「先に攻撃されたのだ」と叫んで殺すのだから。

 彼らそのものを止めることはできなくても、彼らの企みは止めなくてはならない。

 なにより彼らも私も、殺してしまえば、取り返しがつかなくなる。いくら灌ごうと思っても、灌げない汚れを負うことになる。

 私が、ユニくんを殺したときのように。

「ええ。貴方がどう言おうと、これが私の本心です。私自身が彼らに殺意を抱く前に、彼らを止める。私はこの言葉も、背負って生きていくのです」

『あなたに一つ助言をしよう。敵を作りなさい。敵の存在は大義を生み、大義はあなたの苦痛を忘れさせる。汚く浅ましい本心を、美しく高潔なスローガンへと還す手助けをしてくれるのだ。敵はあなたの重荷ではない、あなたの心を背負う重要なパートナーだ』

 初めて会った時に言われたあの言葉。

「……貴方はそれに、背負っていく苦しみに耐えられなかったのですね」

『それが最も我々にとって良い選択肢であったからだ。我々の居場所はすでに無くなっていたが故に、我々が生き続けるにはこうするより他なかった。私自身には必要がなくても、私についてきた人間たちには敵が必要だったのだ』

 だとしたら、なおのこと私は"A”のようにはなれない。自ら生き方を狭めるようなことをしてしまえば、きっといつか後にも先にも引けなくなるだろうから。

「いいえ、彼らを敵とは見なしません。妨害することと敵であることが同義ではないように、彼らを敵視しないように接する――」本当にできるだろうか。怒りを覚える相手をそう見ることができるだろうか。「――ように努めます」

『ならば、一つだけお願いがある……納得できなくても受け入れられなくても良い、あやつらの言葉を聞いてあげてはくれないか。周りに理解されずただ孤独で、自分の感情の行き場もなく、虚ろな大義へ身を捧げることでしか自分を肯定できない人間たちの末路なのだ。自分ではなく大義を肯定するしか自分を肯定する事ができなかったあやつらに、優しいお前だけは聞く耳を持ってあげてほしい』

 タブレット端末越しの顔はわからないけれど、なぜか”A”は笑みを浮かべていた。

 そんな気がした。

『彼らの人生に、聞き手はいなかったのだから』


≪第十三節 21310711≫

 ”A”との対談から約一週間後。

 私は屋敷でお父さんが飲むためのコーヒーを淹れていた。

 ”A”はグソー派とその後継団体の情報を渡すことに同意してくれたものの、散逸している情報も多いために引き渡しは一週間待ってほしいとのことだった。

――もう一週間経つけれど。

 コーヒープレスのプッシャーを押し込み、マグカップに黒茶色の液体を注ぐ。私のこころとは正反対の、目の覚めるような華やかな香りがキッチンにふわりと広がった。

 彼らが約束を反故にするとは思えない、本来信頼できるような相手でもないのだけれど。というより、私の見せたくない一面を彼らには見せたのだ。ある程度の見返りを求めたっていいだろう。

 お盆にマグカップを載せて書斎へもっていくと、ホログラフィック・ディスプレイ越しのお父さんと目が合った。

「ああ、コーヒーありがとう」

 お父さんはあれからいつも通り仕事をしている。そんなに忙しくないのか、以前ほどげっそりとしていないようだった。

 そういえば”A”達と別れた後、お父さんは私が言ったことに対して、特に何も言わなかった。ただ一言、「情報を引き出してくれてありがとう」と言っただけで、ここ一週間この話題を話していない。

――お父さんはどう思っているのだろうか。

 自分の娘があんなことを言っていたら、恥ずかしいと思うだろうか。それともグソー派のような人たちがうらやましいと言ったことに対して、幻滅しているのだろうか。

 マグカップを机に置いて、それとなくお父さんに「もう一週間経つけれど」とぼかして聞いてみる。

「ああ……」特に何の感慨もなく、今思い出したと言わんばかりの口調で「そういえば、そうだったね。多分、散逸したデータとやらが多すぎたんだろう。僕がいたころから≪人間同盟≫は総じて情報管理が乱雑だったし」

 あのこと、聞いてみようか。

「ところで……」

 いや、やっぱり怖い。

「ん?」

「ううん、何でもない」

 お父さんが興味深そうに私の顔を見つめる。ほんの数秒見ただけで何かを察したのか、お父さんは微笑んだ。

「"A”達に言った言葉が、引っかかるかい」

 私は一つため息をついた。

「ええ。お父さんにとっては、決して聞き心地のいい言葉ではないと思うから」

 お父さんが自分の口を隠すように手を当て、しばらく考え込んだ後、口を開いた。

「……『ロボット三原則』は解釈次第では『善人の条件』になる」

 私の頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。いきなり『ロボット三原則』の話になるとは思っていなかった。

「確か、アイザック・アシモフの『われはロボット』でカルヴィン博士が言っていた言葉よね?」

「うん。まあ、まず僕は君の言葉を聞き苦しいとか恥ずかしいとか思ったことはない」無意識に緊張していた私の体が少し緩んだのか、体が少し震えた。「極限状態ならともかく、ここまではっきりとした本心を聞いたのは初めてだから、驚きはあったけどね。それでいいんだよ、どんな考え方も君のものだ」

 お父さんが腕を組む。

「で、リーベは自分がやってしまったと考えていることを、人に伝えずに深く長く引きずる癖があると思ったんだ。その手のプログラミングはした覚えがないから、気質的なものではなさそうだ。僕は割と切り替えの早い方だし、レオナは『私は貴方の話を聞くけど、それはそれとして私は感情があるの。だからまずは話すね』っていう分かりやすい人だった。とはいえ、君の環境においてそういう影響を及ぼすものは他に思いつかないから環境要因とも言えない。じゃあ、なんでかな、と思ったわけだ」

「それで?」

「もしかしたら君が『善人』、つまりは『ロボット三原則』に忠実であろうとしているからなのかもしれない。自分を守ることを最後にして、相手の意志や意図を正確にくみ取りながら、相手を傷つけないようにするということを懸命に守ろうとしているのかもしれないとね」

「でも、私は『ロボット三原則』を守れていないと思うけれど」

「そりゃあそうだよ、あれを現実世界で忠実に守れば必ずフレーム問題に突き当たるんだから。守れなくても当然だし、そこはファジーにやるように経験を積んできたんだろう」お父さんが腕を解いて、机の上に乗せた。「ただ、人間ならそれを合理化して『やむを得なかった』だとか『自分は悪くない』だとか、そういう考えに至るようになっている。もしくは異常行動や異常な性的志向で発散するか。これは人間が生きるために進化した結果だ。君の場合はそんな『うらやましい』やり方をせずに、現実と理想との狭間に自ら入り込んでいってどこまでも忠実であろうとしている、つまりは『善人』であろうとしているのかもしれない。ロボット的な本能と人間的な理性の衝突、それが引きずる原因なのかな、と……『善人』も必ず、社会の現実と自らの理想に挟まって苦悩するからね」

 今度は私が考え込む番だった。

 私に『ロボット三原則』が適用されているのは確かで、それに対して忠実であろうとすることは、人間が空腹に襲われたり眠気を感じたりするのと同じくらい原始的な『本能』だ。私がいくら人間らしいと言われたり人間と間違われたりしたとしても、その『本能』に抗うことはほぼない。我慢することはできるけれど、どこまでもいつまでも我慢はできない。

 とはいえ、本能的に『善人』の条件を満たした基準に従おうとしても現実に阻まれて失敗することが多い。だから、自分とは違うやり方をする人を『うらやましい』と思うのだろうか。故に、『善人』でいることができなかった自分自身の過去を引きずるのだろうか。

 そうだとは思えなかった。

 本物の善人はきっと本能で行動しなくて、理性で判断して善い行いをするのだろうから。『ロボット三原則』に従うだけの機械と、主体的に動く善人は違う。

 外から見たら同じでも、内の動きはきっと私とは違うはずだ。これはあくまで、機械である私なりのこころの動きだと思う。

――でも、それって他人から見て判別できるのかな。

 インターフォンが来客を告げる。所属IDはLEAR06で黄色、一週間前に“A”を持って現れた従者だった。


 ソファに座る白いローブ姿の彼――オズワルドと名乗り、紅茶を所望した――とテーブルを挟んで相対した私たちは、“A”を持っていた時と変わらない無感情な目をしていた。

 オズワルドがカップを持ち、香りを嗅いで一口飲む。

「ダージリンのセカンドフラッシュ。淹れ方は及第点。しかし露地で育てた天然ものではなくハウス栽培品。良くも悪くもないが、些か古いのが残念か」

 にこりともせずに彼がつぶやく。一口でそこまでわかるのかと驚きつつも、言い方に不満を覚えた。

――来客もなければ、家で飲む人もいないからなのだけれど。

「お気に召したようで何よりだよ」さらりと皮肉を言ったお父さんが腕を組んだ。「それで、早々に本題に入ってもらえると助かるな」

 彼はカップをソーサーに置いた。

「私の主人から、あなた方が必要とするであろうデータを受け取った。ただし、その一部には我々穏健派にもダメージを与えかねない内容も含まれていることを確認している。故に我々としては穏健派への攻撃をしないことを保証できるのであれば、受け渡したいと考えている」

――保証か。

 どんな内容が含まれているかわからない以上、オズワルトの条件を保証したうえで受け取り、解析するのは嘘をつくことになる。

 とはいえ、ようやく見つけた足がかりだ。そのデータを逃すわけにはいかない。

「保証はできない。僕は少なからず≪人間同盟≫を憎んでいる。それは穏健派だろうが過激派だろうが関係なく、ね。だから、両方潰せるか弱められるのであれば、僕は喜んでそのデータを活用する。とはいえ――」お父さんが腕組みを解いて、肩をすくめた。「――僕の娘は別の考え方かもしれない。もしそうであり、かつ僕の娘の話を聞いて信用してくれるのであれば、彼女にデータを渡すといい。彼女の意に沿わない事を、僕はしないと約束しよう」

「ふむ」

 どうすればバランスが取れるだろう。穏健派を傷つけず、グソー派だけを追うためにはどのような作戦で行けばいいだろうか。

 少しだけ考えを巡らせたあと、私は口を開いた。

「すみません。私も貴方たちを傷つけない方法を提案できません。そのデータがどんな内容なのか、どれだけの可能性があるのか、そういうことがわからない限りは攻撃しないことは保証できない。ただ一つだけ約束できるのは、できる限り貴方たちへのダメージを抑える方法を取るということだけです。場合によっては、諦めることも選択肢に入れる事でしょう」

 私は何の感情もくみ取れない彼の目をじっと見た。

「それは担保になりませんか?」

 長い沈黙の後、彼はほんの一瞬だけ苦しそうな眼をした後、つぶやいた。

「……私の生まれた国には、実直な娘の言葉を聞かない王が王国を追放されることから始まる悲劇がある。あなた方は実直だ、甘言を弄して私をだまそうとはしなかった。私にとっては苦言である言葉を厭わなかった」

 彼はローブの中から手のひらサイズのポータブル型量子記憶装置(QMD)を取り出し、テーブルの上に置いた。

「私は私の主人を王国から追放させるわけにはいかない。娘よ、本当に我々への被害を最小限にしてくれるのだな? 穏健派を壊滅させないのだな?」

 間髪入れずに私は答える。

「はい」

「わかった。あなたに信じよう」

 彼が指二本でこちらに滑らせてきたQMDを、私は手に取った。

――ようやく見つけた。

 きっと、この中にはグソー派につながり、止めるだけのものが入っているはずだ。

 顔を上げると、彼がほんのわずかだけれど笑みを浮かべているように見えた。ごく僅かだから気のせいか光の加減かもしれないけれど、微笑んでいた。

「ところで雪村よ。これとは別に、私の主人から伝言がある」

「ん?」

「『攻撃的であったお前がなぜ最近はずいぶん落ち着いているのだ?』と。返答をもらうように頼まれている」

「ああ。僕だって誰彼構わず攻撃するもんじゃないって分かったのさ。グソー派や過激派みたいに人や機械を殺すとか、傷つける相手は攻撃する。暴力を用いて何かを成し遂げようとすれば、残るのは傷つけられた人たちばかりだ。それなら、そういうのを少しでも減らせるようにするのが、今でも正しいと思っている。でも、ビラを撒いたり演説して、相手を傷つけずに自分の考えを主張することまで攻撃しちゃいけない。それは正当なやり方だと思うからね」

 お父さんは私の方をちらりと見た。

「端的に言えば、僕も色々と経験させてもらったんだよ。親は子供に育てられるからね」


≪第十四節 21310805・21310730≫

 この日、私はお父さんの書斎を歩き回りながら、戦々恐々としていた。

 いや、この日だけではない。ここ一週間、落ち着いた試しがない。

 原因はけたたましく鳴っているであろうインターフォン――あまりにしつこいのでアクセス拒否したのだ――と窓を外から叩く音のせいだった。

「まあまあ。どうせあいつらはこの屋敷には入れないよ」

 お父さんはなにも感じていないかのような顔で、いつも通り仕事をこなしている。

「あんな人の取材、受けなければ……」

「時間の問題だよ。≪ホワイト・ハイドランジア≫の連中がグソー派の後継団体だと分かってしまった時点で、この手の妨害工作は予想できたことだ」

 私のつぶやきを拾ったお父さんがさらりと述べた。

 目の端に入ったディスプレイにはメールがもう100件近く溜まっていた……すべてその『取材』に関する内容だろう。

「でも、私が……」

「リーベのことだから、気にするよね。でも、原因の大本は僕で、君じゃない」

 そう言われても、受け入れられる訳がない。

 屋敷が壊れたり物が無くなったりするくらいなら、まだ何とか受け入れられる。しかし、もしこれでお父さんが怪我をしたり罵詈雑言のせいで傷ついたりしたら、私は確実に受け入れられない。

――あんな人、家に入れなければ……。


――1週間前。

「QMDの解析はどう?」

 書斎の端で中核システムを介してQMDにアクセスしている私に、エイジス社の仕事をこなしているお父さんが話しかけてきた。

「ええ、今のところ問題ない。だいたい9割方解析できたってところ。オズワルドさんが気にしていたデータについても、多分これだろうというのが見つかったの」

「さすがだ。何のデータだった?」

「≪人間同盟≫の資金に関わるデータ。入出金記録はもちろん、どこの誰が資金源なのかとかがある程度開示されたものだった」

「なるほど。じゃあ、以前にトパズからもらったデータと突き合わせれば……」

「信憑性のあるデータとして、全容がつかめるかもしれない。少なくとも、数年前までアクティブだった関係についてはわかると思う。オズワルドさんと約束したから、あくまでグソー派周辺だけにするけれど」

 あの時の約束を違えるわけにはいかない。彼は私たちではなく約束を信じたのであろうから。最低限のデータで、他を傷つけないようにしなくては。

「まあ、それが誠実だろうね。グソー派周辺はもう?」

「ピックアップ済み。トパズさんのデータを使ってもいい?」

「もちろんだ」

 お父さんが椅子を滑らせて壁際に行き、壁へ埋めてある金庫を開けてQMDを取り出す。もう一度椅子を滑らせて机に行くと、取り出したQMDに端子を差し込んだ。

 中核システムを通して共有されたデータに検索クローラーを適用して"グソー派”、"ロジーヌ・グソー”、"ヴィオレット・グソー”などと入力すると、終了予定時刻が出てきた。30分程度で検索が終わるらしい。

 クローラーの結果と私がまとめたデータを照合するソフトウェアを作り、自動で起動するように設定する。照合自体はそんなに時間はかからないはずだ。

「30分くらいで検索できるって」

「わかった。それじゃ――」突然鳴るインターフォン。「――誰だ?」

 インターフォンに表示されたのは、所属IDがGNRL01の黄色をした、光秀・リーガンと名乗る男だった。


 リビングでソファに腰かけているリーガンに、紅茶の入ったマグカップを差し出す。パッと見は黒い髪のモンゴロイド系だけれど、目の色が緑色に近い茶色をしていた。名前からしてハーフかクォーターだろう。

「どうも」

 少々荒々しく受け取った彼は、一口飲んで「うん、うまいな」と言った。

 私はいつものように客に相対する形で座っているお父さんの隣に座り、ワイシャツとカーゴパンツ姿の彼をじっと見た。

「ところで、何の用事かな」

 お父さんが尋ねると、マグカップを置いたリーガンが手を蠅のようにこすった。

「いやね、私さ、いわゆるジャーナリスト? ってやつをやってましてね。ちょこっとあんたたちに聞きたいことがあって、取材させてくれないかなーと思ったわけですよ」

 ジャーナリストというと、黒畑さんみたいな感じだろうか。あの人は電子新聞社所属だったけれど。

 と、変な寒気を覚えて隣のお父さんを見ると、なぜか眉間にしわが寄っていた。

「なるほど、飛び込みか」

「よく言うでしょ、『ライオンの口に入らにゃ』……あーっと、そうそう、『嫁が取れねえ』って」

「それを言うなら、『虎穴に入らずんば虎子を得ず』だと思うけどね」

「ま、似たようなもんですよ」

 何かがおかしい。なんだろう、この違和感のあるやり取りは。

「君が書いている媒体は?」

「そりゃあ、何でもですよ。電子も紙もなんでもござれです。電子新聞社にも原稿送ったことがあったかな?」

 気取られないように電子新聞社のアーカイヴで彼の名前を調べると、一稿も記事が見つからない。それならばと思い、国際ジ()ャーナ()リスト()管理機構()の公開登録リストを調べたものの、そちらにも引っかからなかった。

――あれ?

 IJMOに登録されていない時点ですでに怪しい。まともなジャーナリストならIJMOの国際ジャーナリスト憲章に従うはずだけれど、それが保証されないということだから。

「どの社で主に書いているんだい?」

「うーん、いろんなところに出してるから主に、ってのはないね。如何せん、このご時世でPCW以外の情報を欲しがる連中が増えたでしょ? 私としてはね、金稼げるんならなんだっていいけど、まーそのせいで犬の手も借りたいくらいですわ」

 検索エンジンに“光秀・リーガン”と入れて検索すると、一応記事が出てきた。『ザ・ルナ』や『ベリーデイリー』のようなレッドトップス紙――ゴシップや犯罪を虚実混交させて煽情的に報じるタブロイド紙――ばかり。本も出しているようだけれど、『トゥルーマン:この世のすべてを知る男』というタイトルで、聞いたことのない出版社から自費出版している。

――これは……まずい人を入れたかもしれない。

 入れる前に調べればよかったと後悔しても遅いことはわかっている。とりあえず長居してもらっては困るのだから、何とかして追い出さなくては。

 そのやり方として正しいかは――これまでのいろいろな経験から――わからないけれど、一番手っ取り早い方法がいいだろう。

「あの……」私が声を出すと、彼はびくりと体を震わせ恐怖の表情を浮かべた。

「なんだこの女、勝手にしゃべるのか」

 その言葉に少し気持ちを逆なでされた私は、ちょっとだけ怒りを込めた口調で彼のことを見つめて「あなたのIJMO IDを聞いてもいいですか?」

「IJ……なんだって?」

――やっぱり。

 隣から伝わってくる空気が変わり、まるで冷凍庫から流れ出てくる冷気のようだった。

「君は、ジャーナリストとは呼べないということだ。国際ジャーナリスト管理機構、IJMOに登録されていないジャーナリストに、答えることはない」お父さんが立ち上がる。「帰ってもらおうか」

 私も立ち上がって会釈し、「申し訳ありませんが、お帰りください」

 今度は彼が立ち上がる番だった。

「ちょっと待てよ、そりゃないぜ」もはや怒鳴り声に近い声で「上物なあんたのネタをこっちは仕入れてるんだ、そいつについて色々聞くまで帰りはしねえよ」

「なら、ネタの仕入れ代とここまでの交通費くらいは出してやる。とっとと帰れ」

 怒りが爆発しかかっているお父さんをなだめるように、「この人もこう言っておりますので……」

 彼がお手本のような舌打ちをリビング中に鳴らし、折り畳み式タブレットを尻ポケットから取り出した。

「わっーたよ、諸経費込みで100万寄越せ」

「レナ、振り込んでくれるかい」

 私はWPAN回線で、彼の持っているデバイスへ向けて送金すると、画面を見た彼がニンマリと笑った。

「まいどあり」

「さあ、帰ってもらおうか」


――そして今。

 彼はどうも荒稼ぎすることにしたようだった。

 仕入れていたというネタを簡潔に言うと、『雪村尊教は元≪人間同盟≫過激派の幹部であり、多くの人間を殺した経歴がある。そして今は、日本の首都近郊で金を荒稼ぎしながら隠居している』という内容だったらしい。そして、そのネタに『ついでに娘の雪村レナは勝手にしゃべる顔だけはいいビッチ』という情報まで付け足して、レッドトップス紙どころかタケノコ・メディアやマッシュルーム紙と呼ばれるような一年と経たずに潰れるような新興媒体に流したのだ。これらの媒体は裏付けどころか校正もしないようなメディアなので、生産力だけはある。

 というわけで、私たちのことはあっという間にゴシップ好きの間に広まっていったのだった。

 ある人は、元過激派のテロリストについて知ろうとして。

 ある人は、何人もの人を殺した人間の顔を一目見ようと。

 ある人は、顔のいいビッチの姿を網膜に焼き付けるため。

 私たちはリーガンが帰った翌日から今日まで、ずっとインターフォンを連打されたり窓を叩かれたりしているのだ。

 ところで。

 どうしてリーガンがこんなネタを知っていたのか。

 それについて答えてくれたのは、リーガンが帰ってからすぐにクローラーが吐き出した、トパズさんとオズワルド……いや、“A”さんのデータだった。

 他の日和見主義者が提供し続けている資金の流れから、グソー派の人員とアセットのほとんどは≪ホワイト・ハイドランジア≫というマシニスト派の非営利財団にいることが分かった。オズワルドからのデータは改変されていて≪ホワイト・ハイドランジア≫への流れが隠されていたけれど、改変前のデータが“A”さんのメッセージとともに別領域に残っていたのだ。

 それは外部データと参照されることをキーとしたデータとして。私たちはトパズさんのデータに救われたといっても過言ではない。

『雪村たちに届けばいいが。もしこのデータに改変の経歴があれば、それはオズワルドが私を裏切ったという証左であり、君たちに危害が及ぶ前触れだ。≪ホワイト・ハイドランジア≫は新興メディアに資金提供しており顔が利く。オズワルドは人として私を裏切り、グソー派に与するだろう。そして奴らは新興メディアに顔が利く……ゴシップを使って君たちを傷つけるかもしれない、君たちに不幸な結末が待つかもしれない。幸運を祈る』

 そのメッセージを裏付けたのは、トパズさんのデータだった。

 グソー派は≪ホワイト・ハイドランジア≫として生き残っており、彼らの実行部隊は『ホモ・エクス・マキナに死を』というスローガンを掲げており、さらにはゴシップを使って私たちを精神的に苛んでいるということの裏付けに。

 割れそうな音を立てる窓を見て、ふと洗うのが大変そうだなと思ってしまう。

 場違いな考えに、思わずため息をついた。

「リーベ、大丈夫だよ。僕についてのことはともかくとして、あの記事の内容はほとんど嘘なんだから、無視すればいいんだよ。どうせ、いつか飽きるさ。ほら、100年前から言うじゃないか『荒らしはスルー』ってね」

 私は横目でお父さんのことを睨む。

「私のことはいいの。私はお父さんが怪我したり傷ついたりしてほしくないだけ」

「僕が傷つくだって?」にやりと笑った後、申し訳なさそうに目を落とす。「いや、君の愛情故だな。そんなことを言ってくれるのは」

「当たり前でしょう? 何でもかんでも皮肉で片付くわけじゃないの」

「皮肉屋が嫌われがちな理由だね」


≪第十五節 21310918≫

 私は長い柄のついたスポンジをバケツに汲んだ水に浸してから、引き上げた。

 屋敷の書斎に面した窓にスポンジをこすり付け、ゴシゴシと擦る。私の努力をあざ笑うように手形や顔の皮脂が水を弾き、窓は半透明な膜を作り上げてどんどん屋敷の中をゆがませる。それでも、くすみが晴れるまで擦り続けた。

 小一時間も擦り続けていると腕が重くなってくる。十分の一も終わっていないのに、半ば突き刺すようにして柄付きスポンジをバケツへ入れてから、連日の掃除にため息をついた。

 屋敷に取り付いていた人たちは一か月もせずに、別のネタを見つけて私たちのところから離れていった。

 襲ってくるのも唐突なら、離れていくのも唐突だった。

 ……『≪人間同盟≫穏健派のうち環境保全派が解体するから、その経緯をすべて話す』という情報が出回れば、彼らのような新興メディアはそっちに流れて行ってしまうだろう。彼らは肥沃な大地を探して食い荒らすイナゴのようなものなのだから。

 もしかしたら、”A”は何かに感づいたのだろうか。それで、私たちを――。

――いいえ、そんなことをする義理は無いはず。

 私にとっては聞きなれたガソリンエンジン音が屋敷の駐車場から聞こえてきた。

 所々くすんだ灰色のバンが屋敷の駐車場に止まって、中から沢井先生と周防さん、そしてコンちゃんが降りてきた。

「よう、リーベ」

 私は沢井先生のもとに歩いていった。

「お久しぶりです」

「雪村に呼ばれたんでな。どうもだいぶおかんむりらしいが」

「さあ……」いつもの様子からして、怒っているような気はしないけれど。「そうとはおもえませんが?」

 沢井先生が肩をすくめ、コンちゃんと周防さんが目を合わせる。

「まあ、そういうこともあるってことか」

 私の背後にある玄関ドアが開く音が聞こえた。振り返ると、半開きになったドアからお父さんが顔を出していた。

「ああ、皆来てくれたんだ」

「お前が呼びつけたんだろ」

「まあね」お父さんの視線が私から一瞬だけ逸れる。「リーベ、まだ掃除が残っているようなら外にいるかい?」

 私はその視線の意図が汲み切れなかった。

 だから、これまでの仕事を続けることにした。

「ええ」

「コンフィアンス、リーベの手伝いをしてあげてくれないかな?」

 周防さんが間髪入れずに言うのが後ろから聞こえてきた。

「わかった。謙治は雪村さんと話していて」

「うん」

「じゃ、コンフィアンス。リーベを手伝ってあげて」

 沢井先生と周防さんが屋敷に入っていく。私はコンちゃんの「さあ、片づけましょう」という言葉とともにまだ曇っている窓ガラスのほうへ向かった。


 それからしばらくはコンちゃんが「人間の皮脂ってなかなか落ちないものね」という呟きをした他、一言も発することなくただ黙々と窓ガラスを磨いていった。

 しばらく時間が経ってから、コンちゃんが「ねえ、リーベ」

「なに?」

 私が手を止めて彼女の方を見ると、彼女は私を射止めるような目線をしながら長い柄のついたスポンジ付きモップをバケツに突き刺した。

「雪村さんとは大丈夫なの?」

「ええ」

 軽く頷いて、私はまた窓ガラスを擦り始めた。

「客観的に見て、そうは見えないのだけれど」

「大丈夫」

 砂塵のせいか黒ずんだ皮脂の痕を、力を込めて擦る。

「何もないから」

「あなたの『何もない』は怖いのよ。まるで自分も他人も見ていないみたいで」

 その言葉に、擦る手が止まった。

「私があの人を――」自分の言葉が怒気を孕んでいることに気が付いた私は、冷静さを取り繕うためにスポンジ付モップをバケツに突っ込んでからコンちゃんの方に改めて向き直った。「――本当に何もないの」

「あなたの言っていることを信じないわけではないのよ。確かに『何もない』のかもしれないけれど、それはあなたが見てそう思うだけ。もしかしたら私とか謙治とか、沢井さんとか、他の人が見たらそうは見えないかもしれない」

 そう言われても、本当に何もない。いつも通りご飯を作って、いつも通りコーヒーを出して、いつも通り――。

――いえ、コンちゃんの言う通りかもしれない。

 そういえば、最近一緒にご飯を食べていない。私が呼んでも、お父さんは「仕事が忙しい」と言っていつも一人で食べている。コーヒーだって、いつもなら2時間に1回くらい淹れていたけれど、あんまり飲んでいないのか4時間に1回あるかないかくらいまで減っている。

 他にも、会話の頻度も内容も、減った気がする。いつもならお父さんは仕事の愚痴も交えながら今担当しているクライアントのこととかお母さんの話とか色々話してくれたけれど、今は「ご飯がおいしかった」とか「後で食べるから」とか、そういう形式的な話ばかりだ。

 ≪ホワイト・ハイドランジア≫のことだって、殆ど話せていない。というより、調べすらしていないのに気が付いた。

――いつからそうなっただろう。

 思考を巡らせて、記憶を辿っていく。

――ああ。

 リーガンが私たちのことを報じてからだ。

「癖もそっくりなら、考えていることもそっくりなのかしらね」

 気づくと、私はお父さんがいつもやっているように、手で口元を隠していた。

 と、窓ガラス越しでも聞こえるくらいの怒声が聞こえた。

『僕があの子のことを気にしていないとでも言うつもりか!』

 窓から書斎を覗くと、背を向けたお父さんの姿と険しい顔をしている沢井先生と周防さんが見えた。

 二人がお父さんを諭すように話しているのが見えるけれど、窓ガラスが脂で曇っていて内容までは読み取れなかった。

「謙治から、厄介なパパラッチにやられたという話は聞いているわ。それで、変な連中にしばらく絡まれていたっていう話もね」

 書斎の中から目を離して彼女のほうを見ると、腕を組んでいた。

「過剰なストレスに暴露された人間の心の動きは知っているつもりよ。謙治のお父さんが身をもって教えてくれたからね」彼女が何かを見極めるような鋭い目で私のほうを見る。「リーベに適用できるかはわからないけれど、そういう人はある種の防御反応として閉鎖的になることがある。周りから与えられる情報が多すぎて疲れてしまうのね。回復するまで、他者とのコミュニケーションや情動が減るのよ」

「じゃあ……」

 私とお父さんの間に起きた、『違和感』の正体はあの人たちにやられた結果なのだろうか。

 彼女は首を横に振った。

「わからないわよ? 私はそれを判断できる立場にないから。でも、人の防御反応ってね、『生きるためにする』ことなの。場合によっては、『生きるために必要な人たち』に助けを求めたり傷つけないようにしたりするために、『そうせざるを得ない』と考えてすることもある。『本当に大切』だと思う人を傷つけたくない、嫌われたくないから、関わりは捨てないけれど回避的になる……逆に『そうではない』人たちに対しては、依存したり攻撃したりするけれどね。でも、誰だって生きたいからそうするの」

「だとしたら私もお父さんも、どっちも相手を守りたいと思っているから、こうなってしまったの? どっちも相手を傷つけたくないから?」

 彼女は肩をすくめた。

「さあね。ただ、人間だとそういう見方もあるってだけ。私は医者じゃないから、決めつけることはできないもの」

――もしそうだとしたら。

 私もお父さんも、互いを守ろうとしてこんなことになってしまった。二人とも大切な相手を傷つけたくないから、他の人を巻き込んででもなんとかしようとした。

 でも、嫌だ。

 お父さんには思っていることをできるだけ言ってほしいし、私だって言う。

 だって、どんなことを言っても――もちろんちょっとは呆れたり怒ったりすることはあるかもしれないけれど――私はお父さんのことを受け入れるし、お父さんだって私のことを受け入れてくれるはずだし、私たちのために会いに来てくれる人がいる。

 そんな『繋がり』を、そこらへんのゴシップ記者なんかに壊されたくない。

 だから。

 目の前にいるお父さんに向き合わないと。

 私はモップの柄を握りしめた。

「コンちゃん、私はどうしたらいいと思う?」

 彼女は呆れたと言わんばかりに微笑み、モップを持ち上げた。

「知らない。一つだけ言えるのはね、今やるべきことをすることだけよ。一つやることが終われば、その分考えられるから」彼女がモップで窓をこすり始める。「綺麗にして、片づけて、それから考えなさい。片づける手伝いと合間の雑談相手くらいならするから」


 私たちは屋敷の窓にこびりついた曇りのほとんどを落とすと、屋敷の中がしっかり見えるようになってきた。

 読唇術だから口調まではわからないけれど、お父さんが話す言葉も沢井先生や周防さんが諭すように放つ言葉も、窓越しにわかるようになっていた。

 やっぱりというべきか、お父さんも私に対して気を使っていたみたいで。

 お父さんは思うところを沢井先生達に吐き出していた。自分のせいでゴシップ記者に私の『無い』ことを書き殴られて傷つけてしまったことや、そういう形で傷つけてしまった私への謝罪の言葉が思いつかないこと、でもどうすれば贖罪できるか分からないから黙ることしかできないというように叫んでいた。

 沢井先生達はその言葉を聞きながら、起きたことはどうしようもないと言ったり辛いのは分かるが話をしてみないことには先に進むこともないということを言ったりして、励ましていた。

『僕の言葉が……また彼女を傷つけて……怖いんだよ』

『そうだと思うよ。でも、落ち着いてからでいいから。話してみないと』

『時間をかけても……お前たちなら……いいはずだ』

 こんな会話がずっと続いていた。

「……コンちゃん、私から話しかけたら、お父さんは嫌がると思う?」

「さあね。でも、あなたのことだもの。どんな壁でも窓でも、あまり気にしないというか壊してきたじゃない。前に進まないのはあなたじゃない、それだけは言える」

――そんなに壊して来たような記憶はないけれど。

 そう思って考えてみると、もちろんお父さんの協力もあってのことではあるけれど、確かに普通の人やアンドロイドなら壊さないような壁を壊してきたような気がする。機械制限法やアルバ・ドラコネス、ユニくん、人間と機械の判別、コンちゃんとの関係性だって。

 色々な壁や窓からのぞくしかなかったこともあるけれど、それでも変えたいと思うことがあれば変えようとしてきた。

――じゃあ、今の私たちのことは?

 迷う必要はない。

 できるかはわからないし、時間だってかかるだろうし、スムーズになんていかないことはわかっている。そうだとしても、迷う理由にはならなかった。

 だって、目の前に壊したい壁があるのだから。

 なんだか久しぶりだ。私がこうやって笑えたのは。

「そうね。ありがとう、コンちゃん」

「いいのよ。これも私の仕事だから」


 それからしばらくして、掃除しながら窓越しの会話を盗み見ていた私たちは、沢井先生達が帰るということでお父さんに呼ばれた。

 玄関ポーチに立っている私の隣で、少し表情が明るくなったようなお父さんは、「リーベもコンフィアンスも、窓を綺麗にしてくれてありがとう。沢井も周防も話を聞いてくれてありがとう」

 お父さんとは違って少々くたびれたような顔をしている沢井先生達はうなずいた。

「全く手のかかる友達だ」

「雪村君にはいつも仕事を手伝ってもらってるから。たまになら、ね」

 私は三人に頭を下げる。

「今日は来てくださってありがとうございました」頭を上げた私はちらりとお父さんの方を見た。「あとは私たちがなんとかしますから」

 三人がそれぞれに頷いたり微笑んだりする。

 みんなが来た時より外の色彩が鮮やかに見えるのは、夕暮れ時だからではなくて、この場の空気が暖かい気がするからだろう。

――みんなが来てくれて良かった。

 そう思わずにはいられない。私一人ではきっと『壁を壊す』という考えには至らなかっただろうし、お父さんもこんな風にすっきりした顔をしていなかっただろうし、きっと二人とも変に距離を取ったままでいただろう。

 ふと、コンちゃんに言われた「『本当に大切だと思う人』を傷つけたくないから回避的になる」という言葉を思い出す。

――そういえば、お父さんには何度か「私は傷ついてもいい」と言っていたっけ。

 私はどんなことがあっても、お父さんとかみんなの力になりたいと思う。そのためなら苦しくても痛くても耐えられるし、もし力になれなかったとしても話を聴いたり傍にいたりしてあげたいし、その過程で傷つけられることがあるのも覚悟している。

 でも、もしかしたらお父さんにとっては『変えられない』場所なのかもしれない。私がどれだけ心に決めていても、お父さんには受け入れられないことなのかも。

 その人の根幹というべきか、言葉でも行動でも変えようのない場所。

――なら、『変えられない』なりに。

 やり方は一つじゃないはずだ。

 誰かの力になれて、私も傷つくことのない、そんなやり方。

「――今度はみんなでどこかに行こうか。今日のお礼もしたいしね」

 その言葉で我に返った私をよそに、沢井先生は呆れたように肩をすくめた。

「全員忙しくなけりゃあな」

 今度はお父さんと周防さんが肩をすくめる番だった。

「……まあ、記憶の片隅にでも置いててよ」

「そうしておこう。んじゃ、また」

 周防さんとコンちゃんが軽く会釈する。

「ええ、また」

「今日は本当にありがとう」

 沢井先生たちが車に乗り込むと、騒々しいエンジン音があたりに響く。

――コンちゃんありがとう。考える隙間を作ってくれて。

 私たち二人は、テールランプが見えなくなるまで小さく手を振っていた。


≪第十六節 21311111・21311115≫

 沢井先生たちやコンちゃんとの会話から数か月たって、私たちは元通り……いや、気兼ねない関係に戻っていた。

 特別なことをしたわけではない。いつもよりちょっと雑談を増やしたり、ボディランゲージを大きくしたり、聞くときは静かに話を聞いたり……そういう心がけをしていると、いつの間にか戻っていた。

 コンちゃんの言葉を借りるなら、『過剰な情報による疲れが取れた』のだろう。お父さんも私と似たようなことをしていたから、それが回復を早めたのかもしれない。

「……なんであんなに気が立っていたんだ」

 さっき書斎へコーヒーを持って行ったあと、後ろからぼそりと呟くのが聞こえたその言葉には、私も同感だった。

 全くの他人同士であったり信頼関係が出来ていなかったり、そういう関係であればこんな風になることはなかっただろう。

 私たちみたいな関係では無い人達は、こんなことがあった時にどうするのだろうか?

 その答えはほどなくして得られた。

 もしかしたら、こんなことを思わなければあの人に遭うことは無かったのだろうか。


 もうそろそろ雪が降るかもしれない、と思えてくるほど寒さが厳しくなってきた頃。

 私が珍しくメイド服ではなくて普通のセーターとジーパンを着て――替えのメイド服まで全部洗ってしまったのだ――リビングのソファに座りながら、今日配達された電子新聞を読んでいるとインターフォンが鳴った。

――誰か来る予定は無いはずだけれど。

 なんだか前もあったパターンだなと思いつつ見てみると、擦れてところどころ白くなっているコートを着ている、禿げ上がって深いシワが刻まれた老人が画面に表示された。名前は村上武史、所属IDはREV3N93の青。

「もしもし」

 インターフォン越しに話しかけると、画面の向こうで彼が驚いたように身動ぎした。

『あ……えと、雪村さんのお宅ですか』

「はい、そうですが」

『彼に用事がありまして……』

――寒そうだな。

 お世辞にも温かそうに見えないコートを着た老人を、こんな寒い日に放って置くわけにも行かない。

「雪村を呼んでくるので、中で少々お待ち下さい」

 私は村上さんを中に入れるため、ソファから立ち上がって玄関に向かった。


 村上さんをリビングに通したあと――彼が通った後には古紙と古い油の混ざったような、少しだけ不快な臭いが残っていた――書斎のドアをノックしてから開けた。

「来客?」

 ドアを後ろ手で閉めてから、「ええ。村上さんって人」

 お父さんが少し考え込むように口元に手を当てる。

「フルネームは?」

 そんなことを聞くのは珍しいなと思いながら、私は答えた。

「村上武史。所属IDも必要?」

 お父さんがキーボードを叩いてあるデータベースを開いた。ホロディスプレイ越しだから裏から見えると思ったけれど、内容があまりに細かい字かつ開かれたのが一瞬だったせいで、せいぜい人の名前が幾つか書かれているのがわかるくらいだった。

「いいよ、会おう。というか、僕が会わないといけない人だ」

 そういって立ち上がったお父さんをリビングへ連れていく。

 リビングに入った瞬間、村上さんが突然立ち上がった。

「お前が……!」

 古いコートのポケットから小さなナイフを取り出した村上さんがこちらに向かってくる。

――危ない。

 背景なんかを理解する間もなく、私は反射的に村上さんの手に握られたナイフの刃を掴み、彼の腕ごとひねり上げた。

 彼の苦痛にもだえる声に罪悪感を覚えながら、取り落としたナイフを蹴って遠くに追いやった。

「レナ、もういい。彼を自由に、止めないであげてほしい」

 冷静なお父さんの声に従うと――あまりに静かで命の危険があるものだとは思わなかったから――村上さんが奇声に近い唸り声を上げて、私を突き飛ばしてお父さんに殴りかかった。

「お前が、お前のせいで娘が……!」

 お父さんに馬乗りになって、枯れ木のような姿からは想像できないほど力強くお父さんの顔面を殴りつける。

 殴りつけられるたびにお父さんの目の周りや頬が赤く染まるのを見て、私は慌てて村上さんを後ろから羽交い絞めにすると、口の端から血を垂らしたお父さんが立ち上がった。

「レナ、止めちゃ駄目だ。気が済むまで――」

 私は指先から流れる液体で袖が濡れるのを感じながら、お父さんを睨みつけた。

「――やらせるわけないでしょう。お父さんが傷つくのを黙って見てろって?」

「お父さん……」村上さんが羽交い絞めにされたまま、私にもたれかかって滝のような涙を流し始めた。「(あおい)、ごめんよ、すまん……俺は……」

 出来事の展開に追いつけない私に、お父さんが言葉に詰まりながら私に話しかけた。

「レナ、この人は僕のせいで、娘を失った人なんだ。だから、僕は……出来るだけの罰を、受けないといけないんだよ」


 ナイフで切れた指を医療用テープで留めた私は、コーヒーの代わりに以前注文したはいいものの手を付けていなかったラベンダーティーを淹れた。

 お茶をリビングのソファに向かい合って座った二人に出すと、少しだけ雰囲気が和らいだ気がした。

「俺は、お前を殺すつもりだった」

 お茶を一口飲んだ村上さんがそう呟いた。

 一口もつけないまま、カップを両手で包み込んだお父さんが目を閉じ、頭を下げる。「僕にこの言葉を言う資格があるかは……本当に申し訳ない。あなたの娘を殺したのは僕だ」

 カップを割りそうなほど手を白くして俯いた村上さんが絞りだす。

「謝られても、娘は還ってこない」

 この二人に何があったのか。

 詳しいことを私は知らない。

 でも、きっと、村上さんにとって大切な娘を……葵という人をお父さんが殺したのだろうということだけは察せられた。

 だからこそこの目の前にいる老人は、怒り狂って悲しみの坩堝に居るのだろう、と。

――この人に私は何ができるだろう。

 そう考えて頭を巡らせても、かける言葉もできる事もわからなかった。それほどまでに、この人から発せられる悲憤は強かった。

「どうして……」村上さんが背中をさらに丸め、カップ内のお茶がこぼれて手を濡らすほど震える。「どうしてお前は娘と……娘と幸せに暮らしているんだ」

 村上さんはカップを床へ投げ捨て、立ち上がった。

「どうして私の娘は死に、お前は娘と生きているんだ。私の娘が何をした、なぜ死ななければならなかった、なぜなんだ……!」

 私も立ち上がり、今にも殴り掛かりそうな村上さんを受け止めるように抱きしめた。

 その細くやつれた身体はまるで太陽のように熱くて、命の炎を無理やり燃やしていた。

 今にも折れてしまうかのような骨は、復讐という意志が添木になっていた。

 どうすればいいかわからなかったから、こうするしかなかった。

 私が辛いときや悲しいときにそうしてもらったように、村上さんにもそうしてあげたかったからかもしれない。

 このときはただ、こうするしかないと思ったのだ。

「離せ……」

 そう言って少し暴れたあと、村上さんは私にもたれかかりながら静かに私の肩を濡らした。

「ごめん、ごめんよ……葵……」

 こんなにも弱々しい人が猛々しい怒りに襲われるなんて。その事実が、私にはあまりに辛くて哀しかった。

 そして、その怒りを生み出したお父さん側の事情もわかっていた。

 お父さんもまた、大切な人を殺された怒りから復讐に走った。挙句の果てに、村上さんのような人を復讐の道へと駆り立ててしまった。

「ありがとう、レナ。この人は……」

 私は村上さんを抱きしめながら、お父さんの言葉に首を振った。

「お父さん。この人に必要なのは、きっと口じゃなくて耳なの」


 村上さんをもう一度落ち着かせて座らせ、お茶を淹れ直した私は祈るように手を組み合わせた村上さんの語る話をただただ聞いた。

 幼い頃から一緒に育てられた女性と結婚したこと。その女性――彩子というらしい――との間には3度子供ができたが2度流れてしまい、ようやく出来たのが葵という娘だったこと。でも、産後の処置が不味くて彩子さんは子どもができない体となり心臓も弱ってしまったこと。それでも2人でなんとか、文字通り骨を折ったり心を潰したりしながら成人になるまで葵さんを育て、社会に送り出したこと。

「あの子が、あの子なりの幸せを……まわりとは違えど幸せをつかむための一歩を進めようとしたときだった」

 村上さんの、組んだ手の節が白んだ。

「あの日は彩子の誕生日だった。私の家では家族の誕生日はみんなで祝うものっていうきまりで。プレゼントを交換し合って、美味しい料理を一緒に食べて……だから、彩子も葵も私も、あの日を楽しみにしてた」

 白んだ手の節が元の赤みを取り戻し、村上さんはふっと口角を持ち上げた。

「ああ、あの知らせを聞いた時もこんな気持ちだったな……。プロダクツ社の工場で起きた爆発とそれで出た死者の話、第一報が来たときには被害の詳細がわからなかったが、総毛立ったのを覚えてる」

 それでようやく合点がいった。

 だいぶ前にお父さんから≪人間同盟≫過激派に居たときの話を聞いた際、ジャパン・アンドロイド・プロダクツ社へのテロの話がほんの少しだけ出てきた記憶がある。2104年6月、基盤洗浄に使われる高濃度過酸化水素水タンクと有機溶剤タンクが爆破され、多くの人が化学熱傷を負っただけでなく工場建屋も爆発で崩壊した。あの時に亡くなったのは100人近いという。

 そのうちの一人が、この人の娘だったのだ。

 だから、これだけ怒ったのだ。

 あのテロを計画したのはお父さんなのだから。

「誰もが思うんだろう、『誰が死んでてもいいから、自分の子供だけは無事であって欲しい』って」

 村上さんは組んだ手をほどいて、自分の顔を覆い隠した。

「娘には『他人の不幸を願うな』って教えていたのにな……」くぐもった声で続ける。「それから一日もせずに……彩子も葵が死んだという知らせを聞いた後に心臓発作で死んで……そのすぐ後に公安にはこういわれたよ。『葵が覆いかぶさったおかげで、従業員の一人は頭部に化学火傷を負うだけで済みました。葵が一人の命を助けたんです』と。私が他人に優しくするな、誰よりも自分を優先しろと育てていれば……葵は死ななかったのかもしれない。でも――」

 村上さんが覆っていた手を自ら剝がし、『笑顔』を私たちに向けた。

 その『笑顔』は涙や鼻水にまみれててらてらと光っていて、目は赤く血走っていた。顔中に深く走っている皺は色を増し、その間を埋める脂汗は彼の口が紡ぐ言葉を彼自身が嫌がっているのを示すように醜悪な輝きを放っていた。

「――それが正しいとは思えないんだ。おかしいだろう?」鈍く光る顔が醜悪な『笑顔』から崩れて悲痛に歪む。「私の育て方が間違っていたから葵は死んだ。なら、私はどうすればよかったんだろう。『葵らしくも人として善い人になって幸せになってほしい』と思って育てたことが結果として葵を殺したのだろう? でも、そう願わない親なんて……いないじゃないか」

 白状しよう。

 私には、かける言葉がなかったことを。

 貴方のせいじゃないなんて軽薄浅慮なことも、気持ちはわかるよだなんて言葉も、貴方のような経験をしたことがあるよなんて嘘も、口が裂けても言いたくない。

 でも、目の前にいる村上さんが苦しんでいるということは嫌というほど伝わってきた。自分で自分を刺し、抉り、切り刻むような苦しみに苛まれているということに。

――この人の苦痛を取り除く……いや、少しでも和らげる……そんな言葉はあるだろうか。

 ぐるぐると思考を巡らせていると、ふとあの時のことを思い出した。

 ユニに対抗するために、指の先から血が流れ、意識を失うまでキーボードを叩いたときのこと。

 日本インターネット社(JIC)保有のメガフロートで爆破テロに巻き込まれたときのこと。

 これを伝えたとしても彼は救われないだろう。でも、すこしでも視野を広げることができるなら。苦痛以外の感情を抱くことができるかもしれない。

「……あくまで、私がもしも葵さんと同じ立場だとしたら――」

 村上さんは自分の育て方が、自分が教え伝えていた言葉が間違っていたから、葵さんを殺したと思っている。

「――きっと、ただ『目の前の人を助けたい』、『私にしかできないから』って。それしか考えていなかったと思います」

 けれど人の行動は、親や周囲の教育だけで定義されるものではない。

「もしかしたら、考える余裕もなかったかもしれない。危険な状況に直面して、目の前に命があって、体が動くのなら。考えもなく覆いかぶさるかもしれません。正しいとか教えられたからとか、考えることもなく。その結果がどんなことになるかも考えずに、ただがむしゃらに出来ることをするかもしれません」

 その個人の思考、反射、体格……親や環境というたった一側面だけで、人の行動は語れない。

「私は、私がやることを説明できないこともします。『誰かに言われたから』、『そう育てられたから』、そんな理由付けのないことをします。もしかしたら、葵さんも同じだったのかなと、思うのです」

 人は机に置かれたでたらめなサイコロだ。どう頑張ったって3つの面しか見えないから、残りの面は『向かい合った面の合計は一定の数になる』というルールから予想するしかない。なのに1の目と1の目が向かい合っている人もいれば、3の目と6の目が向かい合っている人もいる、たまには見えていない面が真っ白なことだって。それに『一定の数』というのが2の人もいれば9の人だっているのだ。

 中には「向かい合った面が7にならないのはサイコロではない」という人もいるけれど、そういう人ですら7だとは限らない。

 人は人を知らないし、分からない。

 知らないから、聴くことしかできない。

 分からないから、伝えることしかできない。

「だから私は、葵さんの死が、村上さんのせいだけではないと思うのです」

 そんな他人を自分のルールで理解しようとして、分からなくなって苦しんでいる人に、未来への一歩を進める力を与えるような言葉。その事実を背負う力を与えるような言葉。

 内心でシニカルな笑みを浮かべる。

――そんな言葉、あればいいのにね。

 無いからこそ、聴かないと。

「それでも貴方が貴方の言葉で自分を責めるなら、私にもその言葉を教えてください。私は貴方の言葉を聴きますから。聴いて、受け止めて、私なりに考えますから」

 村上さんは涙にまみれた悲痛な顔をくしゃりと歪めて微笑んだ。

「……私の娘を殺したテロリストの娘とは、思えないな」

「ええ」ちらりと隣のお父さんを見ると、真面目な顔をしたままお父さんがわずかに頷いた。「私はお父さんではありませんから」

「僕にも葵さんの死の責任があります。だから、レナと一緒に話を聴かせてください。僕も村上さんのことと葵さんのことを背負うべきですから」

 村上さんが卓上のティッシュで涙を拭って、私たちの言葉を耳にしみこませるかのように目を瞑る。

 しばらくして、目を瞑ったままほとんど独り言にも近い声量で呟いた。

「……また、お茶を飲みに来てもいいだろうか」

 私たちは同時に頷いた。

「ええ。待っていますから」

「いつでも来てください」

「そうか……ありがとう」

 赤らんだ目を開いた村上さんは、訪れたときとは全く違う、優しい雰囲気をまとっていた。


 それから村上さんはお茶が無くなるまで、葵さんや彩子さんの話をずっとし続けた。自分の中の思い出を絞りだして、『あの人たちは確かに生きたんだ』と伝えるように。

 二人の細かな癖のことや葵さんと自分の癖が似ている事、彩子さんのお気に入りの場所――意外なことにコンサートホールみたいな騒がしい場所が好きだったそうだ――に連れていかれたときのこと、葵さんが10歳になった誕生日に村上さんが遅刻してしまって顰蹙を買ったこと。

 本当に楽しそうに話す村上さんの話を私たちはずっと聴いていた。

 そこにはこの人を不幸にしてしまったお父さんの、お父さんの過去を知っている私の、二人の責任だという思いも少なからずあった。

 でもそれ以上に、この人があまりにも楽しそうに話すその姿に惹かれていた。これまで見てきた誰よりも幸せそうに過去を話すこの人の、その姿が、私たちにも幸せを分けてくれるかのようだったから。

「――ああ、無くなってしまったか」

 村上さんは空になったティーカップを持ちながら、カップの底を見つめる。

「お代わりはいりますか?」

「ああいや……」彼がカップをソーサーに置く。「少し話疲れてしまったし、いいよ。これ以上長居しても、迷惑になるだろう。お暇しよう」

 ソファにおいてある擦れたコートを手に取り、私たちに一礼して玄関へ向かっていく村上さんを私たちは見送るために立ち上がった。

 土間でボロボロの靴を履いてコートを羽織った彼は一度立ち止まり、私ではなくお父さんの方に深く頭を下げた。

「殴ってしまって申し訳ない」

 お父さんは頷いた。

「私は貴方がしたことよりも酷いことを多くの人にしてきて、あなたの大切な人も奪った。そんな私に謝っていただいて、ありがとうございます」

 頭を上げた村上さんは微笑んだ。

「実直すぎて不遜さすらある言葉だ」

「娘にもよくそう思われてますよ」

「また会おう。今度は二人の話も聞かせてほしい」

 そういって玄関ドアのほうへ向いて、ドアを開けて玄関ポーチに出た瞬間だった。

 村上さんが胸を押さえ、足から崩れ落ちた。

――えっ?

 反射的に彼へ駆け寄り、倒れた身体を抱き起こす。

「村上さん、大丈夫ですか」

 返事がない。片手を頸動脈に添えると、脈が触れず青く筋だっている。拡張期血圧60 mmHg以下のショック状態。おそらく心臓が動いていない。

「リーベ、容体は?」

 遅れて駆け寄ってきたお父さんが私に尋ねる。

「脈がない。今すぐメディカルセンターに。私は心肺蘇生法(CPR)を」

「了解」

 お父さんが屋敷の中に戻っていく。村上さんを玄関ポーチに仰向けにして寝かせ、着ていた服を脱がせて胸の中央に手を添えると、やはり心臓が止まっているようだった。呼吸も時折あえぐように息を吸うだけで、ほとんど息をしていない。

「ああ、葵……葵……」

 村上さんのうわごとを無視して、手を彼の胸の上に重ねて力いっぱい押し込んだ。

「1、2、3……」

 30回押し込んで、2回胸が膨らむまで息を吹き込む。

「戻ってきて。貴方の話をまだ――」

 もう一度胸の上で手を重ね、手のひらの付け根で力強く押し込む。

「――全部聞いていないんだから」

「リーベ、到着まで4分」

 お父さんの叫ぶ声が屋敷の奥から響いた。

「氷もってきて。気休めだけど、体温下げてみる」

「わかった」

「1、2、3、4……」

 もう一度、力いっぱい押し込んだ。


≪第十七節 21311117≫

 どんよりとした曇り空の日。亡くなった人の魂を運ぶかのように、外は冷たい風がいつもより強く吹いていた。

 私たちは白い壁で覆われ、一面だけがガラス張りになっている展望室に喪服を着て立っていた。他に生きている人が誰もいないこの場所に。

 展望室のガラスからは、最低限の明かりしかない倉庫のような場所に横五列に並んだベルトコンベヤーに載せられた『白い箱』が、コンクリート製のゲートへと次々と運ばれて行くのが見えた。『箱』がゲートに近づくたび、スライド式のゲートが開いて暗い穴倉へと『箱』を飲み込んでいく。

 そういえば千住さんが亡くなられたときには二人とも葬式に参加しなかったな、そんなことを思いながら目の前の光景を見つめていた。尤も、人を呼ぶかどうかは故人の選択で決められ、千住さんは人を呼ばなくてもよいという意思表示をしただけなのだけれど。

 そして、葬式へ行くかどうかは個人の選択で決められる。

 ここにいない、大多数の人のように。

――思えば、千住さんはこの光景を見せたくなかったのかな。

 人が物へと変わる施設へ入るこの光景をお父さんには見せたくなかったのかなと、ふと考える。

 ほとんどの人と同じように、村上さんの遺体が納められた棺が処理施設のゲートをくぐる。

 ゲートの向こうで村上さんの体は強アルカリ水溶液と超音波およびマイクロ波加熱により細かく分解されたあと中和され、リンや窒素、微量金属を含む高度生体栄養液に変換される。その中に残るわずかな欠片は金や銀のような有用な金属元素を取り除いた後に乾燥して粉にし、セメント球へ加工されて共同墓地へと納められる。遺体から生まれた高度生体栄養液の行く先は、各種バイオ施設だ。

 そうやって、遺体はリサイクルされて水耕栽培や酵母を育てて私たちに提供されている。

 処理施設のゲートが閉まると、私の隣に立っているお父さんが私の顔を見ずに、「リーベ、気にしなくていいよ。きっと、あれが村上さんの寿命だったんだ」と言った。

 私は首を横に振った。

「ううん。もう少し考えさせてほしいの、あの人を最期まで見た以上は。どうして寿命を受け入れたのかじゃなくて、どうして生きることを辞めたのかなって」

 結局、私がいくらCPRを続けてもあの人は戻ってこず、メディカルセンターに運ばれて、ほどなくして死亡宣告がなされた。それからは規定通りエンディング・コーディネーターが来て、死に立ち会った関係者ということで葬式への参加資格を得たのだった。

 死に立ち会ったからこそ考えたい。

 生きることを辞めた理由を、辞めた理由が村上さんにとって良い理由だったのかを、これから先の未来ではなくてそちらのほうが良いと考えた理由を。

 きっとそこに、村上さんという人がいるはずだから。

「そうか……考える時間は必要だからね」

「ついてきてくれてありがとう」

「これくらいはしないとね。千住さんは嫌がったけど、独りで死ぬのは寂しいだろうからさ。村上さんのときくらいはね」

「きっと嫌がったのではなくて、この姿を見せるよりは寂しさに耐える方が楽だったのではないかしら。あの人は、最期まで人でありたかった人でしょう?」

 お父さんがアイロニカルな笑みを浮かべる。

「……あの人らしい」

 展望室にブザー音が響き、窓の向こうにある照明の電源が落ちる。

 今日の葬式は終わりだ。


 屋敷に帰ってきて中核システムに届いているメールを見ていると、エンディング・コーディネーターから『遺品引取りのご連絡』という内容のものが来ていた。

 内容を要約すると、「公共のものはすべて処分したので、お父さんに残りを引き取るか処分してほしい」とのことだった。

『雪村は血縁者ではありません。処分の判断をする権利があるのですか?』

 率直な疑問を送ると、間髪入れずに返信が来た。

『はい。村上氏には血縁者及び友人と呼べる方がいません。よって、関係者である雪村氏に判断していただく必要があると規定されています』

 私の隣でリビングのソファに座りながら珍しくぼうっとしているお父さんに、「コーディネーターから遺品を引き取るかどうか決めろってメールが来ているけれど」

「ああ……」お父さんが瞳孔を左右に一往復させる。「送ってもらうのと、部屋に訪問するの、どっちがいいかな」

 思ってもなかった問いかけに頭を巡らせた。

 手間が少ないのは間違いなく送ってもらうことだろう。けれど、あれだけの感情を抱えてきた人がどんな生き方をして後に何を遺してきたのかを知るには、部屋を訪ねる他ない。

 暮らしてきた部屋には、必ずその人の痕跡が残る。質素な部屋には物質過多の世界への嫌気や自分というものの不確実さが、乱雑な部屋には自分を物質的に支えようとした痕跡や自分を含む世界への不関心が、それ以外にも色々な形で残るから。

――もし、私の問いに答えを見つけようとするなら。

「訪ねてみる?」

「そうしようか」

 あまりにも早い同意に戸惑いもかねて応えた。

「いいの?」

 お父さんが姿勢を正して、私のほうに身体を向けた。

「リーベ。こういう機会でもなければ、どうして村上さんが『戻ってこなかった』のか分からないままだよ。それに、僕だって知りたいんだ。僕が壊してしまったあの人の人生の顛末を」

 お父さんは目を閉じて微かに頷いた後、深く息を吐いてから目を開いた。

「……僕は怖いんだ。僕が彼にしたことに直面するのが。だから、もしリーベさえよければ――」

「――わかった。着いていくから」

 お父さんの言葉を掬い取った私は、何度浮かべたか分からない笑みを浮かべた。

「臆病だよね、お父さんは」

 その言葉にお父さんは肩をすくめた。

「うん。だから未来しか見ようとしないんだよ。君と違って、僕は年を取るほど臆病になってばかりだ」


≪第十八節 21311120≫

 秋らしい晴れ晴れとした空と秋とは思えないほどの低い気温が仲良く訪れた日。私はベージュのダッフルコート、お父さんは黒いロングコートを着て、ライトグレーの外壁をしたマルチレイヤー・アパートメントの前に立っていた。

 私たちの住んでいる郊外からしばらく行った首都中央部、一番人口密度の高い所に村上さんは住んでいたようだった。

「コーディネーターコードM1134から業務を引き継ぎました、M71です」

 マルチレイヤー・アパートメントから現れたブラックスーツと黒いネクタイ、インフォグラスを身に着けたクールカットのモンゴロイド男性が無機質に答える。

――私より機械みたいね。

 エンディング・コーディネーターは人間しか務められないから、そんなことはないと知っているのだけれど。

「村上さんの遺品整理に来たんだ」

「存じております。今回の整理で残されたものはすべて廃棄処分になること、ご了承ください」

「わかりました」

 M71に先導されてマルチレイヤー・アパートメントのエントランスを通り、エレベーターで村上さんの居室――P層の13番目だった――に向かい、中に入る。

 すでに整理されてほとんど物のない部屋の中央に、コンテナが一つぽつんと置いてあった。

「こちらの中身が村上氏の遺品となります。3時間後にまた来ますので、それまで整理をお願いいたします。3時間より前に整理が終わりましたら、必要なものだけ取ってお帰りください。ロックは必要ありません」

 それだけ言って、私たちの間を割りながらそそくさとM71は去っていく。

「さて、中を広げてみよう」

 お父さんは早速コンテナのふたを開け、中身を床に並べていった。私は部屋を見回して、「もう少し生活感のある物がみられるかと思ったのに」

 どこで寝たのかもわからないほど純白な壁と汚れ一つない床。生活感は全くと言って良いほど無い。

「遺品の整理後だからね。それに、私物がほとんどない部屋ならこうなるんじゃないかな」

 確かに生活必需品とされるような、ベッドや机、椅子、棚、電子レンジなんかは基本的にすべて公共の物だから、それらを清掃工場に持って行った後の部屋は私物以外残らない。もし私物が極端に少ないか殆ど無い人なら、処理後の部屋に残るのはわずかなシミと遺品入りのコンテナくらいだ。

「よし」

 お父さんがコンテナの中身を床に広げ終わる。

「アルバムと何かの木箱……あと、ぼろぼろのノートと携帯()型有()機小()型記()憶装置()?」

 木箱を開けてみると、女性向けのアクセサリー類が綺麗に並べられて入っていた。きっと彩子さんと葵さんの遺品だろう。どれも二人が亡くなってから使われていないだろうに、埃一つ、錆一つ見当たらない。

 アルバムは村上さんと女性二人が並んだ写真や子供が遊ぶ写真なんかが、ポケット全てを埋めていた。時々取り出していたのか、彩子さんや葵さんと思われる人が一人で写っている写真のポケットは口の端が少しだけ切れていた。

「ノートのほうは……」

 何も書かれていない表紙をめくると、そこには綺麗な字で人名がずらりと罫線に沿って並んでいた。ほぼ全員の名前が赤いペンで二重線を引かれて消されている。

「……全員、イマシニストだ」

「知っている人も?」

 お父さんがページの中央あたりにある人の赤線で消された名前――王浩然(ワンハオラン)――を指さす。

「プロダクツ社の工場に爆弾を仕掛けた一人だ。爆発に巻き込まれて死んでる」

「じゃあここにあるのは、≪人間同盟≫過激派の人たちの名前?」

 ページをめくると、そこにもびっしりと人名が並んでいた。

 そのページの最後には、比較的新しいインクで“雪村尊教”の名前が書き記してあった。そこに二重線は引かれていない。

「だろうね。他のイマシニスト団体所属もいるけど、僕が知る限りは赤線を引かれた連中は全員死んでる」

 さらにページをめくっていくと、20年以上前に発刊された何本かのタブロイド紙の切り抜きや先ほどの村上さんと思わしき筆跡で色々なことが書かれたメモ帳が貼り付けられていた。内容はプロダクツ社へのテロに関わる内容や実行犯の名前、それに公安らしい相手から聞き込んだテロの捜査情報なんかだ。

「このタブロイド紙はアングラでしか発行されていなかったはずだ。あの人、アングラまで……」

「中身はテロ事件のことばかりだけれど、全部使われていないみたい」

 ノートの後ろ半分は白紙だ。これ以上、情報を集められなかったのだろうか。

「多分、途中からデータ化したんだろうな。『ジ・エクセレント』も『極東日報』も、僕が≪人間同盟≫にいたときにはすでに半休刊みたいな状態だったし、タブロイド紙ならPCW上で集める方が楽だ。それにデータに変換してしまえば、AIを使って検索もできるしね」お父さんがCOMMAを指でつまみ上げる。「つまり、この中身が続きってことだ」

「じゃあ、後は帰ってから確認しないとね」

「そうだね……遺品のほうは一度全部持ち帰ろうか。ただ無機質に燃やされるより、共同墓地に一度置いてから燃やされた方が、きっと村上さんも喜ぶから」

「ええ、そうしましょう」

 私たちは広げた遺品をすべてコンテナに仕舞い、とても軽いコンテナを抱えてマルチレイヤー・アパートメントを後にした。


 帰る途中で木箱を共同墓地に供え、屋敷に戻った私たちは早速COMMAの中身を確認してみると、お父さんの予想通りだった。

 プロダクツ社のテロに関する情報がAIによって整理されており、比較的新しい情報も組み込まれていた。もちろん、リーガンが行った私たちのリークについても。

 乾草の中から針を探し、その針の組成も形状もすべてを記録する。

 それくらいの努力を何百件と繰り返して。

 何を目的として、誰が計画して、どのように実行されたのか。

 そしてその計画者は生きているのか死んでいるのかまで、しっかりと調べ上げられていた。死んでいない者がどこに住んでいるのか……それは私たち以外分からなかったようだったけれど。

「良く調べられているが……」お父さんが顎に手を当てる。「いや、外部の一般人がこれだけのことを調べるのはとんでもない執念だ。内部に居た僕からみても、良く出来ていると思える」

「これだけのことを調べるのに、どれだけ時間をかけたのでしょうね」

「20年……もっとかかるかもしれない。それも、余暇どころか生きるために必要な時間まで費やして、ただ復讐のためだけに調べ続けたんだ」お父さんが画面から目を逸らす。「彼は自分のために生きたんじゃない、娘と妻のために生きたんだ」

 私も思わず画面から目を逸らす。

「……これが、村上さんの生きる意味だったのね――」

 復讐のために空っぽのまま生きてきて。

 ようやく見つけた黒幕を殺そうと思って。

 その黒幕達に自分のことを受け入れられて。

「――家族を殺した相手に復讐することが」

 私たちが村上さんを受け入れなければ、あの人は生き続けられたのだろうか。

 私たちは村上さんを受け入れることで、あの人を殺してしまったのだろうか。

「どうすればよかったのかな」涙が頬を一筋伝うのを感じる。「どうすれば……」

 あの人は戻ってこなかったのではなく、戻ったところで何もできないと諦めてしまった。いや、何もしなくていいと思ってしまった。だから何をしても、きっと助けられなかった。諦めた人の手を握っても、握り返してはくれないから。

 墜ちそうになる自分を、もう一人の自分が支えてくれた。

――あなたが諦めたら、誰も救えないじゃない。

 握っても握り返してくれないのなら、もっと強い力で握ればいい。何をしても助けられないと感じるなら、もっと違う形で助ければいい。

 どんな形であれ戻ってさえくれれば、いくらだって助ける術があるのだから。

 だから、私はこの人から目を逸らしてはいけない。人を助けるということの難しさを教えてくれたこの人のためにも、未来に出会かもしれない人のためにも。

「……見つめていくしかないのね、この人のことを」

 お父さんの視線が私に刺さった。

「リーベ――」逡巡したかのように少し動いた後、その視線が外れる。「――ああ、そうだね」

 村上さんの調べ上げたデータを改めて見ていくと、情報源になった団体やメディアをまとめたディレクトリが見つかった。

「公安はもちろん、幾つかの探偵事務所もあるのね……それに、マシニスト団体もイマシニスト団体も」

「だいぶ幅広く調べてたんだね。僕が聞いたことのない団体まである」

 手当たり次第にそのディレクトリにあるファイルを開いていくと、一つの団体に目が留まった。

 ≪アンドロ(A)イド攻撃(O)妨害の会(I)

「ねえ」創設者の経歴を読み進める。「この人、もしかして葵さんに助けられた人じゃない?」

 2105年に遭ったジャパン・アンドロイド・プロダクツ社のテロの後、≪人間同盟≫や他のイマシニスト団体に対抗するために設立した会だという。インターネットで検索してみると、実際に妨害した事件は乏しく規模も小さいけれど、ほかの団体への情報提供を盛んにアピールしていた。

「確かにテロ攻撃の後に設立されたみたいだね」

 気になったのは、村上さんのメモだった。

“金の亡者”

 たったその一言が記載されたのは一年前だった。

――金の亡者?

 正直に言って、この時代にそこまでお金が必要になるとは思えない。

 基本的なライフラインはベーシックインカムとPCWでの娯楽を含む配給で保証されており、仕事――多いのはAIの監督業務や修繕――をしていれば発展的な収入も得られる経済システム。個人単位で見れば資金が枯渇することはほとんど無く、集団単位で見れば構成員からの徴収や賛同者からの寄付である程度の収入源を作ることができる。

 アングラのような特殊経路で得るようなものでない限りは、物の価値は政府AIによる価格統制が行われているから極端な値上げも値下げも起こりえないために、中長期的にも予算が組みやすくなっている。情報は確かに価値の上下が大きいものだけれど、≪AOI≫の実績を考えれば予算に占める割合なんてたかが知れているだろう。

 事実、大量のイマシニスト団体やマシニスト団体が乱立しているのは、設立にも維持にもお金がかからないからだ。団体の収入も支出もある程度の範囲でコンパクトにまとまっており予想もしやすいから、いくらでも気軽に作れる。

 それこそ、主義主張に共感できる部分さえあれば、いろんな団体を掛け持ちだってできる。

 以前にお父さんが言っていたこと曰く「≪人間同盟≫みたいな大規模で過激な集団ならともかく、≪マールス・ルーメン≫のようなそこら辺でデモや街頭活動をしている団体の総資産は構成人数とその平均年収を掛け算してそれを1000で割ったくらい」だという。それくらいの規模感で十分なのだ。

「ねえ、この『金の亡者』っていうメモ、どう思う?」

「違和感がすごいね。他の団体についてみても――」村上さんが接触したそれぞれの団体について、残したメモを流し読みしていく。「――ここまで端的で短いレポートは無い。よっぽどのことがあったんだろう」

 村上さんが残したレポートはあの時のテロについて知っているかどうかという観点だけではあったけれど、担当者の態度や自分の知っている事実との齟齬がないかという検証、場合によっては応接室の状態から資金の規模についても考察がされている。≪AOI≫を除く唯一の例外が、≪人間同盟≫過激派の主流派に接触したときに“門前払いを食らった。さすがに無理か”だ。

「何があったのかしらね」

「……」

 長い熟慮を邪魔しないようにしばらく黙っていると、お父さんに問いかけられた。

「会ってみたい?」

 私は即答する。

「もし、できるなら」

 情報がないのなら、会わないと分からない。分からないのなら、判断することもできない。

 それに望みは薄いけれど、“A”さんからもらったデータ以来情報のない≪ホワイト・ハイドランジア≫についても何か知っているかもしれないのだ。

 一応、≪ホワイト・ハイドランジア≫のホームページ自体は見つけたけれど、表面的にはごくごく真っ当な非営利団体であることしか分からなかった。それに向こうは私たちのことを知っている。下手にアクセスして、二の舞を演じるわけにはいかない。

 真正面から接するわけにはいかないのが、私たちの動きを止めていた。

「……わかった」お父さんは一つため息をつく。「出来る限り、接触してみるよ」


≪第十九節 21311127≫

 それから一週間も音沙汰がなく、居ても立っても居られない私は、お父さんに問いかけた。

「≪AOI≫の件はどうなったの?」

 お父さんは仕事――ホログラフィック・ディスプレイに写るどこかのアンドロイドをまとめて修理していた――から目を離さず、「まあ、なんとかね」

 私は中核システムと協議して、お父さんのことをネットワークから切り離した。

「ちょっと、それはないんじゃないかな?」

 ホログラフィック・ディスプレイに写るのは“Disconnected”の文字だった。

「対話型システムにしたのが間違いよ」

「いつの間に中核システムと協議できるようにしたんだか……」お父さんはため息をついた。「まあ、君のことだ。すごいね、問題のないアンドロイドのデータを開いたり閉じたりしていただけなのを看過するとは」

「中核システムが教えてくれたから。ちょっと交渉するだけで色々教えてくれるの」

「……≪AOI≫について知ることが君にとって良いのかと言われれば、僕はその自信がない」

 私は書斎の壁にもたれかかった。

「どうして?」

 お父さんは椅子に体を預けた。

「僕も改めて調べた。そして≪AOI≫もグソー派の件も、君が関わるべきでは無かったと結論付けた。僕が内々で処理すべきだったんだ」

「……そういうことばかりじゃない」

「否定はしないよ。でも、この件は特に、ね。僕は彼らに関わることが君にとって良いことだと思えない」

「どうして?」

 その問いに飛んできた答えは的外れなものに感じた。

「リーベ、人というのは生来良いものだろうか、悪いものだろうか?」

「性善説と性悪説?」

「一般論じゃない、君自身の考え方を知りたい」

 私は少しだけ考えて、答えを口にした。

「その問いには『良い』と『悪い』の定義が欠けているから、答えられない。例えば動物の自然な行動には攻撃の形として報復があるけれど、その行為は被害者側には『悪』として捉えられても、加害者側は『善』として捉えうる。だから、法というもので縛ったのでしょう?」私は腕を組んだ。「あえて言うなら……自然状態では個人の価値観において『良い』事しかしない。でも秩序というものに照らし合わせれば、『悪い』こともあるから教育や法律が存在する。とはいえ法や秩序は時代によって変わってしまうから、『善悪が生来的なものか?』という問いに、普遍的で絶対的な答えは出せないと思う。それでも私は『人は生来善人である』って前提を持って人と接したいかな。少なくとも、悪いことをしたいから悪人になったのではなく、善いと考えたことをした結果として悪人になったほうが私は接しやすい」

「じゃあ、もっとミクロに考えてほしい」

「ミクロに?」

「君にとっての『悪人』を肯定するような組織に対しても同じ態度をとれるかい。そういう組織は『悪人であることが悪いことではないんだよ』なんて甘言を弄して、生来『善人』である人間ですら腐らせる。君を殺す……いや、君ならこういうべきか。『君の大切な人を殺す悪人』の製造所を君は許せるかい。そうやって育てられた『悪人』には君が背負ってきた良心の呵責も責任もないんだ。なぜなら、『こうすればいいんだよ。責任は無いからね』ってそいつらに言われているからね」

「……」

 グソー派に抱いた感情を思い出す。

 そんなものが存在するとして。

 許せるかどうかで言えば、許せない。

 私が傷つくのは構わない、それだけのことをやってきた自覚はある。でも、私にとって大切な人たちはもう十分自分を罰し戒めてきた。そのために重ねた罪も含めて、自分を監獄に閉じ込めた。

 そんな人たちの傷跡をメスでなぞりほじくり返すようなことを推奨するような組織を、私自身は許せない。

「……無理ね」

「なら、君はどうする」お父さんはため息をついた。「僕は潰す以外、選択肢が思いつかない」

 だとしても、許せないから消すというのは違う。

 あの時、“A”に言った言葉を忘れたわけじゃない。

 目の前に居るのは人なのだ。絶対に何か考えがあるからそう答えたのだ。

 それを知らずに否定はできない。

「私はそれでも、話し合うと思う。きっと最初は喧嘩するし、場合によっては制圧だって選択肢に入るかもしれない。でも、それだけ考えられる人よ? 『どうしてその考えになったのか』って、とても大切な視点だと思う。それを知るには話し合うしかない。憎悪も憤怒も抱いたって良い、暴言や下品な言葉だって出る、それが人というものだもの。そのうえで、客観的に受け止めて自分なりに理解して、折り合いがつく場所を選ぶべきだと思う」

「理解できなかったら?」

「理解を試みたうえでその意見が出るなら、いったん距離を取るほうがいいでしょうね。でも、試みもしないのにそう判断するのは早計だと思う」私は首をかしげる。「……それが、どうして私がグソー派や≪AOI≫に関わっちゃいけないことにつながるの?」

 お父さんは両手を顔の前で組み、両肘を机についた。

「君を守るためだ。ほぼ確実に失敗する試みをさせるわけにはいかない。リスクばかりでリターンが得られない可能性があまりに高い。そして、特にグソー派は君に傷跡を残すだろう」

 私は寄りかかっていた壁から離れて、机に開いた両手をたたきつけた。

 机が割れそうな轟音を立て、お父さんの身体がびくりと反応した。

「そう思ってくれるのは嬉しい」

 お父さんの愛情故だというのは分かっている、知り尽くしている。でも、だからこそ私がやらないといけない。

 何があっても戻れる場所のない人がこんなことに関わってしまえば、癒す暇もないまま傷つけられて最期には命を取られるだけだ。でも、帰る場所があるなら逃げることも相手を学ぶこともできる。だからこそ、私みたいなものがやらないといけない。そうでなければ、私の知っている人はもちろん知らない人まで被害に遭うだろう。

 何よりも。

 目の前で苦しんでいる人がいて。私には助ける手立てがあって。他に誰もいないなら。

「でも、私がここにいるから。目の前に『助けてほしい』とか『苦しい』とか訴える人がいて、将来『辛い』とか『痛い』とか叫ぶ人が減らせるなら」私はテーブルに突いた手を握りしめる。「私は傷つけられたって良い。だって、私は治るから。茨だろうと剣山だろうとなんだって良い、歩んで魅せる」

「リーベは痛いじゃないか」

「お父さんが居て、コンちゃんが居て、カノン君が居て。沢井先生も、周防さんも居て。そして私が殺した人たちが歩むことをできなかった道が目の前にあるのなら。いくらでも我慢してあげる」

「リーベ、復讐に生きるのは辛いことだよ。それも、自分に対しての復讐だなんて」

「復讐?」

 私は机から手を放し、肩をすくめた。

「私がやりたいのはね、共に歩むこと。私は誰かに傷つけられたって皆がいるから治るもの。痛い、苦しい、辛い……そういう気持ちは私だって感じる。でも、私は恵まれた立場だから。死者の思いも生者の願いも、背負える。それが私の出来ることで、私は皆がそういう生き方をしても絶対見捨てない」

 お父さんが顔をしかめる。

「良いのかい」

「ええ。貴方が前を歩くなら、私はいつでも隣にいる。どんな人でも、そうやって励ますから」

「リーベ――」お父さんが何かを言おうとして、まるで言ったところで聞かないだろうという面持ちで首を横に振る。「――まあ、僕は君の親だからね。娘の挑戦に水を差すのは間違いか」

 私は微笑んだ。

「でも、いざというときは助けてね?」

 次はお父さんが肩をすくめた。

「全く、我儘な娘になっちゃったもんだ」お父さんが微笑み返した。「まあ、ずっと僕の我儘を聞いてもらってきたからね。独り立ちするまでは我儘を聞いてもらう立場だったけど、そのあとは我儘を聞いてもらう立場になるってことかな」

「いつまでも子供と親ではいられないもの。大人には大人なりのやり方が、ね」

「それは君が言う言葉じゃないよ。でも、今回は君のやり方に付き合うとしよう」

 ふとここまで警告されてきたことを考えると、私は碌でもない結果を招く行動をすることになる。

 その自責の念から、目を伏せた。

「ここまで言ったけれど……ごめんね。冗談や修辞では片づけられない結果になるかも」

「謝罪を受け入れられるのは強い人間だけだ」お父さんが肩をすくめた。「強い人には強い人が必要、だろ?」

 私は申し訳なさから軽く頭を下げた。

「ありがとう。酷い結末にはしないから」

「心配はしないよ。リーベらしい終わり方をする、そう思っているからね」


≪第二十節 21311225≫

 それからは早かった……というより、すでにお父さんはもう当たりをつけていたのだろう。ただ≪AOI≫側の都合が悪く、会うことができるのは一か月ほど先になってしまった。

 奇しくもクリスマスのその日に設けられた訪問は、いったい何を齎すのだろうか。

 その思いを心の隅に追いやり、アングラへ歩く私たちはロングコート――多層単分()子超高分()子量ポリ()エチレン()で出来た耐衝撃性に優れる装具だ――の端を翻す。

「リーベ、いいかい。僕が知っているよりも、どうもアングラは活発らしい。イマシニストとマシニストの抗争は頻発してるし、出所不明の銃器も出回っているらしい。あんまり派手に動かないこと。危険を感じたら逃げること。いいね?」

闘争(Flight)より(over)逃走を(Fight)の原則ね」私は僅かな物音にも身を固める。「ええ、分かっている」

「そうそう。命あっての物種だよ」

 コンクリート製の古ぼけた大きなビルの前に立つ。≪AOI≫との会合の指定位置だ。

「リーベ、逃走ルートは?」

 外観を見回す。大きな窓は無い。仮にあったとしても強化ガラス製で逃走ルートとしては使いにくいだろう。

 とはいえ、二人は並んで走れそうな非常階段が外にある。

「非常階段があるから――」出口に使えそうな場所は2か所以上ある。この大きさなら階段も二つあるはずだ。「――逃走ルートは三つ作れる。持ってきた発煙筒を使えば、攪乱できるはず」

 軍用品ではない黒色火薬発煙筒だから、限定的にしか使えないだろうけれど。

 ≪AOI≫との会合前に、4MPE製ロングコートと共にお父さんが入手してきたのだ。曰く、「ネットで探せば、軍用規格でなくてもそれなりの物は探せるんだ」とのこと。

「いいね」お父さんがロングコートの襟を正す。「よし、行こうか」


 ビルの内部も外見と変わらず、床のひび割れや壁紙の剥がれなどが目立つ。確かに資金はなさそうだ。

「お父さんが居た頃の≪人間同盟≫過激派の支部ってどんな感じだったの?」

 ささやくように小声で尋ねると、お父さんは目線をこちらに向けずに答える。

「もう少し豪華だったね。急進派だったころは資金が無かったから、廃棄された地下鉄の駅とかが支部だったけど。……≪AOI≫のアセットは恐らく限定的なんだろう、テロリストは基本的に見栄っ張りだからね、『支援者(パトロン)が見るのは思想じゃない、顔だ』っていうのは昔から言われていたことだから」

 かなり遠くから何かの爆発音が聞こえてきた。抗争だろうか。

「だとしたら、村上さんのあの言葉……気になるね」

「そうだね」お父さんが頷く。「あと、基本的な話だけど。どんな組織も、発展的な事をするならパトロンは不可欠だ。≪人間同盟≫や今は弱体化したとはいえ≪GWRH≫が強かったのは、パトロンがしっかりしているから。構成員の資金力にプラスアルファできるパトロンの存在は、世界的に活躍するなら必須なんだ」

「じゃあ、もしかして≪AOI≫って……」

「ね? 僕が君を巻き込みたくなかったって理由の一端が分かるだろう?」お父さんが一瞬私を見て目を逸らす。「この組織は期待できるような規模じゃない。碌な情報は仕入れられないはずだ」

「それなら――」その後に続く言葉を取り下げる。「――ごめん。私が無理を言ったから」

「もう一回いうよ。『娘の挑戦に水を差すのは間違い』だって。僕は9割くらい≪AOI≫との接触に批判的だった。でも、残りの1割に娘が賭けるなら。僕は賭けを(ベット)する」

「……ねえ、どうしてそこまで信じられるの?」私が言葉を紡いだ直後に、一拍も入れずにお父さんが答える。「僕が育てた娘だからだ。それに損失を補填できるあてがある賭けはそこまで緊張しないんだよ」

「もう。何も言い返せないじゃない」

 私の言葉にお父さんがにやりと笑う。

「親は常に子供の壁でないといけないからね。じゃないと、逞しく育たないだろう? ……その分、親も強くないといけないんだけど」

「……強さって剛柔併せ持っての物だものね」

 指定された部屋の前に着くと、『お入りください』という機械音声とともにドアが開く。そこに広がるのは、まるで尋問室のような無機質な白い壁と灰色のビニールが敷かれた床、硬そうなスチール机とそれを囲む3脚のパイプ椅子だった。

「さて、ちょっと『お話』といこうか」


 私たちが着席してから数分経って現れた60代くらいの女性は、辛苦を顔に刻み込んだような面持ちだった。どこかが痛いのか、足や腰をかばうような歩き方をしている。

「あなた方が、雪村尊教さんと雪村レナさんですね。私は山下蘇芳(すおう)と申します。アンドロイド攻撃妨害の会代表です」

 温和ながらやや焦りもあるような口調。それにお父さんが応える。

 この手の交渉なら、お父さんに任せる方がいいだろう。

「初めまして、山下さん」

「ところで、どのような用件で? コンタクトの時、目的については触れておられなかったと思いますが」

「端的に申し上げれば、私たちは≪ホワイト・ハイドランジア≫という組織を追っています。≪AOI≫はアングラに居を移して長い……何か、私たちでは知らないことを知っているかと思いまして」

「ふむ」山下さんが腕を組み、目を泳がす。脳を使っている証拠……少なくとも最新の情報は得られなさそうだ。嘘をつく可能性も十分にある。「いくつか知っていることはありますが、交換条件がございます」

「許容範囲内であれば。もとより交渉は前提です」

「少額ながら継続的な資金提供、もしくはまとまった額の資金提供を約束していただけば」

「額は?」

「そうですね、少額であれば月に数百万程度、まとまった額であれば一億程でしょうか。具体的な額はすり合わせさせていただければ」

――なるほど、金の亡者と言われても仕方ない。

 ドア・イン・ザ・フェイスだとしても、だいぶ過大な額だ。一般市民の月収がせいぜい数十万の前半であり、私たちでさえ百数万に達するのはまれだというのに。まとまった額の一億という数字も、私が把握している貯金の半分以上だ。

 不確かな情報に対して、到底払える額ではない。

「……だいぶな額だね?」

「私どもの情報は貴重ですから。もし、お支払いいただけないということであれば、提供はできないとお思い下さい」

 お父さんと目が合う。考えていることは同じらしい。

「残念ながら、交渉の余地はなさそうですね。すり合わせるには隔たりが大きすぎる」

 彼女の目が泳ぎ、口調に焦りが混じる。

「……わかりました。その半額ではいかがですか?」

「試すつもりはないが……≪ホワイト・ハイドランジア≫がもともとはどの団体に由来するかは知っているんだよね」

 彼女の声が震えを伴いながらも大きくなる。自信がない証拠だ。

「≪人間同盟≫ですよね」

「その中の、どの派閥に属していたと考えられる?」

 問いから0.3秒程度で発される彼女の言葉。人間の反射速度は最短で0.2秒だ。

「主流派です」

 反射的かつ断定して発される言葉に真実があることは少ない。あるとすれば、あらかじめ準備していた時だけだ。

 けれど私たちは、彼女にその準備をさせなかった。

 何より私たちは、≪ホワイト・ハイドランジア≫が≪人間同盟≫グソー派を源流としていることを知っている。

「……あなた方は信用できない。仮に寄付金の額が妥当なものであったとしても、払うに値しない」

 お父さんとのアイコンタクトの後、二人して席から立ち上がる。

 彼女が立ち上がり、慌てたようにこちらに寄ってきた。

「ま、待ってください。私どもは他にも情報を――」

「あなた方が集められるような情報なら、僕たちはより深くまで調べられる」お父さんが残念そうな笑みを浮かべた。「第一、僕は悲しいことにアングラじゃそれなりに知名度があるんだよ。知名度が情報収集に役立つことは、よく知っているはずだが」

 彼女はプライドも何もかも投げ捨てたかのように、私たちに土下座した。

「大変申し訳ございません、私は嘘をつきました。でも、あなた方の資金提供を少しでも取り付けたく……そうでなければ、今は亡き親友の名前を冠したこの組織を守れないのです」

 面食らって立ったままの私の代わりに、お父さんが屈みこむ。

「そうやって、村上さんの同情を買おうとしたのかい」

「なっ……」

 彼女は驚いた顔で私たちを見上げる。

「村上葵さんのために、村上武史さんが探した情報をもとに君たちにたどり着いた」お父さんが手の関節が白くなるほど右手を握りしめる。「だが、これまでのふるまい……もし僕が村上さんの立場なら、君の首を絞めるだけじゃなくねじ切ってみせるだろうね」

「お父さん……」

 恐怖からか呆然としている彼女を置いて、お父さんが怒りを抑えられない目で私を見る。

「大丈夫だよ、レナ。そんなことしないから。ただ、死者の名前を借りるならもう少し誠実であるべきだったね」

 ロングコートの裾を翻して、お父さんが部屋を出ていく。

 私はそのあとをついていった。


 ビルの出口につながる通路を辿りながら、冷静そうなお父さんに声をかける。

「大丈夫?」

「ん?」私を見てお父さんが微笑む。「予想通りだっただけだよ。ショックは受けていないさ……ただまあ、振出しに戻っちゃったね」

「そうね」

 時折、私にもわからなくなる。この人の見せた怒りが演技なのか、それとも隠していた本心からこぼれ出た物なのか。

 それ以上の言葉を発することもないまま、ビルのエントランスまで降りると、何かの視線を感じた。

――敵意? いえ、それにしては薄い。

 お父さんの腰に手を当て、歩くように促す。

「どうしたの?」

 もし私たちに用があるなら、ここで襲ってくるはずだ。むしろ、気づかれないようにした方がいい。

 私はお父さんにささやいた。

「歩き続けて。誰かが私たちを見ている」

 目だけで辺りを探す。私が気づけるような気配だ、痕跡があるはず。

 すると、ビルの前に一台の白いバンが止まっていた。旧式のハイブリッドカー、レベル3自動運転システムしか搭載していないタイプの車だ。

 助手席のドアが開いて、黒いロングコートを着た一人の男が降りてくる。

 私が感じた敵意とも言えない視線を湛えたまま、彼が道をふさぐように私たちの前に来た。

 彼と私たちは向かい合って立ち止まる。ロングコートの中には、ストックの折りたたまれた自動小銃が見えた。

「雪村尊教……何故、お前が此処に?」

 はい、どうも2Bペンシルです。

 ……本当に、本当にお待たせいたしました。読んでいただきありがとうございます。

 おおよそ一年前に環境が変わったはいいものの、なかなかすさまじい場所でしてね。そこの改善とか教育とか諸々やってたら、一切筆が進まなくなり……。本来、そういう時はインプット増やすべきなんですが、その時間すらとれておりませんでした。現に一年半は新作はもちろん映画を観れておりません、観たい!

 で、合間合間で最近増えたコンパニオン型AIを触っていたんですが、どうもそれがインプットの代替になっていたようで。

「……AIとストーリー作るよりも自分でストーリー書く方が楽しいな?」

 そう思ったら、早かったですね。去年ほとんど書けなくて半分くらいで止まっていたのに、ここ数ヶ月で完成まで行きました。

 『デスストランディング2』の効果もあった気がします、あれはやってよかった……シリアスで重厚なテーマとちょっとやりすぎくらいのあの遊び心はとても心が揺れました。しばらく鼻歌で『いい湯だな』と『BB's Theme』歌ってたくらい。あと、ニールとダイハードマンが非常に良かった、私はニールで泣いてダイハードマンで笑いました。

 とまあ、ニュース見て頭抱えたり(なんで私の考えた世界より酷いことになってるんだ)精神面とか色々抱えたりしておりますが、職場については改善の効果が現れたり運よく異動できたりして早く帰れるようになりました。残業60 h超が20 hまで削減できたので上出来でしょう。

 そんなわけで趣味の時間と気力が増えましたので、今年は資格の勉強しつつ第四章後編と第五章書いていきたいですね。後編のプロットはある程度決まっているので、次は一年半後くらいの投稿を目指したいところ。

 では皆様。今回も読んでいただき、そして待っていただいてありがとうございました。これからもこんな感じで不安定ながら書き続けていきたいと考えておりますので、何卒よろしくお願い申し上げます。

 大変な世情ですが、何とか乗り越えましょうね。


【参考文献他】

≪第十一節≫

・人型ロボットに市民権を与えた最初の国家が登場 - GIGAZINE

https://gigazine.net/news/20171027-citizenship-humanoid-robot/

・総務省:令和6年版 情報通信白書 第Ⅰ部 P.59

https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/r06.html

・(作中では参考にしていませんが興味深い文献でした)

教皇庁教理省、文化教育省 人工知能と人間知能の関係に関する覚書 | カトリック中央協議会

https://www.cbcj.catholic.jp/2025/05/26/32551/

≪第十二節≫

・Googleがデータセンターによる水不足問題を解消するための取り組みについて公開 - GIGAZINE

https://gigazine.net/news/20260604-google-water-stewardship/

≪第十三節≫

・『リア王』(シェイクスピア/福田恆存訳/新潮社)

≪第十五節≫

・『河合隼雄 物語とたましい』(河合隼雄/平凡社)

≪第十七節≫

・「私たちは埋葬の方法を新しいものに変えるべきではないか?」という指摘 - GIGAZINE

https://gigazine.net/news/20170902-way-of-bury-the-dead/

・『すばらしい新世界』(オルダス・ハクスリー/大森望訳/早川書房)

≪全体≫

・『われはロボット』(アイザック・アシモフ/小尾芙佐訳/早川書房)

・Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8

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