残した人と残された人 “宮本灯”1話
残された人はもう少し自分に出来る事はなかったのだろうかと悔やみ。
残した人は心配をかけてしまった事を悔やむ。
1999年6月14日。私はこの世に生を受けた。
東京のある産婦人科病院で産まれた私の体重は2700g。理想的な正常出生体重児である。
看護師さんから私が無事に産まれたと伝えられた父は大泣きしたそうだ。普段は感情を表現するのが下手で、いつも仏頂面をしている父がその場で泣き崩れ、看護師さんが声をかけるまで、ずっと泣き続けていたという。
母は産まれてきた私を初めて見た時、最初に感じた事は”漸く出てきてくれた”という気持ちと安堵感だったという。その後、”無事に産まれてきてくれてありがとう“そう、私に感謝の言葉をかけたそうだ。
そして、私を初めて抱き抱えた時、涙が溢れでたという。
愛おしい。ただ愛おしい。そんな暖かい感情が母の心を包んだのだそうだ。
父は私の名前を”灯”と名付けた。
私は中学生の頃、父に名前の由来を尋ねた時、こう返ってきたのを覚えている
『いろんな人の支えになるような。灯になるような人間になって欲しかったんだ、お前には。今でもそう思ってるよ』
”宮本 灯” それが私の名前だった。
銀行員の父と、専業主婦の母、そして今年大学受験を控えた高校3年生の私。3人の幸せな暮らしは続くと思っていた。続く筈だった。
私は2016年6月14日。私の誕生日の日だ。18歳でこの世を去った。父と母が私が死ぬ直前、私の名前を必死に呼んでいたという事は鮮明に覚えている。
そして死ぬ直前、この二人の元に産まれて良かったと、そう思いながら死んでいったという事も。
そして覚えている。医者が私が死んだという事実を両親に伝えていた事を。私が死んだ時
間を。
私は暗い世界で意識を取り戻した。暗い暗い、何もない世界。私は悟った。これは死後の世界だと。
『もしかして私地獄に落ちちゃったのかな』
そう、ポツリと口に出してみた。何か動きを見せなければこの暗闇に呑まれるような気がしたからだ。
『残念ながら、ここは地獄じゃありませんよ?』
耳元で声がした。恐怖。恐怖。ただでさえ暗闇の中という空間。なんの気配も感じさせずに耳元に発せられた言葉に私は只管に恐怖した。18年間生きてきた中で全く経験が無かった本物の恐怖である。
『そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。私はお化けじゃありません。』
声の主はクスリと笑う。私は恐怖で何も出来ずに、ただ震えるしかなかった。
『真っ暗なのがいけないのですかね?やっぱり。前の人もかなり怯えてましたね…そういえば。では、これは如何でしょうか。』
瞬間、目の前が光に包まれた。暗闇の世界から急に明るい世界に変わったのだ、暫く目が環境に追いつかず、何も見えなかった。漸くして目が慣れ、視覚が戻ってきた時私は目を疑った。
辺りに広がるのは色とりどりの花。白や黄色。先程の暗闇とは対照的な美しい世界だ。
そして目の前には一人の“黒い”少女が立っていた。
『どうですか?驚いてくれましたか?後…もう怖くありませんか?』
私は何が何だか分からずにただ一言、小さく呟いた。
『花…?』
『そうなんです!お花!私お花が好きなんです。見てると癒されるって感じがしませんか?』
少女は私が言葉を発してくれたのが嬉しかったのか弾むような口調で答える。
私は、自分が段々と恐怖から解放されていくのを感じていた。
『貴方は…?』
『自己紹介がまだでしたね。私はルナ。屍人送りです。これから灯さんが成仏するまでのサポートをさせていただきます。』
少女は深々と私に頭を下げる
『貴方の想いを…残してきた人々に。伝えなければならないのです。』
拙い文章ですがよろしくお願いします